第1節「平和の崩壊」
俺には、母親がいない。
悲しい事だが、仕方ないだろう。
親父の話によると、俺を産むのと引き換えに命をなくしたらしい。
俺が生まれた意味、それはハッキリ言えば答えが出ない。
俺はまだ15歳だ。これから多くの経験をして、様々な知識を得るだろう。
だから俺は今が好きで、自分も好き。生まれた意味なんてどうでもいい。
つか、ここはどこなのだろうか?
とても暗い。
何だろう・・・。暗い所がこんなに怖いと思ったのはいつ以来だろうか?
・・・ダメだ。恐怖心が消えない。
――誰か!!ここから出してくれ!
おかしい。
何故だろう、声が出ない。いや、出てるのか?
届かないだけか?
そもそも声ってどうやって出すんだっけ?
怖い。
――何なんだよ、俺が何したってんだよ!?
――誰でもいい・・・誰か・・・
ふと、上から光が差し込んだ。
眩しい。
けれど、温かい光だ。
俺はそこに向かって手を差し伸べる。
届け。
――届け!!
「届けっ!!!」
モニョッと言う、素晴らしいほど柔らか~い感触と共に目が覚めた俺。
「・・・あの、秀?」
目の前には、俺の眠気を軽く吹っ飛ばす程の美少女がいた。
そして、俺の右手は彼女の左胸を鷲掴みにしている。
・・・これは
揉むしかないか。
そう思案した直後、後頭部に衝撃が走って俺は机に顔面を直撃させた。
「ってぇ・・・」
「いくら恋人でも、学校で淫らな行為はやめなさい?」
振り返ると、そこにはショートヘアーの女。背が俺より少し低いくらいで気が強く、いつもお姉さん気取りだ。しかも強い。
「・・・これは事故だ」
「はぁ・・・何が”届け”だよ」
再び後頭部に衝撃。さっきより部分的な痛さだ。
「っだぁ!?てめっ!?」
「やっぱ本の角って効くよね」
笑いながら言う男。インテリな眼鏡が似合う、俺の親友。
「こんのクソカップル共・・・!!」
紹介しよう。
今、本の角で俺をあの世に送ろうとしたのが城崎 成。まだ毛も生えてないような子供の頃からの幼馴染、そして親友。印象通り、かなり頭が良く、それなりに運動神経も良い。優しすぎでバカ。
そして最初に殴った女。天津 祈。この年で爆乳ボイン、スタイル完璧な成同様の幼馴染。成の彼女でもあり、運動神経は抜群、実家は槍を主軸とした道場。でも怖い。
「あの・・・秀、平気ですか・・・?」
そう良いながら、優しく俺の後頭部を撫でるこの女。櫻木 舞。とりあえず、こいつより美女に遭遇した事はない。性格もGOOD。胸は祈に劣るものの、スタイルと運動力、そして学力にも優れている。しかも、俺の彼女だ。
「あーこれはヤバイかもな。お花畑が見えてきたわ。あー死ぬぞー。ってことで帰って安静にしようと思いますです」
「それってただバックレたいだけじゃないの」
「またか・・・いつも思うけど、成績の事を少しは考えようよ」
成と祈が溜め息ながら言う。
「つーことで、お先」
俺がシュタッと手を上げて立ち去ろうとする。ちなみに今は、3時限目終了後。
「あ、僕も行くよ」
「ん、珍しいな。マジメ君が俺に付き合うとはな」
「僕が一緒にバックレた方が、言い訳の幅が増えると思わない?」
成が笑って言う。
「確かに、助かるぜ相棒」
「まったくあんた達・・・」
「まぁ祈さん、たまには良いと思いますよ」
舞が微笑んで言う。
「・・・舞、あーやって遊ばせとくと浮気するから気をつけなさいね?」
「俺が浮気なんかしたら、食事に毒盛られそうだな」
俺は苦笑しながら答える。
「秀はそんな事しませんよ。でも、一応・・・浮気はダメですよ?」
舞は言いながら、俺に軽くキスをする。
「浮気する暇あったら、お前と楽しい事してる方がいいさ」
俺はまた笑いながら言うと、その場を後にする。
後ろから「マジ不潔ー」とか「サイテー」とか「ったく昼間っから・・・」とか「よくも俺の舞チャンとぉ~っ!!」とか聞こえてくるのは、気のせいだろう。うん。
そう言えば、自分の自己紹介をしていなかったな。
俺の名前は黒羽 秀。目にかかるくらいの黒髪、そして特徴的な紅い瞳。運動神経抜群の、特技は喧嘩仲裁。
「にしてもいい天気じゃないですか成くん」
「そうだね秀くん。つかその喋り方、キモイって」
「キモイ言うなよ。お前も僕とか言うなよ」
「僕はいいんだよ。モテるし」
「死ね」
「生きる」
「おk」
「「・・・」」
あまりのつまらなさに無言になる俺と成だが、やがて成が口を開く。
「平和って、こーゆー事を言うのかなぁ?」
「ん、どうしたいきなり」
「んーんー。なんとなくね。今って平和じゃん?」
「まぁな・・・戦時中だったら大変だろうしなぁ」
「だよね~」
平和。
そう、平和だ。
平凡で、退屈だけど安心できる毎日。
それでも時間は進んでる。
今ある、この時間が幸せなんだろう。
変わらなくていい。このままでいい。
俺達は幸せだな。
・・・ォオン・・・
遠くの方から何かが聞こえた。
「何だ・・・今の?」
俺の問いに、成は神妙な顔つきになる。
「・・・大規模な爆発っぽくない?」
ハッとして、俺らは後ろを振り返る。学校まで一本道だが、それなりの距離は歩いた。学校自体はよく見えないが、黒い煙が上がっている。
「成!」
「うん!!」
嫌な予感がした。
だからこそ、俺らは鞄を投げ捨てて全速力で走った。
無理な加速に足がついてこない。呼吸が辛い。
でも急がなければ。
嫌な汗が背中を伝い、ワックスと混ざった汗が額から落ちる。
「・・・何だこりゃ」
酷い惨状だった。
炎上しているのは大型のトラック、正門に突っ込んでいた。
しかし、何より酷いと思ったのは・・・
「くっ・・・死体なんて初めて見たぜ」
「僕もだよ・・・」
そう。
そこはまさに地獄絵図だった。
無数に転がっている人間の死体。
ある者は体が裂けていたり、胴体が切断されていたり。
「うっ・・・おぇええぇええ」
躓いたので何かと思って見たら、それは女性と思われる頭部。あまりのもので、俺は吐いた。
「くそ・・・何なんだよ・・・」
「秀・・・」
「ん?」
成はある一点を見て震えていた。
「どうした?」
「”アレ”・・・何かな?」
成が指し示す先には、死体の山。
誰が誰だとかは判別できないが、制服やスーツが見えるので、恐らくこの学校の者だろう。
そして
その山の上に立つ
一人の人物。
「・・・何だ”アレ”・・・?」
いや、”人”なのか?
背中に二枚の大きな翼。
その翼の少し下に、小さな翼もある。
双方、漆黒の色をしている。
顔は遠くてわからない。
いや、黒い仮面をつけている。
そしてその両腕には、3本尖った刃が装着されている。
右手側のそれには、丸い玉のようなのを持っている。
「!」
”アレ”は俺らに気づき、その玉をこちらに向かって投げた。
それは俺らの手前に落下した。
「うっ!?」
よく見ると、それは人間の頭らしきものだった。
”アレ”はこちらを向き、その翼を広げた。
その姿はまさに、
漆黒の悪魔、そのものだった。
第1節 完




