50話 ~浄化~
『お主……あれだけアホみたいに魔力を捨てて、よくもそんなことが言えるのぉ』
「す、捨ててる!? 捨ててるつもりはありませんが!?」
『ほお? 昨晩も不思議に思っていたが……なるほど、自覚なしか』
鳥は焼きとり待機状態からスックと身を起こすと、ジロジロと宙から私のことを見下ろした。
三本の足の指が、目の前でユラユラと揺れて、ひょいっと掴みたいような気分にさせられる。
『なるほどのぉ。わしは専門外だからよくわからんが……制御が効いていないと見える』
「制御? 制御を効かすには、どうしたらいいんです?」
『わからん。わしは魔力については詳しくないからのぉ』
「なんと……神の鳥とか言われてるのに……?」
『テキトー言われて混乱するよりはいいじゃろ。そして、その捨てられ続けている可哀そうな魔力を、ちょいと分けてくれ』
「まぁ、お好きにどうぞ……」
そのまま手を差し出すと、鳥はちょん、と指に止まった。
見た目のわりに、全然重さを感じない。やっぱり、ちょっと特殊な鳥なのかもしれない。
そのやり取りと光景を眺め、横になったまま、エリアスは首を振った。
「あんた……ホント、何者なのかしらね……」
「なんか、ヤバい一族の末裔とか、人体実験の被害者とかなんじゃねーの?」
(あながち間違ってないかもしれない……)
今のこの状態、絶対になにかの神様の悪質なイタズラを感じる。
フリフリ水色エプロンを引っ張りつつ、苦笑いした。
今日は、朝から動きっぱなしの一日だった。
でも正直、この世界にやってきてから、一番平和な一日でもあった。
たまに魔物がでてきても、エリアスとヴィルクリフの二人がササッと対応して終わったし、多少怪我を負っても、自分の力で傷をすぐに治す。
変な人に絡まれることも、追っ手の姿もない。実に平和だった。
『まあ、村までもうさほど距離もない。明日には到着できるじゃろ』
「ああ、よかった~。そしたら、なんとなく人心地つけますね」
「ハア……明日こそは、寝台で眠れるか……」
「だといいわねぇ……すっかり野宿になれちゃったわ」
と、エリアスとヴィルクリフの二人は、疲れ切ったように目を閉じた。
二人の睡眠を邪魔しないように、少し離れた場所で枝を集め、木を組み合わせ、たき火を作る。
あの『指先ボッ』は相変わらずで、一応火種くらいは作れるので重宝している。ホントだったら、もっと豪快に火とか出したいけど。
『お主は寝ないのか?』
「ええ、私は眠る必要がないみたいなんで……」
『ほほお。ますます人外染みておるのぉ』
「そういうテルペ様はいいんですか? 休んどいたほうがいいんじゃ」
『妙な略し方をするでない! 泉で寝まくったせいか、今は眠くないんじゃ』
トテトテと三本足で近づいてきて、鳥はとなりに座った。
『どーせヒマしておるんなら、魔力をちょいともらうぞ』
「どーぞ。手、出せばいいですか?」
『うむ』
ひざを抱えていた片手を鳥に差し出すと、羽がパサリと指に乗った。
チビ孔雀といった風の美しい鳥がチョコンとしている様子は、なかなかに可愛らしい。
そのまま、パチパチと枝の燃える音を聞きつつ、ポツポツとテキトウな会話をしていると、突然、ビクッ、と鳥が震えた。
『……む? お主、なにか妙なモノを持っておらんか?』
「はい? ……妙な、モノ?」
はて、なにか怪しいアイテムなんてあっただろうか。
片手をエプロンのポケットに突っ込み、中のモノを探る。
「えぇと……ああ、これかな? このティアラとか」
あのカエルに貰ったテレポートティアラを差し出すも、鳥は首を振った。
『いや、それではないな』
「えっと……ああ、じゃ、こっちのお守りかな?」
と、もう一個のポケットをガサゴソして、入っていた姫様のお守りを取り出した。
『ふむ? そちらのようじゃな。……お守り、といったか?』
「ええ、私がいろいろあってギロチンから逃げ出した後、心優しい姫様にご武運を、と渡されたモノでして……ちなみに、通信機能もあります」
『ギロチン……お主、いろいろやらかしておるようじゃなぁ……』
鳥は哀れむような目でこちらを見た後、チョイ、とクチバシでお守りをつついた。
『通信機能、と言ったか。もう、何度かやっておるのか?』
「え、えぇと……そうですね、何回か?」
『ナルホドのぅ……』
と、鳥はジーッとお守りを見つめ、なにやら考え込んでいるようだった。
「テルペ様?」
『ふむ……これは、魔力が少々、薄れてしまっておるようじゃな』
「えっ!?」
『姫、というとあの国じゃろう? 距離もだいぶ離れておるからのぉ……徐々に力が薄まっておるようじゃ』
確かに、テレポートでこの地まで移動したわけで、かなり距離は遠のいているのだろう。
鳥は我知ったり、と言わんばかりに、クチバシをフムフムと動かした。
「そ、それって……いずれ通信できなくなるってことですか!?」
『そうなるのぉ。そこで、じゃ』
ツン、と鳥はお守りをさらにクチバシでつついた。
『ちょっと貸してみろ』
「えっ? あ、ハイ」
言われるがまま、お守りを鳥の前に差し出した。
すると、その瞬間。
パクッ
「ちょっ……なにしてんですか!?」
お守りが、鳥の口の中に消えた。
「ちょっ、えっ……は、吐き出してください!」
『むぐぐ……』
神鳥は、こちらの伸ばした手を羽でペシリとはたき落とし、まるでムグムグとかみしめるかのようにクチバシを動かして――
ペッ
「あ」
ペチャッ、と草むらの上に吐き出した。




