第130話:閉ざされた選択と、愛の名をした罪
選択は、いつだって静かに行われる。
叫びも、涙も、必要ない。
ただ――
「これしかない」と思った瞬間に、人は踏み越える。
その一歩が、どれだけ取り返しのつかないものでも。
夕焼け。
オレンジ色に染まる街。
「ここ?」
ラフリが立ち止まる。
住宅街から少し離れた場所。
人通りは少ない。
静かすぎるくらいに。
「……うん」
ユナが頷く。
「少しだけ、寄り道」
「……こんなところに何があるんだ?」
「すぐ分かるよ」
その声は、穏やかだった。
でも――
どこか“決めきっている”声だった。
(……ここでいい)
心の中で確認する。
(……誰も来ない)
(……邪魔も入らない)
すべて、計算通り。
「ラフリ」
「ん?」
「ちょっとだけ、目閉じて」
「……は?」
「お願い」
少しだけ近づく。
距離が、ゼロに近づく。
ラフリは少し戸惑うが、
「……何する気だ」
と言いながらも、
「……一瞬だけだぞ」
目を閉じる。
(……簡単)
あまりにも。
一歩踏み出す。
手を伸ばす。
――カチッ
小さな音。
次の瞬間。
「……っ!?」
ラフリの体がぐらつく。
「……ユナ……?」
視界が揺れる。
意識がぼやける。
(……薬?)
理解したときには、もう遅い。
「……ごめんね」
すぐ近くで、
優しい声。
体が支えられる。
倒れないように。
「……でも」
耳元で囁く。
「これしかなかったの」
ラフリは抵抗しようとする。
でも――
体が動かない。
視界が暗くなる。
「……なんで……」
かすれる声。
ユナは、少しだけ沈黙する。
そして――
「……だって」
その声は、
震えていなかった。
「失いたくないから」
はっきりとした答え。
「……離れないって、言ったでしょ?」
ラフリの意識が沈んでいく。
最後に見えたのは、
微笑んでいるユナの顔。
優しくて。
でも――
どこか壊れている笑顔。
「……大丈夫」
その言葉を最後に、
完全に意識が途切れた。
場面転換
暗闇。
静かな空間。
時計の音だけが響く。
カチ、カチ、カチ――
ゆっくりと、目を開ける。
「……っ」
頭が重い。
体がだるい。
(……ここは)
見知らぬ部屋。
窓は閉ざされている。
ドアも閉まっている。
「……」
手を動かそうとする。
――ガチャ
小さな金属音。
(……鍵)
理解する。
ここがどこか。
自分がどうなっているか。
「……ユナ」
その名前を呼ぶ。
すると――
カチャ
ドアが開く音。
ゆっくりと入ってくる影。
「……起きたんだ」
ユナだった。
いつもと同じ制服。
いつもと同じ顔。
でも――
目だけが違う。
「……ここ、どこだ」
「……大丈夫」
答えになっていない。
ゆっくりと近づいてくる。
一歩ずつ。
逃げ場はない。
「……ラフリ」
その声は、
優しい。
心から愛しているような声。
「……これで」
手を伸ばす。
頬に触れる。
「もう、どこにも行かないよね」
ラフリは、言葉を失う。
理解してしまったから。
これは――
“助け”じゃない。
“閉じ込め”だと。
「……ユナ」
名前を呼ぶ。
止めるために。
でも――
「大丈夫」
その言葉で、遮られる。
「全部、私が守るから」
その笑顔は、
完全に“壊れていた”。
夜。
閉ざされた部屋。
静かな空間。
逃げ場のない現実。
ユナは、ラフリの隣に座る。
距離はゼロ。
「……これでいい」
小さく呟く。
「これで、もう失わない」
その声には、
一切の迷いがなかった。
そして――
物語はここで、
完全に形を変える。
“日常”は終わった。
ここから始まるのは――
逃げられない愛と、
壊れた救いの物語。




