67話 ~杖探し2~
杖の価格、というのは元の世界から考えてもサッパリ検討がつかない。
さっきの店に飾られていた杖は、正直一番安いものでも20000Gくらいしていた。
店主の秘密の工房に置かれている杖なんて、いったいどれほどの値段なんだろう。
グランチェスタはフフッと意味深な笑みを浮かべると、指先と指先を合わせて、小さく円を描いた。
「タダで」
「えっ……た、たた、タダ!?」
聞き間違いかと、何度かくり返せば、彼女はニヤニヤと笑う。
「ええ、タダで。なにせ……ここにあるのは、いわゆる失敗作のようなものでして……」
「え……失敗、作……??」
並べられている杖をジーッと凝視するが、確かに店売りのものより小ぶりであるが、ニスを塗って装飾でもすれば、立派に売り物になりそうに見える。
不思議そうに見つめる私の視線を追って、グランチェスタはゆったりと言った。
「失敗作、というとちょっと語弊がありますかねぇ……ふつうの人間は、この杖では自分の魔力を引き出せないのですよ……杖の持つ力が、大きすぎて……」
「杖の持つ、力……?」
「さっきの話と矛盾するようですが……道具が良すぎるのも考えもの、ということです。これらは、強力過ぎる力を秘めている……ゆえに、よほどの魔力を持つ人間でないと、使いこなせない……ゆえに、販売はしていないのです」
――よほどの魔力を持つ、人間。
わあ、と気持ちが浮き立った。
なんだか、とても褒められたような気がして。
「と、いうことは……私は、とっても特別な人間ということで……!?」
「といいますか……人間とは思えないほど、魔力をお持ちですねぇ……実は魔物……なんてことはありませんよねぇ……??」
「エッ!? いや人間、人間ですよ……人間……たぶん……」
改めて言われると、ちょっと自信がなかった。
なんせ、あり得ない異世界転移を果たしているのだ。
この世界に飛ばされたことで魔物になった、なんて恐ろしい展開がないとも言えない。
若干不安になりつつ否定すると、肩口からも援護があった。
『心配するでない。お主はちゃんと人間じゃ』
神鳥が、呆れたような口調で肩をつつく。
『そちらの店主は、ちょっとお主をからかっただけじゃよ。魔物とわかっていれば、そもそもこの空間にすら入れぬじゃろ』
「さすがのご慧眼ですねぇ……テルペロン鳥様」
『ふ、ふふん』
褒められてちょっと上機嫌なテルペロン鳥に苦笑いしつつ、杖を前にうーん、と腕を組んだ。
「じゃあ、この杖の中から、どれか選んでいいわけですよね」
「ええ……お好きなものを、どうぞ」
ふよふよと浮かぶじゅうたんの上を、ゆっくり右から左へと移動する。
タダ、と言われると、逆に比較ができずに難しい。
それぞれの違いといえば、杖の長さと、持ち手部分についた宝石くらいだろうか。
木材もそれぞれ微妙に材質が違うようだが、差異は微妙で、非常に悩ましい。
「うーん……」
好きな色の宝石の杖、とかにすればいいのだろうか。
いや、こういうファンタジー世界。主人公が選ぶのは白とか、透明、もしくは虹色とか、全能感ある色合いだろう。
熱血系だったら赤や、ゴールドもある。
女性主人公ものの場合は、ピンクとか紫もあるかもしれない。
あまりないのが緑や青、黄色やオレンジ、茶色やグレーだろうか。
さて、自分はいったい、どうしようか。
ぼんやりと目の前に広がる杖を眺めていると、フッ、と一本、目にとまったモノがあった。
(お……これ、木の材質自体が白っぽい……それに、持ち手のところについてる宝石の形が、めちゃめちゃキレイ……!)
他の、いかにも木から削り出しました、という茶色い杖に比べ、その杖はほんのり白みがかった、高級感のある材質だった。
その上、持ち手部分についた宝石は、光の当たる角度によって、キラキラと七色に輝き、とても美しい。
これだ。これしかない。
一目ぼれとは、まさにこのことだろう。
パッと振り返り、店主に声をかける。
「あ、あの、グランチェスタさん……! この杖は……」
「……おや? あぁ、その杖ですか。ほお、お目が高いですねぇ」
ふむふむ、と店主は腕を組み、満足そうに頷いた。
「これでしたら、あなたの魔力にも見合うでしょう。……どうぞ、お手にとってご覧ください」
「わぁ、ありがとうございます……!」
自分の選んだ、自分だけの、杖。
白く輝くその美しい杖に、そーっと、手を伸ばした、瞬間だった。
ビターン!!
「うげっ!?」
ドシン! と背中に重い衝撃が走った。
『なんて声を出しておるんじゃ、ハナ』
「だ、だって背中に、突然なんがかぶつかって……あっ?」
正直、めちゃめちゃ痛い。
いったい何がぶつかって、と、涙目で振り返った時、
「おや……」
店主が先に『それ』に気づき、足元に落ちたその物体を拾い上げた。
「え、えぇとぉ……それ、杖、ですか?」
思わず疑問形になったのは、その物体が、他とは一線を画するデザインだったからだ。
まず、形が違う。杖と聞いて連想される、あのスラリと整った形状ではないのだ。
杖というか、太い枝。
だって、先っぽに、枯れた茶色い葉っぱがくっついてるし。
その上、他の杖は木の色といってもみずみずしい茶色だが、この杖はなんというか、ドス黒い。
もはや呪いでもかかってるんじゃ? と思うくらい、黒い。まだら模様だし。
あと、持ち手部分についている宝石も、なんか色がくすんでいる。
というか、真っ黒だ。それも、黒曜石のような美しい黒ではなく、炭みたいな、つやのない真っ黒さ。
ただ、宝石の大きさだけは、他のどの杖よりも大きかった。主張が激しいともいえる。
「こ、これ……? これが落ちて……いや、ぶつかってきたんですか?」
勝手に杖が動くなんてないだろうし、もしや、店主がなにかしたんだろうか。
そんな疑念のこもった視線を向けるが、グランチェスタはこちらをみず、フルフルと体を震わせながら杖を凝視した。




