第四話 幸福
「パパパパパパパパパパパパ!」
「聞こえてる聞こえてる。どうした?」
「お兄ちゃんが転んだ!」
「何!?」
二男に呼ばれて慌てて現場に向かえば、自力で起き上がったのか口をへの字に引き結んで泣くのをグッと堪えている長男がいた。
「大丈夫か?」
「ふ、ふぇぇぇぇぇ!! パパぁ〜!!」
俺の顔を見た瞬間、堰が決壊したかのようにぶわっと泣き出してこちらに向かってくる長男を抱き留める。
「我慢してたの偉いな」
「うん」
「あらあら、何の騒ぎ?」
「ルネ」
長男の泣き声を聞いたからか、王妃様……今は俺の奥様になったルネが幼い長女を抱えながらやってきた。
「ちょっと転んじゃっただけだよな?」
「うん。別に大したことないし。ママには関係ないし」
「あらそう? 大したことなかったのならいいのだけど」
母には強がって見せたいのか、先程まで大泣きだったはずなのに大したことないと言いきる長男が可愛らしい。こういうところはルネによく似ていると内心微笑ましく思った。
「さっきまでお兄ちゃん大泣きしてたじゃん」
「うるせぇ! 気のせいだ!」
「こら、言葉遣い」
「お前のせいでパパに怒られただろー!」
「お兄ちゃんの言葉遣いが悪いのがいけないんじゃんかー!」
「こらこら、喧嘩しないのー」
ルネが言葉で二人を制しようとするが止まらない。
ここは俺の出番だと、二人を引き剥がして「そんなに元気が有り余っているなら畑仕事手伝え」と言えば、息子達は二人顔を見合わせて「「二人で遊んでくるー!!」」と畑仕事をやりたくない二人は仲良くどこかへ駆けて行ってしまった。
「全く。仲がいいんだか悪いんだか」
「男の子なんてそんなものさ。ところで、ずっと抱っこしたままで大丈夫? お腹の子に障るのでは?」
「これくらい平気よ。レナトゥスは心配性ね」
「だが、万が一ということもある。ということで、パパのほうへおいで」
ルネから掬うように長女を抱き上げる。
長女は突然母から離されたことで一瞬「ふぇぇぇ」と泣きかけたが、よしよしとあやしながら抱っこすれば、だんだんと落ち着いてきて大人しくなってくる。
そのまま背に乗せて器用に布を巻いて包んでおんぶの状態にした。
「さすがは三人目ともなると上手ね」
「まぁな」
「ふふ、長男のときはてんやわんやだったのに」
「確かに」
かつては大泣きされただけでどうしようとあたふたし、何も手がつかず大変だったことを思い出す。
今もしょっちゅう喧嘩したり怪我したりと大変ではあるが、以前に比べて子供同様親も成長し、それなりに対処できるようになっていた。
「ありがとう。レナトゥス」
「急にどうしたんだ?」
「いえ。貴方のおかげで今こうした幸せがあるから、感謝したくなって」
「それをいうなら俺の方こそだ。貴女がまず俺を救ってくれたんだ。だからお互い今こうしてここにいる」
「そうね」
二人で見つめ合うと唇を重ねる。
「愛してる王妃様」
「もう、その肩書きは捨てたと言ってるでしょう? 今はただの貴方だけのルネよ」
王妃様に救われた俺が王妃様を救う。
手の届かないはずの愛しい王妃様を妻として迎えることができ、新たな家族も増え、今こうして暮らせることは何よりも幸せだった。
◇
一方王城では。
「どうして……どうして子ができぬのだ……!!」
国王が怒りに任せて卓上に拳を叩きつけていた。
というのも、王妃を追い出し側室から正妻にしたはずのシンシアが出産したのは褐色の子だった。どう考えても生まれるはずのない肌の色。
もちろん国王は怒り狂い、可愛さ余って憎さ百倍。寵愛していたはずのシンシアを子供諸共処刑した。
その後も数多の妻を迎え、今度こそ誰も浮気ができないようにと全員幽閉し、それぞれと子作りを挑むも誰も懐妊する兆しはなく、六年経った今も国王には世継ぎは生まれて来なかった。
「あぁ、どいつもこいつも畑が悪い! どの女なら僕の子が成せるというのか!! えぇい! 腑が煮えくり返る! 僕に子を与えられないというのなら、いっそ見せしめに誰かを処刑すればみんな必死になって子を成すのではないか? そうだ、きっとそうに違いない。さて、まずは誰を見せしめに殺そうか」
「処刑するなら貴方が相応しいのでは?」
「何!?」
どの妻を処刑しようかなどと物騒なことをぶつぶつと思案していたとき、突然の不敬な言葉が聞こえて国王が憤りながらそちらを向けば、そこにいたのは王位継承権第二位である弟だった。
「お前、弟のくせに国王であるこの僕に指図するのか?」
「えぇ。今日からこの私が、国王の座に就くことになりましたので」
「なっ!? どういうことだ!! 何を勝手なことを……そんなデタラメ……!」
「デタラメなどではないですよ。先程議会で決議致しました。どうぞこちらを」
弟が放り投げるように持っていた紙を落とすと、それを這いつくばるように拾って書かれた内容を読み込む国王。
そして一通り読むなり「こんな決議あってたまるか!!」と叫びながらその紙をビリビリに破り捨てた。
「兄上が納得できるかどうかなど関係ありません。独断での王妃処刑判断。国庫の私物化。むやみやたらに増やした側室による財政圧迫とさらにその側室への人権侵害。罪状など数えきれぬほどございます。さらに国王としての公務は疎かで、世継ぎはいくら経っても不在のまま。国王の仕事を何もせずに国王を名乗っても国民の反感を買うだけで、いずれ国が破綻致します。ということで、先程の決議通り貴方から王位を剥奪させていただきます」
「僕は国王だぞ!? 一番偉いんだぞ! そんな愚者共の勝手など受け入れられるか! お前が新たな国王の座を狙っているというのなら今この場で殺してやる……!」
弟を殺すべく、拳を振り上げる。
だが、それはすぐさま騎士によって防がれてしまう。気づけば、騎士達が自分をぐるっと取り囲んでいた。
「な……っ! なっ! お前達! 何をしている!? 敵はそいつだ! そいつを排除しろ!」
喚いても微動だにしない騎士達。
「何だ、貴様ら! 国王である僕の言うことが聞けないのか!?」
「だから言っただろう? 現時点で国王はこの私になったのだと。ということで兄上。貴方は現国王である私への不敬罪、並びに殺害未遂で拘束させてもらう」
「は!? な……何を言って……っ! おい! 離せ! この僕に触れるなど不敬だぞ!!」
「連れて行け」
「おい! ふざけるな! やめろ! 離せ!! くそくそくそくそ! くそがぁぁぁぁあ!!」
元国王は騎士達に拘束され、無様な叫び声を上げながら牢屋へと引き摺られて行くのであった。
その後、かつての国王の側室は全て開放され郷に帰り、元国王にはあらゆる罪状を課せられ、自分の行いを牢屋の中で死ぬまで延々と顧みよということで無期懲役となった。
そして傾いていた国家は新たな国王によってだんだんとよい国へと変わっていき、以前とは正反対な国へと変わっていったのだった。
終




