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第七十話:選択の重さ

正しいと思った行動が、

必ずしも正しい結果を生むとは限らない。

むしろ――

必死になればなるほど、

人は簡単に“間違える”。

放課後。

教室には夕方の光が差し込んでいた。

オレンジ色の光。

長く伸びる影。

静かな空間。

ラフリは席に座ったまま、動かなかった。

(……今日)

胸の奥がざわつく。

強い違和感。

理由は分からない。

でも――

(何かが起きる)

確信に近い感覚だった。

ノートを開く。

今日の記録。

・昼:衝突増加

・ユナ:距離ができた

・ナカムラ:不安定

・ローズ:観察継続

ペンが止まる。

(……足りない)

何かが決定的に足りない。

(原因が分からない)

“結果”は見えている。

でも。

(“根”が見えてない)

その時。

「まだ帰らないの?」

声。

ユナ。

振り向く。

彼女は鞄を持って立っていた。

「……ああ」

短く答える。

少しだけ沈黙。

そして。

ユナが言う。

「最近さ」

ラフリの心臓が少し強く鳴る。

「なんか、遠いよ」

言葉が刺さる。

まっすぐ。

逃げ場がない。

「……そんなことない」

反射的に答える。

でも。

ユナは首を振った。

「あるよ」

小さな声。

「前はもっと、ちゃんと話してくれてた」

ラフリは何も言えない。

(言え)

頭の中で声がする。

でも。

(言ったら……)

怖い。

またあの目で見られるかもしれない。

恐怖。

拒絶。

距離。

「……今は無理」

それが限界だった。

ユナの表情が止まる。

「無理って……」

「……ごめん」

それ以上言えなかった。

沈黙。

重い沈黙。

やがて。

ユナは小さく息を吐いた。

「……そっか」

それだけ言って、背を向ける。

教室の扉が開く音。

閉まる音。

静寂。

ラフリは動けなかった。

(……まただ)

守りたいのに。

一番大事な相手に――何も言えない。

拳を強く握る。

「……くそ」

小さく呟く。

その時。

「ふふ」

声。

ローズ。

教室の後ろ。

まだ残っていた。

椅子に座りながら、こちらを見ている。

「うまくいってないね」

軽い声。

ラフリは立ち上がる。

「……お前」

ローズは首を傾げる。

「なに?」

「何してる」

問い。

でも。

答えは期待していない。

ローズは少し考えるような仕草をした。

「何って?」

そして――

微笑む。

「観察?」

背筋が冷える。

「意味分かんねえこと言うな」

ラフリは睨む。

ローズは楽しそうに笑った。

「ほんとに?」

そして、ゆっくり立ち上がる。

一歩、近づく。

距離が縮まる。

「ラフリさ」

小さな声。

「なんでそんなに必死なの?」

ユナと同じ質問。

でも――

全く違う意味。

「……関係ないだろ」

「あるよ」

ローズは即答する。

そして。

ほんの少しだけ声を落とす。

「だってさ」

視線が鋭くなる。

「未来、変えようとしてる顔してるもん」

心臓が止まりそうになる。

一瞬。

呼吸ができなくなる。

「……何言って」

「ねえ」

遮る。

ローズの声。

「怖いでしょ?」

ラフリは何も言えない。

ローズは続ける。

「全部分かってるのに」

「どうにもできない感じ」

一歩、近づく。

「それとも――」

微笑む。

「まだ“全部”は分かってないのかな?」

ラフリの手が震える。

(こいつ……)

知っている。

全部じゃない。

でも。

“かなり近い”。

「……ふざけるな」

絞り出すように言う。

ローズは肩をすくめる。

「ふざけてないよ」

そして。

くすっと笑う。

「むしろ真面目」

その瞬間。

ラフリの中で何かが切れる。

「だったら言えよ!!」

声が教室に響く。

「何が目的だ!!」

ローズは一瞬だけ目を細める。

でもすぐに笑った。

「それ、教えたら意味ないでしょ?」

ラフリは歯を食いしばる。

「……クソが」

その時。

ローズがぽつりと呟く。

「でもさ」

静かな声。

「今日、面白くなるよ」

ラフリの心臓が跳ねる。

「……何が」

ローズは窓の外を見る。

夕方の空。

「見てれば分かる」

それだけ言って、歩き出す。

教室の扉へ。

そして。

止まる。

振り返る。

「ねえ、ラフリ」

微笑む。

「“選べる”って思ってるでしょ?」

ラフリは動けない。

ローズは続ける。

「でもね」

小さく首を傾げる。

「選択肢って、用意されてるものなんだよ」

その言葉を残して――

ローズは出ていった。

静寂。

ラフリはその場に立ち尽くす。

(……選択肢が、用意されてる?)

意味が分からない。

でも。

直感が告げている。

(……やばい)

ノートを掴む。

走る。

教室を飛び出す。

廊下。

階段。

息が荒くなる。

(どこだ……!?)

分からない。

でも。

止まれない。

その時――

遠くで、誰かの声。

「……やめろって言ってるだろ!!」

ナカムラ。

ラフリの足が止まる。

(……そこか)

そして――

ラフリは、走った。

選択は、いつも突然訪れる。

準備なんてできない。

考える時間もない。

そして――

その一つで、全てが変わる。

次の瞬間。

少年は“選ぶ”。

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