第11話 半神と奴隷
「お母さん……お母さん……一人に……しないでよぅ……」
薄暗い洞窟の、幾人もの死体が折り重なるその中にただただ聖女の慟哭がしばらくの間響き渡っていた。
女勇者も、ルーリィも、痛ましそうにその姿をみつめるだけで、ただただ立ち尽くしている。
当然俺にもそれを止める手立てもなく、ただ見ているだけしか――否。
これはチャンスなのだ。
聖女――アウラは今、大切な人を失って弱っている。
なればこそ、そこに漬け込む隙があるのだ。
我ながら下衆な考えではあるが、これで彼女も救われる。少なくとも、今ある現実から目を逸らすことができる。
例えそれが優しさの皮をかぶったそれ以外の何かだとしても。
俺はそっと彼女のそばに座り、慎重に手を伸ばしてその髪を撫でた。
びくっと彼女の体が震える。
……どうしよう。こっからどうしていいかわからん……
凄まじいまでのノープランっぷりに、俺は自分で自分に辟易して、ため息をついた。
すると、アウラは涙にぬれた瞳をこちらに向けた。
涙と鼻水ぐちゃぐちゃになってはいたが、アウラの美しさを少しも損なうことなく、むしろ妙な魅力を伴い俺を刺激する。
たまらなく愛おしくなり、俺は彼女をそのまま抱きしめていた。
アウラは体を硬直させ、しかし振りほどくことなく俺の胸の中で泣き続ける。
「暖かいな……」
ふと俺の口をついた言葉が洞窟に響き渡った。
俺の胸の中でくぐもった泣き声を上げていたアウラがびくっと体を震わせる。
「暖かいんだ。アウラ」
アウラが顔を見上げた。涙こそ溢れていたが、虚を突かれたような顔をして、泣き声は止まっていた。
「アウラ。君はまだ暖かい。まだ、君は生きているんだよ」
生きている。そう、アウラはまだ生きている。
「残念だけど……君のお母さんとお父さんは死んでしまった……」
「シンくん!?」
「シン様!?」
ルーリィと女勇者が非難めいた声色で驚く。
アウラはと言えば、その顔をくしゃっと歪ませていた。
そらそうだろう。彼女はまだ10歳……両親の死を受け止めるにはまだ若すぎる。
けれど――
「死んでしまったんだよ。アウラ」
ひぐっ、としゃくりあげる声がアウラから響いた。
そして、
「なんで……なんでもっとはやくたすけてくれなかったの……?」
「……っ!」
「アウラ様……それは……っ!」
何事か言いかけた女勇者を視線だけで制し、むっとしているルーリィに微笑みかける。
予想していた言葉ではあった。それはそうだろう。
父と母を殺され、怒りをぶつけるべき盗賊たちは俺が殺してしまった。
幼いその身で背負うには重すぎる、行き場をなくした彼女の感情は、一番分かりやすい俺に向かってくる。
覚悟はしていた。だが、実際に言われると、けっこうきつい。
「ごめん……ごめんな……」
実際、この時俺がどんな表情をしていたのか、わからない。自分では見れないからな。
ただ、確かに一瞬アウラは驚いたように目を見開き、すぐさま自分で言ったことの意味が分かったのか、その表情がまた別種の感情で歪んだ。
それをみて、俺は聡い子なんだな、とそんなことを思った。
だから、アウラを抱く腕に力を籠める。
「間に合わなくて、本当にすまない」
アウラの体が震える。それは罪悪感だ。
自分で言ってしまったことの意味を悟った少女にとって、一番堪える返答だろう。
だから俺は、彼女の耳元で、謝罪の言葉をつぶやいた。
右手を彼女の小さいおしりに添えて。
アウラはそんなことを気にする余裕もなく、再び泣きじゃくり始めた。
もう、どうしていいのかわからないのだろう。行き場を失った彼女の感情が、ただただその胸の内でぐるぐると回り、慟哭として溢れてくるのだ。
どれだけの間そうしていたのだろうか。やがて彼女の泣き声の中に、意味のある言葉が混じり始めた。
「……じゃった……おか……さん……しん……よぉ」
尻に添えた右手はそのままに、俺は左腕で彼女の背中をさすってやる。
いつしか、アウラの体から力が抜け、すべてをこちらに委ねている。
「お母さんが、しんじゃったよぉ」
悲痛なその言葉が彼女の唇から明瞭に紡がれ、空へと解けて消えていく。
すんすん、とルーリィの鼻をすする声が聞こえていた。
俺は女勇者に目くばせをすると、彼女の事を任せる。
本当は嫌だったが、今はアウラだ。ルーリィはすでに俺に墜ちている。
そもそも、今泣いていいのはアウラでルーリィは泣くべきではない。
俺はその当たり厳しい男なのだ。
女勇者に何事か言われたルーリィは一度目をこすると、泣きそうになるのを必死に耐えている。
かわいい。何と可愛い女の子なのだ。
いろいろと落ち着いたらたっぷりと愛してあげなければな……ふひひ。
そんなことを考えながら、俺はアウラの背中をさすり続けた。
しばし時が経ち、アウラはひとつ、「お母さん」と呟くと泣き疲れて俺の中で意識を失い、寝息を立て始めたのだった。
「お疲れ様です。シン様」
俺の腕の中で眠っているアウラを確認し、女勇者が声をかけてきた。
ふざけるな! クソが。
俺に最初に声をかけるのはルーリィと決まっているだろうが!
そう思って幼い女神を見るとむっとしたような顔で女勇者を睨んでいる。
女勇者は微笑ましそうにそれを見ると、「すみません」と、笑いながら言った。
「シン君、お疲れさま」
よしよし、とルーリィが俺の頭を撫でてくる。
彼女の暖かい掌に触れた俺の頭はもうふっとーしそうだよぉ!
思わずルーリィを抱きしめようとして、アウラでふさがっていることを思い出す。
目の前に女神、腕の中で聖女。なんだこの幸せ。
しかし、ルーリィを抱きしめることができないもどかしさに、身体を震わせているとそれを察したのか、ちょこんと彼女の可愛いお尻が俺の膝の上に乗った。
その少し骨ばった感触が心地よく、アウラの体の下に挟まった俺の俺がぴくりと反応した。
アウラの体重が俺の俺を心地よく刺激してくれる。
がんばったしな。これはご褒美だ。
やっぱりリアルロリは最高だな……
「ところで、シン様……」
俺が至福の中でそんな感慨にふけっていると、ふと、声がかけられた。
聖女でもなく、女神でもなく、ただの女の声で。
「なんだ?」
アウラやルーリィに対するより、若干声質が冷たくなってしまうのはしょうがないだろう。
だって、俺が庇護していろんな意味でかわいがるのは12歳までだから!
「今後、私たちはどうなるのでしょう?」
知るか。どこになりともいけばいいじゃないか。
もちろんアウラをおいてだが。
そんな言葉が出かかったが、なにやら深刻そうな表情をしており、何かあるのだろうと察する。
困ったときは神の知識だ。
――名前 セリア・イアハーツ
性別 女
職業 勇者
状態 女神の加護
奴隷
装備品 シンのローブ(半神級)
隷属の首輪(取り外し不可)――
「隷属の首輪か……」
そう呟きながら俺は、女――セリアの首元を注視する。
すると、なにやら霞みがかったように喉の周りに魔力が渦巻いている。
それが隷属の首輪だ。
物理的な素材を一切使う事はなく、ただ、身体に隷属の魔力を刻み込み、たとえ術者が死んだとしても、対象の魔力を利用して存在し続ける邪法。
解呪する方法はなく、最初の主人たる術者が死んだ場合でも、一番近くにいる人間の魔力とリンクし、永遠とその身を奴隷とする最悪な外法。
神の知識にアクセスした俺は、そんな効力を知って、思わず可哀想な瞳でセリアを見ると、彼女は今にも泣きそうな表情だった。
奴隷に落とされて、いろいろとされたんだろう……悲惨ではあるが、取り外し不可と出てるしな……
おそらくアウラにもついているのだろうが、こちらはもう俺の物だから取り外す必要もない。
むしろ、ロリ奴隷ととかヒャッハァと俺の俺が暴れはじめますよってなもんですわ。
「わたしは……最前線ギルド本部序列が一三二位 セリア・イアハーツはシン様にすべてをささげる覚悟はできております……ですので、何卒、何卒アウラ様にご慈悲を……」
セリアは そういうとその場に跪いた。額を地面にこすりつけるような勢いで首を垂れる。
その体は震えていた。
「あー……勘違いするなよ。俺はアウラもセリアも奴隷扱いする気はないよ。むしろ、解放したいとさえ思ってる……方法があればだけど」
その言葉に、セリアはがばっと顔を上げ、どこか希望に満ちた表情で俺を見ている。
少し鬱陶しい。
と、そこで神の知識にアクセスする。だが、解放する方法はなかった。
だが、これは……なるほど……
「解放する方法はない。だがらアウラは俺が保護する、という形をとる」
「それは……はい、そうするしか方法がないと思います」
残念そうにセリアは眉をひそめた。
そして俺はそんな彼女にニヤリと笑う。
すると、セリアの表情が不安そうに揺れる。正直、少し面白い。
「そしてお前には一つ命令をしよう」
セリアの目が見開かれた。
「そ、そんな……さっきは奴隷扱いしないと……」
じわりと、彼女の瞳に涙が浮かんだ。ぶるぶるとまるで屈辱に耐えるかのように腕が震えている。
俺はニタリと唇を吊り上げると、その命令の言を告げた。
仕事の修羅場がようやく終わりが見えました。
見捨てずにブクマしてくれてる方々、更新が滞っているのにアクセスしてくれている方、本当にありがとうございます。
今後とも、何卒よろしくお願いいたします。




