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次元破断の魔術師  作者: 秋原
早蕨の塔

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尋問Ⅱ

 

「………」


 久慈原は即答しない。じっと何かを考え込むように唇に指を当てている。

 多々羅も焦らすような真似はしない。脂汗をひた隠し、悠然と答えを待っている。

 ややあって、久慈原が口を開いた。


「そういえば……、氏子(うじこ)たちの姿が見えませんね。どうしましたか? 今回の任務にも当然のように随伴させていたと思うのですが?」

「…………」


 世間話のような気軽な物言い。

 だが、それが(もたら)した静寂は、傍観者である柊さえも痛くなるほどの緊迫感に満ちていた。

 久慈原が訳知り顔で口を開く。


「多々羅は、変貌魔術を使う一族。全身を肥大膨張させ、生体機能を強化。同時に堅牢な外骨格を生やします。その姿は鬼と呼ぶに相応しいもの。獅子程度であれば赤子の手を捻るよりも簡単に殺せますが、貴方たちの本領はそこにはありません」


 滔々(とうとう)と語る久慈原の眼には、突き刺すような鋭さがある。


「連携。当主と氏子たちの阿吽(あうん)の呼吸による卓越した集団戦こそが、多々羅の華であり真骨頂。氏子は当主争奪戦に敗れ、本家筋を追われた落伍者を中心に構成されていますが、だからと言って素質が劣っているわけではありません。鬼への変貌も可能ですし、屈強さも折り紙付き……。なのに、それが一人も見当たらないというのはどうしてでしょう。教えてくださいませんか、多々羅家当主、多々羅信篤さん?」


 薄気味悪い沈黙を破ったのは、渇いた多太羅の笑い声だった。


「やられた。やられちまったよ。おそらく、一人として生きちゃいないだろうな。まあ、こんなこともあるさ」

「……ほう。頭である貴方を生かすための捨て駒にでもなりましたか」

「盾として(じゅん)じることも、奴らの役割だ。なに、悲嘆することは何もねえ。俺達一族は数が多い。すぐにまた揃えられるさ」


 事もなげに言ってのける多々羅を、久慈原はじっと見詰める。


「……わかりました。では、まず断片の所在地――早蕨の塔の座標を教えてください。応急手当はその後という事で。治療中に気絶でもされたら面倒ですしね。二度と起きないかもしれませんし」

「ちっ、縁起でもねえこというなよ」


 多々羅との合流のためにアジトの座標は教えて貰っていたが、機密保持の観点から、多々羅の任務内容までは聞かされていなかった。

 近習衆の久慈原にしても、多々羅の目的が断片探索であることや、その在処である塔の特徴などは教えられていたようだが、子細までは知らなかったようだ。

 多々羅の口から漏れた数字の羅列を、柊は地図と照らし合わせる。

 此処からそう遠くない。これならば、一両日もあれば往復できるだろう。

 他にも塔に纏わる幾つかの情報を聞き取ったところで、多々羅が言った。


「さてと、それじゃあ塔の魔術師の話をする前に、とりあえずは止血だな。非常電源室に、霧郡の廃病院で見つけた資材がいくつか転がっている。バックパックに余裕がなけりゃ、その中から使えそうなものを取ってきてくれ。あとは腹の足しになりそうなもんを適当にな」


 両手両腕を失っているにも関わらず、平然と食事を要望するメンタリティに柊は感嘆する。

 まあ、いい。どうせ雑用全般は私の仕事だ。久慈原に命じられる前に済ませてしまおう。

 そう考えて(きびず)を返そうとした、その時だった。


「ああ、それには及びませんよ。もう必要ありませんから」


 にっこりと笑う久慈原の声の不気味さに、柊はびくりと硬直する。


「小僧、どういうつもりだ?」


 多々羅が牙を()く。が、久慈原に動じる様子はない。


「三十二。この数字が何を意味するか、解りますか。多々羅さん? ああ、貴方を抜かせば三十一か」


 多々羅の眉間に深い溝が(はし)る。


「貴様……っ! なぜ、それを‼」


 何の事だかわからない柊を余所(よそ)に、くすくすと久慈原は(わら)う。


「未踏の霊場、更には次元破断の奪取に挑むのです。何が起きるかわからない。御屋形様からも準備は万全を尽くすようにと言われたのでしょう。だから貴方は十一人の氏子全員に加え、その嫡子十四人、分家筋から四人、そしてあなた自身の息子二人を連れて来た。多々羅の術式を継承し、使役できる血統血脈の全てをね。それでどうして、頭数がすぐに揃うと? もはや一門は根絶寸前。滅亡の(きわ)ではありませんか」


 多々羅の血走った眼を見るに、それは真実なのだろう。

 柊は驚く。

 多々羅が変貌魔術の使い手であること、集団戦術を得手としていたこともそうだが、どうして霧郡に派遣された陣容の内実まで知悉(ちしつ)している? 

 あてずっぽうなんかじゃない。おそらくは、何処かに空いた多々羅の秘匿の破れ目から、ずっと静かに(うかが)っていたのだ。近習衆の長を追い落とす機会を、虎視眈々(こしたんたん)と。


「当主競争に敗れて氏子となった者は、何があっても二度と当主にはなれません。しかし、その子息には資格があります。それを原動力に次代を鍛えさせ、より優良な個体を輩出し、当主の座を争わせる……。素晴らしいシステムでしたが、それも終わりでしょう。そう、此処で貴方さえいなくなれば完璧に」


 久慈原は姿勢を前傾に構える。

 錦の羽織の右袖に左手を添え、腰を落して膝を(たわ)める。

 誤魔化しようのない殺意の発露に、多々羅が()えた。


「久慈原!」

「僕は貴方を過小評価していませんよ。氏子たちが生命を捨てたのは、貴方さえいれば再興できるという確信があったからこそ。だから、僕の手で完全に断ち切って差し上げます。ああ、安心してください。貴方の助けがなくても、実力で近習衆のトップに昇り詰めてみせますから。それになにより……、初めて逢った時から不快で不快で仕方がなかったんですよ。僕のことを下劣下等と侮蔑する、その傲慢稚気(ごうまんちき)な目付きがね」


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