53.終わらないゲーム【完】
朝っぱらから、教室内は騒然としていた。
なんで、元の世界に戻れないんだ!!
クリアしたのに、人狼を倒して目標達成したじゃないか!!
等……色んな罵声に近い声が上がっていた。
教室のモニターにピエロ男の姿が映った。
「はーい、みなさーん。
おはようございまーす。
アレレ? クリアしたはずなのに、なんで君達はここに残っているのかな?」
……と、皮肉めいた口調でピエロ男はクラスメイト全員を煽った。
「ゲームマスター!!
私達は憎い【人狼】を処刑して、二度目の願いは帰れるように願いを書いたはずよ!!
なんで、元の世界に帰れないの?」
「えっ? 花田さん、人狼君が言ってなかったかい?
呪いをかけたって?」
呪いと聞いて、クラスメイト一同が騒然としていた。
「の、呪いなんてあるはずがないわ!!」
「今この教室にいるのは、これで全員だよ。
誰がここにいないかを確認してみればいいよ」
山下、金子、薮の三名がこの場所にいなかった。
「人狼に投票しなかった。三名がこの場所にいない」
「待てよ!! おれも人狼の処刑には投票してないぞ!!」
「私も!!」「私もよ!!」
……と、無投票の人間が声を上げていた。
「あははははは!! 君達は面白いねぇー!!
君達は文字通り、人狼君に呪いをかけられたのさ。
彼はね【僕を処刑しなかった人間だけ帰還させてくれ】ってね願いを書いたのさ」
両手をバンバンと叩きながら、ピエロ男は大爆笑している。
「オレらは無投票だから、アイツを殺していない。
だから、ここにいるのはおかしいだろ!!」と、無投票組の藤森が言った。
「何を言ってるんだい藤森君、キミは彼を殺したんだよ。
君達無投票組がキチンと票を入れていれば、【人狼】の彼が死ぬことはなかった。
君達全員が、この場に残る事もなかったさ」
「そ、そんな……」
……と、藤森は言葉を失っていた。
「今回、無事に脱出できたのは三人とおまけで一人ってとこかな。
まぁ一人は、生きてないと思うけどね。どっかの誰かさん達が彼を壊したんだし。
じゃあ、恒例の現地の様子をみてみましょう」
……と、言ってもう一つのモニターをピエロ男は指差した。
モニターには、広い何もないグラウンドが映されていた。
モニターに、いつものように【LIVE】の文字が表示されていた。
モニターには、彼女の膝の上で、目を開けない人狼の人吉と、呆然としている金子と薮の四名だ。
「おっと、音声が入ってなかったね」
ピエロ男が指をパチンと鳴らすと、山下さん達が映るモニターの音声が聞こえ始めた。
映っているモニターでは、山下さんが泣きながら人吉の名前を叫んでいた。
「拓郎くん。拓郎君!!」
「あーあー。可哀想にねぇー。
人狼君は身体はかろうじて生きてるかもしれないけど、心は完全に死んじゃってるんだよね。
どこかの誰か達が壊しちゃったからね。アヒャヒャヒャ!!」
モニター越しに、ピエロ男はダンジョン内にいる人間に皮肉を言ってきた。
「あぁ、山下さん。 この状況に耐えれるかな?
自殺しちゃうんじゃないかな……。アレレっ 、彩子さんに続いて二人目の自殺者が出ちゃう?
そうなると自殺した山下さんと、人狼君の死体の件で確実に生き残った二人が疑われるよね。
この神隠しめいた事件の犯人として金子君と薮さん二人は【死刑】になっちゃうかも!!
あー、楽しい……楽しすぎて、正直、イキかけそう」
教室内では、ピエロ男の馬鹿笑いとモニター内で人狼の名前を呼ぶ3人の声がごちゃ混ぜで聞こえ続けていた。
……
…………
暗い……僕は暗闇の中を彷徨っている。
この場所には誰もいないし、何も見えない、音も聞こえないし、それに寒い。
僕はそんな場所で全てを失うのを待っていた。
もう、探しても、無駄だから……ココには誰もいないし。
瞼が、閉じていく……
「あきらめんなよ!!拓郎!!」
懐かしい声がした気がした。
「さ、佐々木?」
声の主が誰なのかすぐにわかった……僕は周りを見回したが、誰もいなかった。
けど、気のせいじゃない……僕が不甲斐ないから親友が僕を勇気付けてくれたのか?
しばらく辺りの様子をみていたが、反応は全く変わらなかった。
「でも、こんな場所にいるのは辛いよ」
【アイテムボックス】は実は使えたみたいで、そこに見たことのないアイテムが入っていた。
【メッセージボックス】 :人狼の爪を使った際に残される音声入りのメッセージ、所有者を指定して自動再生される。自動再生されるタイミングは指定できる。
(現在は、所有者の心が折れそうな時で指定)
所有者が手動でメッセージを聞く事も可能、メッセージは二種類ある。
僕は……涙が溢れてきていた。
佐々木、最後まで心配かけてすまない。
僕は手動で佐々木のメッセージを聞いた。
一つ目のメッセージは先ほどの「あきらめんなよ!! 拓郎!!」だった。
二つ目のメッセージは、「山下さんを泣かせていいのか? 足掻いてみせろ!!」だった。
あぁ、そうだよな。
彼女を泣かせたらダメだよな。
佐々木、お前が見てくれてんだよな?
僕は寂しい人狼なんかじゃないんだよな?
僕の身体を覆っていた寒さの壁が取り払われた気がした。
……たく……ろう君……拓郎君。
どこから、ともなく声が聞こえてきた。
誰? いや、この声は唯香の声だ……どこだ?
「おーい!! 僕はココだぞー!!」
僕はどこにいるか、わからない唯香に手を振ってアピールするがどこにいるかわからない。
僕の顔に水滴が落ちてきた。
雨? この暗闇でそんなもの降ってきた事なかったのにな。
いや、コレは雨じゃない。この水滴には暖かさを感じた。もしかして、涙?
僕の凍ったように冷たい身体が、水滴の落ちた部分から氷解していくようだった。
僕の目元へと水滴が流れ落ちてきた時……僕の視界が一気に開けた。
「うっ……。まぶ……しい」
「拓郎君!!」
「人吉!!(人吉君)」と3人が僕を覗き込んでいるようだった。
僕は目をこするようにして、3人に言った。
「おはよう。寝坊しちゃったかな。
それと、ちょっと眩しすぎて目が開けられないや」
「おはよう、拓郎君」と言って、唯香は影を作るために身体を僕の方に倒してくれた。
そして、そのまま僕の唇に彼女の唇が……
「お熱いねー!! お二人さん」
「参ったなー。こんなの見せられると」
……
…………
「ふ、ふざけるな。
なんで、【人狼】が生きてんだ?
お前は大人しく死んで、そこの女も自殺しとけよ!!
そうなりゃ、私の考え通り、全滅してんだろうが!!
誰だよ、私の計算を邪魔しやがったヤツはーーーーーーーーー!!」
……と、ピエロ男は怒り狂っていた。
「あっ、もう一人の人狼君か、彼も厄介な事してくれたね。
いいだろう。君達の勝利だよ。
私はこの残ったオモチャで遊ぶとするからね」
再び、いつも通りの感じでピエロ男は教室内にいるクラスメイトに話しかけてきた。
「いやはや、情けない姿を君達に見せちゃったね。
四名は無事に脱出したみたいだよ。 ただ、君達は呪われちゃったし死ぬしかないのかな?」
嫌だ!!
そんな横暴だ!!
死にたくない!!
などと、クラスメイトがピエロ男に対して命乞いをしていた。
「私は公平なゲームマスターだからね。
今回の呪いはといて、全て、呪いも願いもリセットして君達には新しいメンバーで一階から、探索してもらおうかな。
何、君達の学年は6クラス程あっただろ?
B組とC組の人間も集めて混合クラスで、ダンジョン攻略をしてもらおうか。
当然、全て1からね」
クラスメイトの女子から、悲痛な叫びが飛んできた。
「そんな嫌だって言っても、それじゃ君達で殺し合いでもするかい?
最後の一人に残れたら無事に返してあげるよ」
先程叫んだ女子は涙目になりながら首を横に振った。
「君達のプレイスタイルを含め各クラスに対して紹介をしてあげるよ」
・【人狼】を裏切って、クリアを目指した3_A組
・クラスメイトを【人狼】が全滅させた3_B組
・市民班の生き残り数最多の【人狼】を騙し、【勇者】と【魔法使い】を切り捨てた3_C組
「さぁ、この三組でゲームを始めてもらおうか」
【完】




