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第9話 半神と盗賊

 草原から続く足跡を追っていくと、森に辿り着いた。


「ここからは慎重に進まないとな……木の陰からなにがでてくるかわからない」

「うん」


 ルーリィはどこか不安そうに俺のローブの端っこをぎゅっとつかんでいた。

 何かあった時にとっさの動きがしづらくはあるが、可愛いのでほっておく。

 そのまま足跡追っていく。

 道なき道のように見えて、微妙に踏み固められた小道。

 枝や草で巧妙に隠され、おそらくちょっとやそっとじゃ気づきそうもないあたり、相当な慎重派なのかもしれない。

 俺は地球にあった読み物でよく盗賊は噛ませ犬にもならない、主人公に蹴散らされる人達というイメージを改める。

 

 よくよく考えてみれば、彼らはプロだ。

 盗みと殺しのプロ。

 そう簡単に事が進むわけがない。

 何で俺はここにいるんだろう。頼まれたからか。娘が12歳以下であることに期待して、あわよくばと思っているからか。

 そうだな。そうに違いない。

 

 俺とルーリィは黙したまま、その隠された小道を進んでいく。

 道中、あの漆黒の虎や兎のような、魔物的なやつらと出くわさなかったのは幸いだった。

 あるいは、盗賊どもが定期的に狩ってアジトの周りを安全にしているのかもしれないが。

 まあ、確実にそうだろうな、とは思う。

 自分たちが魔物にやられてしまっては元も子もないし。


 と、そんなことを考えながら歩いていくと、一つの洞穴があった。


 その前には3人の男がたむろしており、たき火を囲んでいる。


 俺はルーリィに合図をして、そっと木の陰に隠れると、何事か話している彼らに耳を傾けた。


「あー、ったく、ついてねぇよなぁ……なんだってこんな時に見張り番がまわってくんだよ」

「いうな、バカ」

「口に出すと虚しくなるだろが、殺すぞ」

「んだと、てめぇ!」


 3人とも似通った風貌の男だ。

 ドスの効いた傷だらけの強面に野太い声。

 おそらく、日本で会っていれば、下を向いて端っこによけて通り過ぎるまでおとなしくしているのがベストな、武闘派は連中だ。

 粗末な服に、錆と罅だらけの、胸だけを覆っている軽鎧けいがい。薄汚れたバンダナを額にまき、髪の毛が邪魔にならないようにしている。

 一つだけ違うとしたら、うち一人は完全に禿げあがっており、バンダナはおしゃれでつけてるのかと、思わず突っ込みそうになるってところくらいだった。


「落ち着けよ、言ってもどうしょうもないことだろ。お頭の命令にゃ背けねぇ……次の獲物は俺たちも楽しめる」

「けどよぉ、おれぁ、あの女勇者の泣き叫ぶ面が拝みたくてよぉ。お頭のメインディッシュは、確実にあいつだろ?」

「あの女もついてねぇよな。よりにもよってリッチーの野郎を殺っちまうんだから」

「かっ、俺は清々したけどな。あいつ大した実力もねぇくせによぉ、お頭のお気に入りだからって調子のりやがって」

「違いない」

「俺もすっきりしたぜ。あのカマ野郎がいなくなってな。っと、こんなことお頭に聞かれたら俺たちもどうなるかわかったもんじゃねぇな」

「傑作なのはそれからだよなぁ。お頭にボコられて小便漏らしながら、くっ、殺せなんて言われてもなぁ」

「結局首輪かけられて裸のまま走らされて連れてこられてるしな。今頃お頭楽しんでるのだろうな」

「そういや、女勇者を助けようとしてキンタマ刻まれた男勇者も見ものだったな」

「ああ、あれな! お頭って自分よりでっかいの持ってるとすーぐ刻むんだよなぁ」

 そういって男たちは股間を抑え、体を震わせるようなジェスチャーをすると、げらげらと笑った。

 

 俺はその会話の頭の悪さに辟易しながらも、言葉が普通に通じていることに驚いていた。

 そういえば、妻と娘を助けてくれと頼んできた男の言葉も普通に通じていた。

 と、神の知識が浮かんできて、言語理解がパッシブ状態となっていることを知る。

 まあ、それもそうかと思いながら、俺は目の前で繰り広げられる不愉快な会話を、それ以上聞くのも嫌なのでなんとか中に入る方法を探ろうと、周囲を見渡した。

 その間にも見張り番たちは会話を続けている。


「ところでよ、女勇者もそうだが今回は上玉がまだいたよな。そいつらが俺らには回ってこないことが俺は残念でならない」

「ああ、あの母娘かぁ。あの女の旦那みたいなやつが、妻と娘だけは、妻と娘だけは~って泣き叫んでて面白かったなぁ」

「ああ、あれは愉快だったな。あいつも連れてきて目の前で妻と娘を犯してやったら、どんな反応すんだろうな」

「おまえ、娘つったら10歳くらいの小便くせぇガキじゃねぇか。そういう趣味だったのかよ」


 ――殺そう。

 一瞬で俺が纏った雰囲気に充てられたのか、ルーリィがびくっとして俺を見上げる。

 俺のローブをつかむ手にぎゅっと力が込められた。


「一切の容赦なく、必滅せよ」


「「「は?」」」


 俺の呪文詠唱が終わり、魔法が解き放たれた瞬間。

 空が急激に暗くなり、何事かと空を見上げた見張り三人組は示し合せたかのように、間抜けな声を上げた。


「シンくん、ちょっとこれ……」

「あいつらは俺の大切なものに手を出した。それだけだ」


 空を埋め尽くす、槍。


「我が裁きは、神の怒りと知れ!」


 俺は木の陰から躍り出て、三人組に俺の怒りを体現する、その言葉を告げる


「なんだてめぇ!」

「これはお前の仕業か?」

「くだらねぇはったりだ。やっちまえ!」


 三者三様に反応し、いち早く臨戦態勢をとったのはやはり場慣れているからか。

 しかし関係ない。


「世界の至宝に手を出したお前らの運の悪さを恨むんだな……多槍撃!」


 魔法発動のその言葉を唱える。

 すると、空を埋め尽くしていた数百の槍が、地上の三人組に向けて殺到した。


 ずがががががが、とすさまじい音を立てて三人を貫いていく。

 悲鳴を上げる暇すらなく、血しぶきすら貫いて、三人の体は細かく砕かれていく。

 まるで消滅したかのように跡形もなく吹っ飛ばされた彼らの存在は、槍から魔力が霧散して消えたあと、耕かされた大事に黒く染みる血だまりのみがその証として残っていたのだった。


 にわかに洞窟の中から騒がしい声が聞こえる。

 どうやら今の音が仲間で響き、何事かと慌てているらしい。

 俺はルーリィに目くばせすると、洞穴の中に飛び込んでいった。

 

「し、しんくん、あぶないよぉ、もっと、慎重に!!」


 ルーリィが息を切らせながら言うが、そんな場合じゃないのだ。

 宝が。宝がクソにまみれるかもしれない。

 そう思うと、俺は止まれなかった。

 

 なぜなら――それを汚すのは、俺の役目だ。


 ルーリィは大切だ。俺は必ず彼女を守るだろう。

 彼女だけを愛そうと思ったこともあった。

 けれど、それは土台無理な話だったのだ。

 10歳、娘、と聞いただけで俺は逸っている。

 俺以外の男に汚されそうだと知って、激しい嫉妬心にまみれている。


 ロリは、リアルロリはすべて俺の物なのだ


 だから――俺は、この半神、という今の俺の存在の事をようやく正しく把握した。


 洞穴の奥から、等間隔に設置されている光源ライトボールに照らされながら、汚らしい格好をした粗野な男たちが現れた。

 俺は腰に履いていたホーンデビルの剣を引き抜くと、大地を蹴る足に力を込める。

 まるで足元が爆発したかのうにえぐれ、その推進力をもって男たちに肉薄した。

 すっと、戦闘にいた男の首に剣を通すと、あっさりと首が転がり落ちていった。

 突然のことに動揺した男たちの間を縫うようにして、すれ違いざまに首を落としていく。


 体が自然に動いていた。まるで、あらかじめその動きを知っていたかのように。

 解放されたのだ。

 半神という存在を正しく理解する――すなわち、それはパッシブ状態となっている能力を自覚することだ。

 全ての武術に通じ、全ての状態異常に耐性を持ち、魔法を自在に操れる。

 そう、俺は半神となった。人の枠を超えて、神の頂に半歩踏み入れたのだ。

 体が羽のように軽い。

 俺は道中、追いかけてくるルーリィに害が及ばないよう、すれ違った盗賊たちの首をすべて狩りながら、やがて洞穴の中の大きく開けた広場へと辿りついた。

 そこには――


「よくもまあ、暴れてくれやがったなぁ、クソ野郎が」


 数十人の盗賊たちと、その中央に、お立ち台のように高くなっている場所に、筋骨隆々とした大男が全裸で、しかも彼の彼を雄々しくそそり立てながら立っていた。

 しかも、周りの盗賊たちも全裸や下半身だけ脱いでるやつがほとんどだった。

 そしてほとんど全員いきり立ってるし……なんだこの地獄。


 俺は吐き気さえ覚えるこの空間から逃避するように視線を走らせて、俺の宝を探す。

 すると、大男の足元に、一人の燃える様に赤い髪をして、褐色の肌の女性が、全裸で倒れている。

 突然現れた俺に驚いているのか、茫然とこちらを見ている。

 俺はその瞳がまだ死んで無い事を確認する。どうやらまだ決定的なところまではやられていない。

 そのことに安心したが――だけど、君じゃない。


 次にその近くにこれまた全裸で倒れている茶色い髪の、白い肌をした、すこし年配の女性が横たわっている。

 三〇代と思しき彼女の肌には、無数の赤黒い痕が刻まれ、その瞳は虚ろだ。

 かすかに動く胸で呼吸が止まっていないことに気づくが、こちらはもう手遅れなのかもしれない。

 そのことを無念に思うが――だけど、君じゃない。


 そして俺は――見つけた。

 お立ち台の中央に粗末な寝台があり、だが十字の形をした磔刑台が掲げられている。

 そして、そこにまだ小さい、小さい少女が貼り付けにされていた。

 手首と足首を茨で犯され、血がじくじくと滲んでいる。

 その瞳は、白い肌の倒れている女性に向けられ、涙をこぼしていた。

 はらりはらりと落ちるその涙は、いささか不謹慎ではあるが悲嘆にくれた聖女が流す雫のようにも思えた。

 茶色い髪、青い瞳、絹のような白い肌――粗末な衣服に包まれたその体は起伏に乏しく、彼女こそが俺の探し求めていた女性ひとだと告げている。


 気が付けば、俺は告げていた。


「お助けに参りました、我が姫よ(マイロード)」


「何言ってんだテメェ、バカかっ! おまえら、やっちまえ! こいつを殺したやつにはこの女勇者をくれてやらぁ!」


「一切の容赦なく――」


 俺はその呪文を唱える。その間にも盗賊どもは俺に殺到する。

 

「必滅せよ――」


 発動となるその言葉を放つ前に、先頭にいた盗賊が俺に剣を振り下ろす。

 俺はホーンデビルの剣を無造作に一振りすると、その手入れをしていないかのように程度の低い剣ごと盗賊を真っ二つにした。

 その余波で周囲にいた盗賊たちが吹っ飛ぶ。

 そして、俺の魔法は完成した。


多槍撃バレッドランス


 外で放った時と違い、俺の前方に無数の槍が出現し、それはすぐさま放たれると盗賊たちを蹂躙していった。


 後に残っていたものは――お立ち台の上にいて難を逃れるも、ただ茫然と腰を抜かした盗賊の頭と、捕まった女性たち。

 もちろん、彼女たちに害が及ばないように、低い位置で放ったのだ。

 そして術者たる俺と、息を切らせてようやく俺に追いついたルーリィだけだった。


「なんでおいってっちゃうの~! コワかった! こわかったよぉ」


 俺に飛びつき、ポカポカと殴ってくる。なんだこの幸せ。


「すまん。10歳の女の子と聞いていてもたってもいられなくなってしまった」

「もう、シンくんにはあたしがいるでしょ!」


 ぷんぷんと頬を膨らませて、必死であたし怒ってるんだからねポーズをしているルーリィの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。

 すると、ふにゃあ、と鳴いた。

 俺はその反応に満足すると、


「さて、お頭さん、でいいんだよな? 覚悟は出来てるよな? 出来てなくてもお前を殺すけどな。そいつは俺の女だ。返してもらう!」

 

 俺は足元が爆発するような踏み出しを推進力に、一気にお立ち台の上まで詰めるとお頭に肉薄し、そして

ためらいなくその首を斬り飛ばしたのだった。


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