表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/100

名もなきダンジョン攻略戦-4

 第二層入口に密集していた敵を一掃した僕らは、次の一手を考えていた。骨の山に半分埋まった狭い通路の真ん中で、薄ぼんやりした壁の光を頼りに行う会議はなかなかに落ち着かない。


「第二層の敵はおおかた片付けたと思われますし、第三層に足を伸ばすべきかと」


「どうだろうね。ダメージこそ少ないけど、ボクの弾薬とキツネさんの投擲武器は消耗が激しい。戦果としてはかなりのものがあるし撤退も手かと思うよ」


「おなかすいたー」


 そんな薄明かりの中、紫色の魔物肉に手を伸ばそうとするニーコを阻止しながら、僕は進むべき道を考える。ダンジョン攻略の基本は「石橋を叩き壊して鉄の橋をかけて渡る」だ。本来なら少しでも危険の大きい選択肢は選ぶべきではない。

 でも、僕らには時間がない。少しでも前に進み、少しでも経験を積んで一日も早く『暁光の迷宮』に挑まないと、本格的に勇者に先んじることができなくなる。


「進もう。第三層の攻略までは難しいかもしれないけど、敵のレベルを知っておくだけでも価値はある。」


「今日は強気だねリーダー」


「クラトス殿がそうおっしゃるのであれば、異論はありません」


「おなかすいたー」


 ニーコに手持ちのパンをあげながら、地図を広げて進路を探る。昨日の探索では途中までしか調べられなかったけど、ニーコの風による探知を駆使すればおおよその見当はつく。お腹がいっぱいになればきっと第三層への階段を見つけてくれるだろう。


「ねむいー」


「もうちょっと我慢しようね?」


「純粋な戦闘力で言えばトリちゃんがボクらの中で一番強いんだろうに、まったくそんな気がしないのはなぜだろうね」


「……心優しいから、と思っておきましょう」


「キツネさんのそういう前向きなところ、ボクは嫌いじゃないよ」


「それはどうも……」


 レオが加わってすぐの頃と違ってメンバー間の仲は悪くないと思うけど、どうにも不安になるこの感じはなんだろう。


「とにかく、まずは第三層への階段を探すところからかな。もう魔物は少ないと思うけど、デススパイダーの俊敏さはあなどれない。頭上や足元にも意識を配りながら慎重に進もう」


 大して人気のあるダンジョンじゃないから、事前に入手できた情報は乏しい。それでもヤマトの街で聞いた話を総合すれば全三層から成ることはほぼ間違いない。第二層を歩いていればいずれ階段が見つかるはずだ。


 そう考えて出発して、数時間後。僕らはダンジョンという生き物の恐ろしさを実感しはじめていた。


「……ここ、明らかにさっきと道の形が違うよね?」


「ダンジョンが生きているとは、こういう意味もあったのですね……」


 強い瘴気を溜め込んだダンジョンは、その姿を頻繁に変えると本で読んだことがある。人を誘い込んで殺すことに重きが置かれた城塞型のダンジョンにもなると、そうして冒険者の退路を断つことでじわじわとなぶり殺しにしてしまうという。

 しかしそんなのは大型の、それこそ『暁光の迷宮』のようなダンジョンの話であって、こんな小さな名もないダンジョンには縁のない話だと思っていた。でも僕らが歩いているこの道は、短い間に確かに形を変えている。


「ニーコ、下に向かうような階段はまだ見つからない?」


「なーい」


「第三層への階段が壁に囲われて、到達不能になっているということはないかい? これだけ流動的ならありえない話ではないと思うけど」


 クニーさんが石の壁をペタペタ触りながらうんざりしたように言う。確かに風の流れを読んでも階段が見つからないというのは不自然だけど、通路の壁で塞がれて、というのは考えづらい。


「ダンジョンが消化管に例えられる理由のひとつは、それが常に最深部までつながっているからなんだよ。途中に罠や仕掛けが設置されて一時的に通れなくなることはあっても、必ず入口から最深部までは通路が続いている。それが鉄則だっていろんな本に書いてあった」


「でも、ここは自然発生したダンジョンなんだろう? 魔物はいても大掛かりな仕掛けなんて無いんじゃないかい?」


「ええ、通常はそうです。しかし自然発生型は自然発生だからこその多様性に満ちていますから、突発的に壁を塞ぐような何かしらが生じることは十分ありえます。例えば、瘴気を浴びて奇怪な能力を持つ新種の魔物が発生する、だとか」


「なるほど、それで納得した」


「納得した? 何を?」


「いや、先にごめんって言うべきだったかな?」


「要領を得ませんね。どうしたのですか」


「実を言うとね、この石の壁を触った時に、なんだか妙な感じがしたんだ」


「ぴぇ?」


「でもこのダンジョンは自然発生したやつだし、罠ってことは無いだろうと思ってじっくり【鑑定】してみたんだよね。そしたら、どうやらそれが癇に障ったらしくて」


「……癇に障ったって、まさか」


「うん、だからごめん。この壁、魔物だ」


 クニーさんがそう言い終わるやいなや、四方を囲む石の壁が一斉に脈動した。

食ったら寝る

それが野生の真理

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ