お年寄りには親切にしよう
「えーと、なんかお世話になるみたいッスね。とりあえずオーレリアだと長いんで、レオでいいッス。がんばるんでよろしく頼むッス!」
「よ、よろしくね、レオ」
「短い間でしょうがよろしくお願いします。オーレリア・クロウ殿」
アリシアさん。
空気が、重いです。
「えっと、じゃあまずはギルドに行こうか! お金も稼がないといけないことだし、ね!」
「おー!」
「……クラトス殿がそう言うのなら」
「わかった」
明るく振る舞ってみれば全員から返事は返ってくるが、温度差が悲しい。いつもと変わらないリリィが小さな救いだ。こんな状態で、依頼なんてこなせるんだろうか。
そんな不安を抱えて留置所を出た僕らは。
「来たぞ!」
「『聖騎士』様だ!!」
外に出た途端に、野次馬に囲まれた。
「え? え?」
「『聖騎士』が現れたという話がもう広まっていたようですね……」
「おー! こんなに人がいっぱいいるの初めて見たッス!」
おそらくは留置所の職員から漏れたのだろう、集まった野次馬は百人近い。衛兵が駆けつけて解散させようとしているが、『聖騎士』を見るチャンスなんて一生に一度だとばかりに人が押し寄せてくる。
僕の後ろに隠れたリリィの頭を撫でて落ち着かせながら、抜け出せそうな隙間を探すが見つからない。レオはレオで囃されるまま手を振ったりしているし、しばらくはここから動けないだろう。レオの隣にいるスズは何も言わないが、機嫌が悪くなっているのが伝わってくる。
と、立ち往生していた僕らの前に、おばあさんがひとり進み出てきた。人混みで揉まれたのかボロボロで、進み出たというより転がり出たといった様子だ。
「お、おばあさん大丈夫!?」
さすがに放置できないので助け起こすと、おばあさんは息を切らせながらレオにすがりついた。
長い白髪の下から見えた表情は、切実そのものだった。
「『聖騎士』様! どうか、どうかお聞きください!」
「へ?」
「私の孫を探してはいただけないでしょうか!!」
「いいッスよ」
「待って、待ってレオ」
軽い。詳しい話を何も聞かず、即決即断で引き受けたレオを僕は慌てて引き止めた。第一級に向かって何を言っているんだと、おばあさんに野次が飛んでいる。
「どうしたんスか?」
「一応確認させてもらうけど、自分が四百六十万ミルカ払わないといけないって分かってるよね?」
「分かってるッス」
「それがちょっとやそっとの額じゃないってことは?」
「なんとなく分かってるッス」
「ひとりから頼みごとを引き受けたら、後から後から引き受けないといけなくなるかもしれないってことは?」
「たぶん分かってるッス」
「でも引き受けたんだ?」
「だって、お年寄りには親切にしなきゃいけないって村のおばちゃんが言ってたッス。え、町だとそこも違うんスか?」
「ああうん、大丈夫。ここでもお年寄りは大事にするものだよ……」
ため息をつく僕に、レオは小首をかしげただけだった。
四百六十万ミルカ、四人パーティで約一年分の生活費です。
現代日本で言えば一千万円とかそのくらいでしょうか?




