借りたものはきちんと返そう
「むーーー、あたしがお酒で失敗したのは、村の教会の鐘をシチュー鍋にしたのが最初で最後ッスよ!!」
「似たようなことやってるじゃないか……」
「女神様も、『聖騎士』に教会を破壊されるとは思わなかったでしょうな……」
「むー、でも今回のは違うッス……。あの時、あたしの隣で男四人のパーティが飲んでたんスよ」
四人でいっしょに村から出てきてリンバスで職業を授かり、二ヶ月たったくらいの新米だと話の内容から分かったという。
「で、その職業が問題で、三人が三級、残りひとりが五級になっちゃったみたいなんスよ」
「ああ……」
普通、冒険者は等級の近い職業どうしでパーティを組む。戦闘力に差がありすぎると何かと不都合が多いからだ。ギルドで依頼の推奨戦力が等級+レベルで表記されるのも、だいたい同程度の戦力が集まるのが前提だからと事務員さんに聞いた。
となると当然、四級や五級職業は同じ四級や五級としか組めない。全員が弱いから大した依頼が請けられず、いつまでたっても経験値もお金も貯まらない。そうしてもともと大きかった戦力差はどんどん拡大していく。それが下級職業の現実だ。
「そんで、三級の三人が五級の仲間になんて言ったと思います?」
「足手まといだから出て行け、とか?」
「パピーフィッシュのフン、ッス」
「おおう……」
四級五級の僕らには身につまされる話だ。ちなみにパピーフィッシュというのは町で人気の愛玩魚。仔犬の毛並みのようにふわふわで可愛いヒレが名前の由来……というのは俗説で、茶色いフンをぶら下げて泳ぐ姿が子犬のしっぽみたいだから仔犬魚と呼ばれるようになったらしい。
「横で聞いてたあたしも思わずカッとなって、あんた仲間に向かってそりゃ無いんじゃないッスかって口を挟んだら売り言葉に買い言葉で、どっちともなく手が出て、その……」
「宿屋の破壊に至った、と」
「因果関係が破天荒に過ぎますな……」
「でも、あんまりじゃないッスか! いっしょに夢見て出てきた仲間にパピーフィッシュのフンッスよ!?」
「うん、そこは勘違いしてごめん。建物ひとつ壊すかはともかく……」
「常識というものを弁えていただきたいところです」
自分が損をしてでも不義の男たちに鉄槌を下す。スズは好きそうな話だけど、やっぱりどこか距離がある。仲良くなるまでの道のりは長そうだ。
「それで、どうやってこの人さがすの?」
「あ、そうだねリリィ。そうだった」
なんとなく圧倒されていた僕らを、リリィが本題に引き戻してくれた。頼もしいけど友達ができたとき普通に喋れるかちょっと不安だ。
「でも、聴き込み以外の方法なんてあるんスか?」
「僕らには無いね。この町じゃ新参者だから情報網も持ってないし、人手も足りない。でも、貸してるものはある」
「お金でも貸してらしたのですか?」
「義理、かな?」
迎えた翌朝。ギルドに向かうと、見慣れたくもないけど見慣れた顔が大声で話していた。
「しかし、こんなことしてていいのかい兄弟。目をつけてた依頼を誰かに取られちまうぜ」
「そんなもんくれてやれ兄弟。あの兄ちゃんには借りがあんだからよ」
「ああ、借りたもんは返すのがスジだよな兄弟」
「おはようございます、オルさんロスさん。……その頭は?」
三級冒険者兄弟、オルとロス。
ギルドを通じて待ち合わせたのは、以前アントクイーン討伐の件でひと悶着あったふたりだった。
……このふたりまで獣化症候群にかかっていたのは、予想外だったけど。
まあ、ひと言でいえばあっちの金魚です(パピーフィッシュ)
金魚といえば夏祭りの金魚すくいですよね。人それぞれの思い出があると思います。私の場合は
「家に着いたら逆さまに浮いてた」
以上です。




