49話 ~再会2~
「……あの。テルペロン鳥さん」
『ん、なんじゃ? ハナ』
「えぇと、昨日の人間の姿には戻らないんですか? 『鳥の姿が本来だ』とかってさっき、おっしゃってましたけど……」
ふつうそういうのって、人間の姿が本来だったりするんじゃないだろうか。
鳥の方こそ、夜をしのぶ仮の姿、という。
私が首を傾げつつ問いかけると、立ち上がりかけたエリアスがギョッと目を見張った。
「に、人間の姿って……ハナ、あんたテルペロン鳥様が人の姿になったのを見たの!?」
「えっむしろ、初見が人の姿だったんですけど」
「あんた……あんたって、ホント規格外なのね……テルペロン鳥様は、めったに人前で人間の形をとらないって言われてるのよ……それを見たって……」
「まぁ、規格外なのは服装でわかるけどな」
ドン引くエリアスと、訳知り顔で頷くヴィルクリフ。
トコトコと彼らの背後に近寄って、黒髪の背に手を伸ばした。
「うぐぇっ、ハナ、お前ッ、痛ッ」
「いやぁ、これくらいちょうどいいマッサージでしょう」
ぐりぐりとひじ鉄を押し込んでいる私のそばに、テルペロン鳥はトテトテと近寄ってきた。
『ん、なんじゃ。その服は今の流行じゃないのか。ずいぶんと他の二人と毛色がちがうとは思ったが』
「いや、この服が流行したら……終わりじゃないですかね、いろいろと……」
ぐえっとうめくヴィルクリフの背中から手を外して、テルペロン鳥を見下ろした。
キョトン、と小首をかしげる姿は、冗談を言っている様子はない。
素なのか。案外、天然なのか。
『それで、人の姿に戻らない理由、じゃったか?』
「あ、そうです。人の姿の方が動きやすいんじゃないですか?」
『うむ……人の姿にもなれるが、久しぶりにこうして鳥の姿に戻れたんじゃ。この美しい姿を堪能しておきたくてなぁ』
テルペロン鳥は、つやつやと輝く羽を見せびらかすようにパタパタと羽を揺らした。
あ、自分でも美しいって思うんだなぁ。
なんて感心している私の目の前で、彼はそのまま、ふわりと浮いた。
『さて。それじゃあ、道案内をするとしようか』
「え、えっ!? と、飛んだ!?」
『そりゃあ飛ぶじゃろう、鳥じゃし』
ビビった私のリアクションにサラッと答え、テルペロン鳥はそのままふわふわと宙を舞った。
白い羽が、角度によって金色にも銀色にも光り輝き、彼が飛ぶ後にはキラキラと美しい線が残る。
まさに神の鳥にふさわしい輝きだ。
そういえば、ダチョウとかニワトリと違って、孔雀は空が飛べるんだった。
などと、私が前の世界の鳥について思いを馳せていると、
『ほれ、ボーっとしておらんで、ついて参れ』
コツン、と軽く頭をくちばしでつつかれた。
「あっ……は、はい! エリアスさん、ヴィルクリフさん、行きましょう!」
「そうね……ほんと、あんたといると、時間の密度がすごいわ」
私と一緒にぼーっと神鳥の飛ぶさまを見ていたエリアスが、歩き出しつつしみじみと言った。
「だな……だって、オレが死にかけてまだ一日しか経ってないんだぜ……?」
「そうねぇ……っていうか、あんたとハナと、あたしも昨日毒で死にかけたし……みんな死にかけ仲間になっちゃったじゃない」
「うわぁ……たしかに」
なんとも縁起の悪い。
ちょっとだけ沈んだテンションで同意したものの、気をとりなおして無理やり明るい声を上げた。
「ま、まぁ、そういうこともありますって! 大丈夫ですよ、全員無事に生きてますし。追っ手からは逃げられたわけですし」
「まぁそうねぇ……このまま、無事にうちの実家に帰れればいいんだけど」
「……今までの流れから考えて、これですんなり行けるとも思えねぇんだよな」
「いやー同感ですね。そのうち、悪の大魔王とかにも出会っちゃったりして」
「五百年前に封印されたヤツじゃない……なんでそういう記憶はあるのよ……」
「つーか、お前が言うと洒落になんないんだよな」
などと軽口をたたきつつ、そろって走りだした。
テルペロン鳥は、スイスイとなだらかな軌道を描きつつ先へ先へと飛んでいく。
太陽はまだ上ったばかりだ。明るいうちに、きっと、どこかの村へ着けることだろう。
しかし、上った太陽は、間もなく沈んだ。
そう、次の町に着く前に、だ。
「はあ……はあ……ここ、どの辺かしら……」
「ふっ……さあ……もう、わかんねぇな……」
「だいだい10時間くらい移動しっぱなしですかね? これ」
持久走大会でもついぞ走らない距離を、走ったり歩いたり休んだりしつつの、夜だ。
「……騎士の新人訓練を思い出したわ……」
「足……足がもげるぅ……」
「実際、ヴィルクリフさんは呪いであちこちもげそうになってたし、洒落にならないですよねぇ」
ヘロヘロの二人とは裏腹に、私は元気だった。
例の魔力とやらが膨大なせいか、相変わらず疲れを感じないのがありがたい。
今いるのは、森のそばの草原だ。
森から平地へ、平地から砂地、砂地から草原――といった感じで、とにかく移動し続けての、現在。
本当に、この世界は広い。
ファンタジーRPGをリアルにするとこんな感じかぁ、というような、大自然の世界だ。
暗くなってきたので、今日はここで休むと決まった。
エリアスとヴィルクリフの二人は、ぐでん、と草ムラの上に寝転がっている。
私も習って、草の上にゴロンと寝転がった。
草の汁、土よごれ、そして虫。
大人になるとそういったモロモロが気になって、気軽には寝転がれない。
でも幸い、この身を包む魔力とやらが全身をコーティングしてくれているおかげで、その心配がない!
「ふう~空が高い! あ、テルペロンさん、大丈夫です?」
『……む……き、気合入れすぎたかのぅ……』
そして、鳥もバテている。まあ、十時間ぶっ通しだし仕方がない。
このまま干しておいたら焼き鳥にできそうだな、なんて失礼なことを考えつつ眺めていると、鳥はダラしなくクチバシを広げつつ、こっちを見た。
『……魔力……』
「えーっ、どうしよっかな~」
催促するような視線に、キュルン、とポーズをとってみると、冷たい視線が向けられた。




