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楽しい転生  作者: ぱにこ
122/122

其の拾四

 アベルが村長と遊んで時間を潰している一方、子供達はというと━━━━


 御婦人をターゲットに、聞き込みを行っているのはカリーヌ。

 御婦人方は、背開きにされた魚に塩を振りかける作業を黙々とこなしている。


「子供を寝かしつける時に物語を語り聞かせたり、本を読んであげたり致しますでしょう? その中で海賊のお話はございませんか? 」


「そうは言ってもねぇ……うちの村には、本なんてないし、うちの子に限らず、村の子は外遊びで疲れて、夕飯後は寝ちゃうし…………」


「そうそう! ご飯食べながら、ウトウトしちゃったりね」


「うちの子もよ! 口の中に食べ物を詰めたまま寝ちゃうから口の中の食べ物を取り出して、歯磨きさせるのが大変なのよ━━」


 御婦人方は作業を繰り返しつつも、カリーヌの話に答えてはくれるが、有益な情報は一切出てこない。

 否、視点を変えれば育児に関する情報は将来、カリーヌの役に立つかも知れない。

 食事中、寝落ちする子供の口から、噛まれずに食べ物を取り出す方法や、寝落ちした子供を起こさない様に、歯磨きをさせ寝所に運ぶ方法等々……。

 こういった知識も無駄には出来ないと、カリーヌは御婦人方の話に耳を傾けている。

 しかし、


「それでね、うちの亭主ときたら━━」


 子供の話から脱線し、旦那の愚痴に切り替わってしまう。

 まだ10歳の少女が聞いてよい話ではないと判断したカリーヌは、慌てて口を開く。 

  

「あっ、あの! ……この地に残る伝承でも構いませんわ」


「━━ん? 伝承? ……何かあった? 」


「はて? 」


「そもそも、私達はこの地に嫁いで日も浅いしね。生まれも育ちもここの人達か、嫁いで長い年月暮らしている人に聞いてみるのが一番だと思うよ」


 よくよく聞いてみると、嫁いできた年数により、与えられる仕事が違うのだとか。

 年数の経っていない御婦人は、単純作業である『魚の干物作り』をし、年数の経っている御婦人は『魚を捌く作業』を専用の小屋で行っているとの事。

 そうとなれば、そちらに聞く方が賢明だろう。

 カリーヌは、御婦人方に礼を言い、教えられた小屋に向かった。


「ふぅ……スープの味付けの違いが喧嘩の元になるなんて……」


 何やらブツブツと呟きつつ━━



 ◇ ◇ ◇



 ララは、子供達を中心に聞き込みを行っていた。

 

「ねぇ、君たち。面白いお話とか知らない? 」

 

 木の枝で戦い遊びに興じていた小さな男の子達は手を止め、ララに視線を向ける。

 男の子達は一瞬、訝し気な表情を浮かべるもララが子供であった為、警戒を緩め答えた。


「ぼく、しらな~い」

「ぼくも、しらな~い。おねえちゃんはしってるの? 」


 男の子達に問い返され、ララはむむぅっと唸る。

 

「う~ん……面白い話……面白い話……あ! この前なんだけど、お姉ちゃんのお友達がね、お空に向かって大声で叫んだの」


「うん、それで、それで? 」

「はやく、はやく」


 ララの様に村人ではない人間から語られるお話━━冒険譚は、最高の娯楽。

 どんなオチが待ち受けているのか?!

 興味津々といった具合だ。

 その反応に気を良くしたララは、ニッコリ微笑む。

 そして、溜めに溜めてこう続けた。


「するとね、鳥さんが落ちてきたのっ! 」と。


「…………? 」


 ポカンとする男の子。


「?? …………なんで? 」


 わからないなりにもどうにか理解しようと頑張った末、説明を求める男の子。

 

「えっとね。お友達がね『あっ! あれはとても美味しい鳥よっ! 』って叫んだの。すると、鳥さんが━━」

「おねえちゃん。それはもういいよ」

「うん。さけんだだけで、どうしてとりがおちてくるの? おちてきたらおもしろいの? 」


 男の子達に冷静に突っ込まれてしまうララ。

 ここで、ふと気付いてしまった。

 確かにこれだけを聞いて何が面白いんだろう? と……。

 そして、ルイーズの面白さを真に伝えるべく、ララ自身が取った手段は━━


「まず、お友達との出会いからお話からするね━━」


 ルイーズとの出会いから今に至るまでを語る事であった。

 その話を聞かされて、男の子達がどんな反応をしたのかは……。

 ルイーズに会おうと、ララの後ろを付いて回る男の子達を見れば、一目瞭然だろう。



 ◇ ◇ ◇



 ララとカリーヌが、真面目に聞き込みを行っている中。

 フェオドールとナギは合流し、屋台で購入した何かを貪り食っていた。


「聞き込み調査って飽きるね……もぐもぐ……」


 串に刺さったそれは、香ばしく焼かれており。


「何か有益な情報得られた? ……はむっ」


 一口頬張れば、旨味たっぷりな汁が口いっぱいに広がる。

 

「この美味しいのは、『クラーケン』なんだって……はむはむ……」


 噛む度に、程よく抵抗してくる弾力もさることながら。


「……ごくん……それは、知ってる」


 咀嚼する程に、味が染み出てくる素材の奥深さと。

 

「それもそうか……一緒に買ったんだもんね……はむっ」


 研究に研究を重ねたと思われる()()が全体を纏め上げ、至高の一品として昇華された串焼き。

 それが、なんと!

 

「クラーケンって……どんな魔物なんだろう? 」


 銅貨2枚。


「さぁ? 足がいっぱいあるって言ってたよね。虫みたいなのかな? 」


 成人男性も大満足するボリュームが。

 

「……フェオドール、食べ残しだけど、いる? 」


 フェオドールの一言で、苦行へと変わった様だ。

 ナギは顔を歪め、フェオドールに串焼きを差し出す。

 

「もう、お腹いっぱいなの? 少食だね」


 そんなナギの心情を知ってか、知らずか。

 フェオドールは串焼きを受け取り、ちくっと皮肉る。


「…………」


「でもさ、虫とは限らないし、美味しいのなら食べちゃえば?! 」


 やはり、確信犯のフェオドール。

 されど、言っている事は間違っていない。

 

「…………いや、無理。正体を知るまでは、安心して食えない」


 ナギの脳内で虫の足がわさわさと蠢いている現状。

 再び、串焼きを頬張るのは、苦行以外なにものでもない。


「ナギって、繊細なんだね。そんなんじゃあ、ルイーズに、嫌われるよ」


 ルイーズの名を出し、串焼きをホラホラとナギの口元に当ててくる、悪戯っ子のフェオドール。

 ナギは口元をギュッと閉じ、串焼きを払い除けた後、真顔で断言する。

 

「いや、嫌われはしない」


 ルイーズがそんな些細な事で、この俺を嫌うとでも思っているの?

 はっ! そんなことある訳ないと言った風だ。


「まあね。嫌いはしないだろうけど、呆れられるよ」


 うんうんと頷き、ナギの言葉を肯定しつつも追撃を繰り出すフェオドール。

 すでに自分の分の串焼きは食べ終えた様だ。

 フェオドールが本当に食べていいの? と、窺うように見つめてくるのに対して、いいよと答えるナギ。


「いや、呆れるとかもない」

 

 フェオドールはナギから受け取った串焼きに舌鼓を打ちつつ。


「確かにね。でも、笑われる━━いてっ! なんで、叩くの? 」


 反撃するも、ナギにポカっと叩かれてしまった。


「それと、顔が怖いよっ」


 ナギは全ての表情筋を無にし、無言でフェオドールに顔を近付けて見つめている。

 

「…………」

「怖い、怖いっ。本当にやめてっ」


 やめてと懇願するフェオドールに、ナギは嘆息まじりにこう言い放つ。


「フェオドールがしつこいから! でも、強くは叩いてないだろう」


 確かにしつこかったフェオドール。

 ナギがイラっとして、ポカっとしたのも無理もない。


「うん。反射的に『いてっ』って言っちゃっただけだけど……でも、顔は怖かった……これ、夢に出るよ……」

 

 フェオドールは身をよじり、恨めしそうにナギを見遣る。

 ナギは口端を引き攣らせて、叩いた拍子にほんの少し乱れたフェオドールの髪を、サッと整え始めた。

 ついでに、口元に付いた串焼きのタレも拭ってあげている。

 怖がらせてしまった罪滅ぼしなのだろうか……。

 ただ単に、居た堪れなくなっただけなのだろうか……。

 

「だ、だろう。……でもさ、痛くも痒くもないのに反射的に『痛っ』とか言う時ってあるよなぁ」


 顔の事には触れず、話をすり替えようと試みているあたり、ナギは有耶無耶にしたいだけだった様だ。

 そんなナギの心情を知ってか知らずか、フェオドールは嬉しそうに笑みを浮かべ答える。


「間違って『熱っ! 』って言っちゃう時もない?! 」


 顔の事は忘れているようだ。


「あるある! 」


「あれ不思議だよね……」

 

「なぁ……」


 2人は空を見上げ、海賊とは全く関係のない。どうでいい、()()()()に思いを馳せた。


「ルイーズが居ないと退屈だね」

「だな」


 それもこれも、ルイーズが不在のせいだと認識する。

 ナギとフェオドールは、露店のおじさんに『ごちそうさま』と告げ、立ち上がった。

 退屈を紛らわせるために、退屈を呼んだ(ぬし)? ━━ルイーズの父である侯爵に、


「そろそろ、侯爵様と合流して遊んでもらう? 村長さんのお家に居るんだよね」


 遊んでもらおうと考えたのだ。

 

「その前に、ララとカリーヌを呼びに行かなくていいのか? 」


「それもそうだね。ララとカリーヌを探しに行こうっ」



 ◇ ◇ ◇



 村長宅で、アルガ村の伝承が記された書物に目を通しているアベル。


「むぅ、むむむっ」


 古代ホエール語と現代のホエール語の差は大きく、読み解けるのは歴史学を学ぶ者や頭脳もチートなアベルの様な者、代々の村長くらいだろう。


『アルベルト暦12年、3月14日。

 海賊と思しき人々がやってきた。

 南西に[判別不能]する運河からの侵入だったため、発見に遅れた』


「なんと! 海賊はホーネット地方の者だったのか……」


 アルベルト暦とは、今からおよそ400年前もの時代である。

 当時、運河を挟んだ西の大陸には、サクラ公国やフレスベルク共和国はなく。

 ヨークシャー王国、ソマリ帝国、デージー王国の3大国によって治められていた。

 そして、運河を挟んだ東の大陸にホエール連邦国━━ホエール王国があり、ホーネット王国は南西に位置する孤島の小国であった。

 ホーネット王国が、大量の船団を引き連れホエール王国を侵略したのも同時期━━約400年前。

 となれば、位置的にも書物に記されている船の図からしても、海賊はホーネットの者。もしくはそれに与する者という訳である。

 

『海賊は上陸と共に食料を要求した。

 名の通りの[判別不能]は無かったものの、拒否しかね、村の三カ月の備蓄を[判別不能]。

 彼らにとっては三週間分であるらしい、冗談の可能性もあり』 


 当時は造船の技術も未熟で、橋の建設も難航しており、ホエール王国は孤立していた。

 そんな折、若くして即位したアルベルト王は自らの威信を示す為、これまであった暦━━マックス暦━━を廃止し、新たな暦を定めた。これはマックス暦32年のことである。

 外交の足掛かりとして大型船の建造を命じたアルベルト王は、船が完成するや否や、自ら近隣諸国へ赴き橋の建設に助力を乞う。

 差し出せるものは少なかったものの、ホエール王国に住まう女性が好み身に着けている装飾品を献上する事によって、渋る3大国から援助を受ける事に成功する。

 めでたくも完成した橋によって往来が可能となり、穀物や畜肉に上等な織物などこれまでにないものがいくつも到来した。

 ホエール王国は名の通り豊かな国になろうとしていた。

 そして、海賊が現れたのはその矢先のことである。

 略奪を繰り返し、逆らう者は容赦なく斬り捨てると噂されていた海賊。

 王国の端に位置するアルガ村にも、その噂は届いていた。


『翌3月15日。

 海賊は村民から情報を得ようとしていた。

 私も[判別不能]ことによれば、財宝を探しているらしかった。

 あとで他の村民に尋ねると、種々あったものの概ねクラーケと一致していた。

 夜にはささやかながら宴を[判別不能]。

 宴は夜明けまで続いた。海賊との関係は良好だ』


「クラーケ? いや、クラーケンの事なのか? 」

 

 アベルが、ぽつりと呟く。

 古代ホエール語と現代のホエール語との違いもさることながら、名称も異なる事が多い。

 だが、アベルはこの地域で水揚げされ、名物としても取引されている海産物の一つに『クラーケン』がある事を思い出した。


「しかし、なぜクラーケンがお宝に? 」

 

『3月28日。

 暴行事件が発生した。

 酒の入った海賊によるものだった。

 船長は夜間の船外外出を禁止した。ヒューゴは右足を折った』


「この記述を読む限り、船長は良識のある人物だったようだな」


『4月2日。

 船長は近々カルマーを獲りに行くと語った。

 カルマーは巨大だ、食料にするのだろう。

 彼らは相変わらず村民に財宝の事を聞いている、成果は芳しくない』


「カルマー? カルマーとはなんだ? 」


 アベルは聞きなれない単語に首を傾げるも、先ほど捕らえた『海竜』の様に巨大な魔物の一つだろうと当たりを付ける。


「海には巨躯な魔物が多いしな……」


『4月10日。

 雲行きが怪しい。

 船長に嵐の事を話す。時々話がかみ合わない。

 出航を止めたいが、村民の[判別不能]は得られないだろう。

 ヒューゴのことがある。今でも時折熱が出ている。

 話し合った結果、グレッグを呼ぶことに決めた━━』

 

「ふむ? これで終わりか? 続きは……無さそうだな」


 海賊について記された書物を一通り目を通したアベルは手早く本を重ね、脇に寄せた。

 そして、腕を組み思案する。


「海賊が手に入れたかったお宝が、クラーケ━━クラーケンと深く関係している事は分かった。しかし、海賊はカルマーという魔物? を捕えに出て海に沈んだのか、嵐に巻き込まれ沈んだのか。はたまた、お宝を手に入れるのに失敗したのかが不明である以上、沈んだ船を見つけ、その近隣を捜索し、お宝を見つけるという目論見は潰えるな」


 アベルは瞳を閉じ唸る。


「文字が消え、文脈が不足している部分の解読は諦めるとして……土地特有の方言は、村人に聞けば何かしら分かるはず」

 

 アベルは「よしっ! 」と、膝を叩き立ち上がると。


「散歩でもするか」


 と口に出し、アベルは村長宅から飛び出して行った。


  

 ◇ ◇ ◇



 アベルは、砂浜を歩いている。

 目的もなく、ただ散歩している訳ではない。

 聞き込み調査を請け負っている子供達を探しているのだ。


「ふむ。あの子達は、何処に行ったんだ? 」


 自身が『御柱様』に呑み込まれた時の時間経過を鑑みると、愛娘ルイーズが戻ってくるまで余り猶予はない。

 とはいうものの、アベルはあまり焦っていないようだ。

 目尻を下げ、こんな事を呟いているくらいなのだから。


「『父様! 私の留守中に海賊の秘宝を発見するなんて、凄いですわ!さすが、私の尊敬する父様! 』と称えられるのがいいか……それとも『父様! 私達は海賊の秘宝を発見しましたのね! 尊敬し、愛する父様と共に偉業を成し遂げられるなんて夢の様ですわ! 』と手を取り合い賛辞を浴びるのがいいか…………ふむ。どちらの愛娘も愛らしいなっ」


 表情を引き締めれば美丈夫だというのに、今は危ないおじさんとなってしまっている事にアベルは気付いていない。

 村の子供達の視線も、村の奥方達からの視線でさえも、脳内で繰り広げられている愛娘の愛らしさとは比ぶべくもないと言った様子だ。


「おじさん! うれしそうだね! なにかいいことがあったの? 」


 そんなアベルに声を掛ける猛者がいた。


「ん? おじ、さん? お、おじ、おじさん?? 」


「うん! おじさん! すっごくうれしそうにあるいてるから、きになったの」


 アベルは動転していた。

 社交の場で同年代の貴婦人に羨望される程の若々しい肌を持ち。

 全王国騎士と手合わせをしても、息切れ一つしない程の体力を持つアベルが。

 『おじさん』と呼ばれたのだ。

 若さと体力には自信を持っていただけに、ショックは大きい。


「小さなレディ。私はこう見えて、まだギリギリ20代なのだよ。お兄様とよんでくれないかい? 」


 目の前の推定4歳~5歳の幼女に無茶な要求をするアベル。

 そんなアベルに対し、気の利く幼女は、


「おにいさまってよぶの? へへ、なんかおひめさまになったみたいな、いいかただね。いいよ。おにいさまってよぶ! でもね、わたしのことも『れでぃ』っていってね! 」


 素直に了承したのである。

 幼女はお姫様に憧れていたようだ。

 簡素なワンピースのスカートを指でつまみ、嬉しそうにくるくると回っている。


「レディ、お兄様にお話を聞かせてくれるかい? 」


 お兄様と呼ばせる事に成功したアベルは、したり顔で幼女に話を振る。


「おはなし? 」

 

「ああ、その美しい髪飾りについて教えて欲しいのだよ。それは、この村で売っている物なのかい? 」


 幼女の髪に飾られた美しい輝きを放つ髪飾り。

 これが『アルガ村』の特産品であるならば、愛しい妻と愛娘の為に買って帰ろうと考えたのだ。


「ああ、これね。ふふ、きれいでしょう。わたしの、おきにいりなの。これはね、すなはまにおちている、キラキラってしたのをひろって、おかあさんにかみどめにしてもらったのよ━━ほら、ここにも。ね、ちいさいけど、おちてるでしょ」


 幼女はそう言って、砂からキラキラと輝く小さな欠片をアベルに差し出した。


「これかい? ああ、確かに同じ輝きがある。これは、鉱石? いや、違うな。……レディ、これが何かを知っているかい? 」


 乳白色で虹色に輝くそれは、オパールに近い。

 しかし、王侯貴族として目を肥やしているアベル。

 宝石として加工されている鉱石との違いを判別するのは訳もない。


「ふふ、これは『くらーけ』のくちばしでできているんだって。うみのそこにたまった、くちばしをね。にんぎょたちが、まほうで、えいやっ! ってすると、キラキラのほうせきみたいになるの。それがね、なみにのって!? およいでくるの」


「クラーケのくちばし? 人魚が魔法でえいやっ!? 宝石になって泳ぐ? 」


 アベルは幼女の言葉を反芻する。

 そして何かに気付いた。

 アベルは、こうしては居られないと思い、アイテムバッグ化された胸ポケットから数枚のクッキーを取り出した。


「レディー。とても素敵なお話をありがとう。これは、お礼だよ。受け取ってくれるかい? 」


 愛娘特製クッキー。

 今朝、ルフィーノが隠し持っていた物を奪い━━分けて貰ったものだ。


「わたしにくれるの? ありがとう、おにいさま」


 幼女は差し出されたクッキーを嬉しそうに受け取った。


「うんうん、いい子だ。もう、立派なレディーだね」


「うん! わたし、りっぱな『れでぃ』なの」


「では、お兄様は行くね」


「うん、バイバイ! おにいさま」


 アベルと幼女は互いに手を振り、別れを告げた。


 ・

 ・

 ・

 

「ふむ、丁度よい大きさのものを借りられればいいのだが……」


 再び歩きだしたアベルは、何かを物色している模様。

 そんな折、遠くから子供達の声が聞えてきた。


「「「「侯爵様っ! 」」」」


 そう叫び、走って来る子供達。

 アベルは足を止め、子供達を待つ。

 

「はぁはぁ、侯爵様。こちらにいらっしゃったのですか。お探しいたしましたわ」


 カリーヌが息を整え、そう告げる。

 子供達は追従する様に頷く。


「探させてしまってすまないね。私も君達を探していたのだよ」

 

 アベルは子供達に詫びる。


「入れ違いになっちゃったんですね」

「なら、しょうがないね」

「「ね」」


 そう言って顔を見合わせる子供達に、アベルは砂浜に座るよう促した。


「で、何か有益な情報はあったかい? 」


「はい! クラーケンの串焼きを食べました」


 一番素早く挙手をしたフェオドールは、串焼きについて報告する。


「ほう、クラーケンの串焼きを……美味しかったかい? 」


 アベルがそう問うと、フェオドールは大きく頷き答えた。


「……とっても」と。


 フェオドールは串焼きが気に入ったと推測される。

 だがしかし、宝探しの聞き込みを行って串焼きについて報告されるとは思っていなかったアベル。

 親友ブライアンの息子であり、ルイーズの幼馴染でもあるフェオドールの斜め横の思考に軽く頭痛を覚えた。

  

「はい! 」


 アベルがこめかみを指で軽く押さえて揉み解していると、カリーヌが挙手をした。

 アベルは報告するよう促す。


「この村の御夫婦の大半は、スープの味付けの違いで喧嘩をするそうですわ」


「ほぅ……それは興味深いね……」


 アベルの頭痛が増す。


「はい。それと、奥方様が旦那様のお好みに合わせたスープを作る事が仲直りの印だそうですの」


「へ、へぇ。それも興味深いね」


 アベルは口端が引き攣るも、何とか堪える。

 

「はい」


 満面の笑みで報告を終えたカリーヌは、隣に座るララに発言を促す。

 ララは挙手をして、答える。


「はいはい! ルイーズの弟子になりたいと言う子を紹介します。こっちが『ガラン』くんで、こっちが『ガライ』くんです。二人は兄弟だそうです。」


「ほ、ほう……弟子に……すまない。ララ嬢、一つ聞いてもいいかい? 」


 もう、頭痛どころか目眩さえも覚え始めたアベル。

 なにがあって、そうなったのか、ララに説明を求める事にした。


「はい。なんでも聞いて下さい」


 自信たっぷりに、胸を張るララ。

 若干気後れしながらも、アベルは問うた。


「君は宝探しの聞き込みに行ったのではないのかい? 」


「はい。聞き込みを行っておりました。しかし、会話の流れでルイーズの人格や強さ、優しさなどを説明しましたところ、是非弟子になりたいと切望しましたので、連れて参った次第で御座います」


 立ち上がり、ピシッと敬礼して、そう告げるララ。

 アベルは眉間を軽く揉み、兄弟だという少年達に視線を向けた。


「君達は、弟子になりたいのかい? 」


「うん、ルイーズさまはつよいんでしょ? ぼくもね、つよいんだよ。ほら、みて━━」

「ぼくも、つよいんだけど、ララねえちゃんにはまけちゃったんだ。ララねえちゃんにかつためにも、ルイーズさまに、でしにしてもらう━━」


 少年達は枝をブンブンと振り回しながら、アベルにアピールしている。

 もうアベルは、いっぱいいっぱいの様だ。

 愛娘に振り回され続ける事10年。

 培われていた様々な耐性をもってしても、愛娘の学友達の思考に付いて行けず気を失いそうになっていた。

 

「ら、ララ嬢、弟子の件はルイーズが戻ったら相談してみなさい。私の一存では決めかねるのでな」


 アベルは気力を振り絞り、ルイーズに託すよう告げる。


「イエッサー! 」

 

「(……しかし、この個性豊かな学友達を愛娘ルイーズはどうやって纏めているんだ? ふむ……実に興味深い。これは、愛娘の周囲も観察する必要があるな。普段なら愛娘一点だけを見つめていれば本望だったのだが、これからの付き合いもある以上、そうは言ってられまい)」


 新たな試練として、奮起するアベル。

 愛娘以外を見るのが、それほどまでに困難なのかと問えば、きっとそうだと答えるだろう。

 きっと、ここにルイーズが居れば『似た者同士ね』と言われるに違いないのだが、不在であるため仕方がない。

 

 ようやく、心を落ち着けたアベルがナギに向き直った。


「次はナギの報告を聞こうか? 」


「えっとね……」


 ナギが口籠る。


「どうした? 有益な情報を得られなかったのか? 」


「村人に聞いたんだけど、海賊については知らないって言ってた。お宝になりそうな物について聞くと『うちの娘はどうだ? 嫁に貰うか? 』って紹介されるしさ……侯爵様、ごめんなさい。役に立ちそうな情報は得られなかった……」


 ナギが皆に頭を下げるも、アベルや他の子供達は申し訳ない気持ちでいっぱいのようだ。

 神妙な面持ちでそれぞれが声を掛ける。


「う、うむ。ご苦労であったな……」

「元気出して、ナギ」

「そうですわ。貴族に生まれた令息、令嬢なんて赤子の時から婚約者が決まっている場合もございますのよ」

「そうそう。えっ?! そうなの? 」


 平民から貴族になって間もないララには、衝撃的事実だった模様。

 驚きで目を見開いているララの頭をカリーヌは優しく撫でた。


「もう、ララったら。帰ったら貴族についてお勉強しましょうね」

「うっ……お手柔らかにお願いします……」


 しょぼんと項垂れるララを見て、カリーヌはクスリと笑った。

 勉学に関してカリーヌは、割とスパルタなのである。

 出来るルイーズやフェオドールは、このスパルタカリーヌを知らない。

 知っているのはララだけ。そう、貴族のノウハウを熟知しきれていないララだけなのである。

 そんな重い空気の中、アベルが口を開く。


「そうか、皆は有益な情報を得られなかったという訳だな」


 その言葉に一同は更に落胆する。

 そこへ空気を読まず━━否、払拭する様にアベルが明るく言い放った。


「ふっふっふ。落胆するのは早いぞ。私が、とっておきの情報を手に入れているのでな! 」


 胸を張り自信満々に言い放つアベルの姿は、先ほどまでの子供達と大差ない。

 ここにルイーズが居れば『本当、似た者同士なんだから。うふふ』と微笑んでいる事だろう。


「本当?! 」「本当ですの? 」「さすが侯爵様」「教えて」


 子供達の顔がパァッと明るく染まり、アベルに詰め寄る。

 

「お、落ち着きなさい。その前に舟を借りれるか聞かねばならないのでな」


「「「「舟? 」」」」


 首を傾げる子供達にアベルはこれからの予定を軽く説明した。

 まず、小舟でいいので全員が乗れる物を借りる。

 それに乗りこみ、空中移動で沖まで進む。

 漕いで進むより、空中移動の方が早いからである。

 空から、宝があると思われる場所を捜索する。


「という訳だ。文献の説明は移動中に話すが、今は各々の武器を持参してくれ。私はその間に舟を借りてくる。さぁ、解散! 」


「「「「イエッサー! 」」」」

 

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