名もなきダンジョン攻略戦-3
ニーコによる予想以上の追い風に乗り、僕らはダンジョン第二層へ。クニーさんが尾を活かした戦法で先陣を切る中、僕は着地し損ねて地面に突き刺さった。
「キツネさん、リーダーをよろしく。例の一本道まではボクが先導するよ」
「クラトス殿、走れますか!?」
「う、うん、ごめん」
「行くよ。【概念付与】、『硬化』」
クニーさんはあくまで淡々とした口調で、でも雄牛のごとくスケルトンファイターの群れへと突っこんだ。骨の兵士たちが殺到するが、職能で硬度を増した鎧の防御力に為す術無く押し切られてゆく。
「このまま包囲を抜けられれば……!」
半ば祈るようにその後ろ姿を見つめる僕に、ニーコが後ろから叫んだ。
「ぴぇ!? 後ろにはやいのいる!」
速いの。
その言葉に振り返ると、デススパイダー――名前の通り毒蜘蛛の魔物だ――が天井を高速で迫ってきているのが見えた。いや、速すぎる。すでに僕らを追い越し、その位置は魔物を薙ぎ払うクニーさんの頭上。
「クニーさん、上!」
「なっ!? が、【概念付……」
「【つぶての名手】!」
クニーさんに飛びかかり毒針を突き刺そうとした蜘蛛が、背後からの投げナイフで絶命した。スズも成長しているのだろう、凄まじいまでの反応速度だ。
「助かったよ、キツネさん」
「目的の通路は目前です! そこまで集中を切らさぬように!」
「はいよ」
立て直したクニーさんが、相も変わらず迫ってくるスケルトンファイターを押しのけて進んでゆく。骨の津波がごとき猛攻も彼女を止めるには至らず、僕らは目的の一本道へと辿り着いた。
「クニーさん、続けてですみませんがお願いします!」
「人使いの荒いリーダーだね。まあ、なんだ」
腰のホルスターにしまっていた武器を再び取り出し、一本道に列をなして進んでくるスケルトンファイターとデススパイダーたちに向ける。
「ボクらに楯突いたぶん、十倍返しさせてもらおう」
クニーさんが授かった『機術士』は、生産系の職業でありながら高い戦闘力を持つ。自らの武器や防具に『硬化』『鋭利』『加速』といった概念を付与し、性能を高めることができるからだ。
でも、弱点もある。
それは攻撃や防御の前に概念付与が必要なために、常に行動がひと呼吸遅れることだ。例えばスズの投擲強化職能【つぶての名手】は発動と同時にナイフが飛んでゆくけど、クニーさんはナイフに『加速』や『直進』を付与してから投げないといけない。だからさっきのように不意に攻撃されると対応しきれず危険に陥ってしまう。
そんな弱点を、しかしクニーさんは技術で克服した。
「バレルより弾丸に付与する概念を『散弾式』に設定、さらに『冷却』を追加し連射に対応。以上、『ゴットハルト』発射準備完了。いいね、リーダー?」
金属の筒にあらかじめ術式を仕込み、そこを通過する鉛玉に次々と概念を付与する。それが彼女が編み出した、即応攻撃手段だった。
その発想を具体的な武器に落とし込んだのが、彼女が銃器と呼ぶ武装『ゴットハルト』。『発散』や『硬化』など多様な概念を切り替えながら弾丸を撃ち出すことで、あらゆる敵に対応が可能だと彼女は語っていた。
「クニーさん、お願い!」
「掃射開始」
クニーさんが引き金を引く。爆音とともに放たれた鉛の弾丸が、魔物たちの身体を瞬時に打ち砕く。恐怖を知らないスケルトンファイターはそれでも突っ込んでくるが、通路を半分も進めず粉砕されてゆく。
「換装」
「お任せを!」
弾切れの間隙はスズがつなぐ。弾幕の密度では遠く及ばないながらも、正確な投擲が魔物の進軍を阻む。そうして稼いだ時間で再装填が済めば、再び鉛の雨が横殴りに降り注ぐ。
数十秒も経つ頃には、僕らを待ち構えていた魔物の群れは破片の山と化していた。
ゴットハルト・グラスという人をご存知でしょうか。
後にウジエル・ガルと改名し、有名な短機関銃ウージーを発明した人物です。クニーさんの武器は彼から名前をとっています。
(いろいろあって自転車操業なので、何かあるとすぐ更新が遅くなる……なんだ更新時間11時半って……)




