7話 ~魔防具~
「もう、そんな思い切らなくっても。服が爆発するわけじゃあるまいし……」
パァン!
「……えっ?」
「あ~~……」
羽織ろうとした隊服は、生地のしっかりした厚みに反して、アッサリと周囲に爆発四散してしまった。
(あ~、案の定)
「…………」
「…………」
「も、もう一着、持ってきましたけど」
痛い。沈黙が痛い。
私と隊長が無言で見つめあう、そんないたたまれない雰囲気に耐えかねてか、ブラウがおずおずともう一度服を差し出してきた。
ありがたい。でも、繊維という資源を、これ以上消し炭にしてしまっていいのか。
二枚目といえど、どうなるか結果は想像がついた。
この世界の服の単価はわからないものの、再び隊服をこっぱみじんにしていいものか。
うんうんと悩みつつ、差し出された隊服に手を伸ばすべきか迷っていると、
「ねぇ……あなた」
隊長が、ジト目でジーッと私を見つめてきた。
まるで、殺人事件の容疑者の気分。
いや、これはそれよりも、探偵が最後、犯人を指名するときに見せる、核心的な目つきという方が正しいかもしれない。
(ああ、これはもしや、お前やっぱりスパイだな! って展開……?!)
「な、ななな、なんでしょう」
「ちょっと腕を出してくれるかしら」
「う……腕!?」
単純な指示だというのに、すぐに従うことができず、カチコチに硬直した。
だって、腕って。
隊長の背中に背負われた特大の大剣に、どうしたって目が向いた。
「言っとくけど、切り落としたりなんてしないわよ」
「そ……そう、ですよね!!」
あっという間に思考を先読みされて、ブンブンと首を縦に振った。
もしや、隊服を台無しにされた報復の落とし前!? なんてヒヤヒヤしたものの、どうやら違ったみたいだ。
「え、えっと……どうぞ」
隊長の切れ長のまなざしの下に、スッと腕を伸ばした。
べつに、なんてことのない腕だ。
準日本人らしい、やや黄色みがかかった肌の色。なぜだかムダ毛は消失しており、つるつるすべすべだ。
「ああ……やっぱりね」
爪が伸びてるなぁ。切ってなかったからかなぁ。
なんてボーっと腕を眺めていると、彼はスッと目を細めて、私の皮膚に指を近づけた。
「かなり強い魔力の流れがあるみたいね。……これじゃ、服を着るのも一苦労するはずよ」
「……えっ、魔力の流れ? ど……どういうことですか」
強い魔力の流れ、とな。
ヨモツヘグイ的なアレ、じゃなかったのか。
(それにそもそも、魔力とは?? やっぱりこの世界に魔法はあるんだ!!)
思わず食い気味に前のめると、隊長はビクリと身を引きつつ、うなづいた。
「えぇっとね、あたしもうまく説明できないんだけど……あなたの肌の上に、強力な……そうね、強烈、と言ってもいいわ。そのくらいに強い魔力が、絶えず流れ続けているみたいなの。目には見えないけどね」
「肌に……つよい、魔力?」
「そう。それがすべてを拒絶する壁になって、触れた服を弾き飛ばしちゃったのね」
なんと、私が服を着られないのは、異世界転移した結果、とんでもない魔力とやらを手に入れたからなのか。
がぜん、異世界転移ファンタジーっぽくなってきた!! 代償がすっぱだかなのはどうかと思うけど。
「毛布が大丈夫だったのは、たぶん、手で押さえてるだけで、完全に体を覆ってはいなかったからかしらね」
再び裸体に戻った私は毛布をガード代わりにしている。
ということは、これをローブのように服として使ったらアウトということか。どうしろと。
私が無言で毛布と体の間にすき間を作るのを見つつ、隊長はヤレヤレ、と両手を上げた。
「ふつう、本人の意図しないところでこんなことにはならないはずだけど……よほど魔力量が多いみたいね。記憶を失う前は、いったいどうしていたのかしら」
困ったように笑う彼を前に、体がワナワナと震えだすのを感じる。
だんだんと、状況が理解できてきた。
ものすごい魔力がある。これは朗報だ。もしかしたら、めちゃめちゃ強力な魔法をぶっ放して無双できるかもしれないから。
しかし、しかしだ。それを補ってあまりある代償が、ハッキリ提示されはしなかっただろうか。
つまり、今の話では――この身にそなわる強力な魔力とやらがある限り、いっさい『服を着ることができない』と言われたも同然だ。
「わ……私、ずーっとこのまま、すっぽんぽんでいなきゃならないってことですか!?!?」
「すっぽ……なんですって??」
頭上にハテナマークを浮かべる隊長とブラウを前に、私は絶望に打ちひしがれて、しゃがみこんだ。
「うぅ……ウソだぁ。こんな壊滅的に運のない転生……じゃない、転移って存在するの……!?」
もっとこう、剣と魔法でファンタジー!! な世界観を楽しむ、ウッキウキ最強無双生活かと思いきや、だ。
なんの説明もなく呼び出され、まともに服すら着られないなんて、いったいどんな拷問なんだろう。
シクシクと悲しみの涙を流しつつ、毛布をまとって体育座りで拗ねていると、
「あ、ちなみにだけど……服を着る方法はあるわよ」
「えっホントに!?」
神の恵み、天の助け。
隊長の金色の髪が、まるで天使のように輝いて見える!
私のあまりに期待しきったまなざしにたじろいだ様子を見せつつ、彼はうなづいた。
「魔力の流れを遮断しない、特殊な魔道具を着ればいいと思うわ。ただ、数が少ないし、デザインも特殊なものばっかりだけど」
「ま……魔道具!?」
なんだろうその、すごくステキな響きは!
賢者のローブとか、天空人の衣とか、そういうアレか!?
私がウキウキと声を上げると、隊長はえーっと、と思い出すように視線を宙に漂わせた。
「たしか、うちの部隊でも偶然拾ったものがあるわよ」
「えっ……そんな、高価なものなのでは!?」
「誰も着られないし、構わないわよ。まぁ、ふつうの服じゃないけど……」
「い、いいです! 裸よりは……ハダカよりは!!」
肌を隠せるのであれば、どんな服だってかまわない!
私のそんな気迫に押されてか、隊長は美しい金髪を軽く掻き上げ、小さくため息をついた。
「……ブラウ。あれ、持ってきて頂戴」
「エッ……あ、ハイ。わかりました……」
みょうに戸惑った態度で、ブラウはテントの向こうへ消えていった。
なんだろう。すごくイヤな予感がする。
でも、贅沢を言ってられる立場じゃないし、どんな服であってもハダカよりはマシだろう。
はだかよりは!
私がそう自分自身を鼓舞している間に、再びテントの間から、子どもが姿を現した。
「た……隊長! ブラウから聞いて、おれ、持ってきました」
「あらグリュー、どうもありがと。じゃ、こっちに」
戻ってきたのは青髪の少年ではなく、顔を真っ赤にしてなまいきそうな顔をしていたグリューというエメラルドグリーンの髪の子どもの方だった。
ペラッとめくれたテントのすき間から差し込んだ光で、みどりの髪がキラキラと輝く。
うわぁ、キレイな色だなぁ、なんてのんきな感想を抱いた――ものの、彼がもってきた衣装がばっちり目に入って、心がバキバキに揺れた。
「え……ちょ……それ」
「あきらめて。……今、この部隊が持ってる魔道具は、コレしかないのよ」
そう言って、隊長がグリューから受け取ったものを私へ差し出してきた。




