小休止Ⅲ
柊は目を剥く。
「でも、この子は貴方のことを、お父さんって……。それにあんなにも貴方のことを信頼していた。子供ながらに必死になって、貴方の役に立とうと頑張っていた……」
そこに打算や駆け引きなど微塵もなく、だからこそ素直に二人を親子だと認めたのだ。
巽は少女をちらりと見遣ると、そのなりそめについて語り出す。
「こいつとは俺が霧郡に着いて早々に出逢った。塔を目指して街区を抜けている最中、物陰から見詰める視線に気付いて立ち止まったところ、残骸となったビルの影からおそるおそるこいつが現れ、そして声を掛けて来た……」
《貴方は……、私の……、お父さん、ですか……?》
思念伝達に驚きながらも、巽は即座に否定した。
「しかし、こいつは俺の返答などお構いなしでな。それ以来、俺を父親と呼んでは追って来た」
最初は、トラップの一種だと思ったそうだ。
小動物などに爆弾を潜ませ、無害と油断し近寄ったところで爆発させる。そういう手合いではないかと。
巽は少女を振り切って逃げた。が、少女は諦めず、行く先々で何度も何度も姿を現した。
「そのうち、だんだんと撒くのも面倒になってきてな。魔術師というわけでもなさそうだし、誰かに操られている様子もない。で、なんとなく今に至っている」
紙煙草の灰を携帯灰皿に落とし、巽は紫煙を燻らせる。
「……そいつには、記憶がない。社会通念上の知識は備わっているが、両親、友人、生まれた場所、生活習慣などは何も覚えていないそうだ。わずかな所持品にも身許の手がかりと呼べるものは何もなかった。だから、何処の誰かもわからない。おそらくは霧郡と共に落ちた世俗民だろう。精神感応は、後天的に発現したものだろうな……」
「危機的状況に陥って、突然能力に目覚めたってこと?」
巽は静かに首肯する。
「これだけの力を隠しながら生きることは難しい。素養は元々あった。それが次元破断の襲来に伴う諸々の影響で覚醒した。記憶の喪失と能力の覚醒に因果関係があるかも不明だ。俺を父親と勘違いしていることも関係があるのかもしれないし、無いのかもしれない」
「………」




