37話 ~辿りついたオアシス~
いっしょに転移した二人は、私の両脇にそれぞれ転がっている。
どうやら、気を失ってしまったらしい。
周りは荒野で、場所もロクにわからないものの、幸い目の前がオアシスのため、そびえたつ木々が日差しを遮ってくれている。
泉は澄んでいて美しく、とぷとぷと清水が湧き出ているのが見えた。
すぅっと魚の影もハッキリと見えて、今まで張っていた緊張がユルユルとほどけていく。
「はぁ、安全な場所についたみたいだけど……ここ、どこなんだろう」
パタパタとエプロンをはたいて立ち上がり、ぐるっと周りを見回した。
当然ながら、なんの見覚えもない。
どこかの世界遺産でも見るかのように、周りには、いっさいなにもない荒野が広がっているばかりだ。
魔の森の面影もなく、当然、フェゼント城や城下らしき影もなかた。
「うーん……二人が起きるのを待つしかないなぁ」
いまだ昏倒したままの、男性二人を見下ろした。
エリアスは、草の上に横たわっているというのに、束ねられた長い金髪が、太陽の光を受けて宝石のようにキラキラと輝いている。
白く整った顔立ちも、わずかにしかめられて、物憂げな表情がさらに美しさを際立たせているかのようだ。
かたや、ヴィルクリフもそうだ。
長い黒髪がバサリと大地に広がって、まるでそこだけ一足早く夜が来たかのようだった。
男性的な彫りの深い鼻筋に枝葉の影が落ちて、眠る表情が憂いを帯びて彫像さながらに美しい。
「……この世界……美形しかいないのか……??」
思い返してみれば、ブラウやグリューだって子どもながらにかっこよかったし、姫様も可愛らしかった。
女王も、恐ろしい圧を持ってはいたものの、映画に出てくる女優のように美しかったし。
「…………」
まったくもって、標準レベルの自分の容姿が悲しい。
いや、並みであっても、まともな服さえ着用できていれば、一般人として擬態できるはずなのだ。
こんな、羞恥心耐久選手権のような、フリフリ水色ハダカエプロンでさえなければ――!!
ピヨッ
「ん?」
ひざを抱えていた自分の耳に、鳥の声が聞こえてきた。
ピィッ……ピヨッ
「泉の方から、かな?」
ピヨピヨと、かつての世界でのスズメを思わせるかわいらしい声だ。
目の前に広がるオアシスは、荒野の真っただ中だというのに、青々と美しい色をたたえている。
泉の周りに咲き誇る花々の周囲には小さな白や黄色の蝶々が、ふわりふわりと飛んでいた。
(そういえば……こっちに来て、あのオオカミもどきの魔物やら、クモの巣やら、いろいろ見たけど……元の世界と似たような動物もいるのかな)
正直、今までが怒涛の展開の連続すぎて、まったりと周囲をウォッチングしている余裕なんてなかった。
動物どころか、人間相手がやっとだったのだ。
犬やら猫やら昆虫やらには、さっぱり意識が向いていなかった。
(あー……でも、カエルはいたし……大きさはバケモノサイズだったし、あれは魔物というべきかもしれないけど……)
と、ついさっき別れた相手を思い出した。
(なんだかんだ、王家の秘宝のティアラまで贈ってくれたわけだし……いつか、ちゃんとお礼が言えたらいいな)
あっという間に今の場所に移動させられてしまって、ロクにお別れも言えなかった。
あのカエルは、今でもひとりであの洞窟にいるのだろう。
フェゼント城に帰ることが今後もしあれば、今度はお土産でも持って行ければいい。虫以外で。
と、ほんの少し前にあったできごとを、なつかしく思い返していると。
ピヨッ
小さな鳴き声を上げながら、私のすぐ足元に、小さな茶色い鳥がやってきた。
「スズメ……に、似ているけど……違う……??」
大きさ的には、まさにスズメ。
顔立ちも、くちばしの感じもそっくりだ。
しかし、あのスズメ特有の白い部分がなく、茶色一色だった。
「見たことあるよーな……ないよーな……」
鳥類にはまったく詳しくないため、ムムムとうなりつつ、ちょこちょこと跳ぶように歩く小鳥を見つめた。
目の前を小刻みに歩いたり、軽く飛んだりして動く小鳥はかわいらしく、恐ろしいイベントの数々でささくれた心が、なんとなく癒されていくのを感じる。
「あー……そういえば、ずーっとバタバタだったしなぁ……」
この世界に飛ばされて、戦場から集落、そして城に森に、洞窟。
気が休まることがない、なんとも密度の濃い数日間だった。
というか、まだ数日しか経っていない、ということの方が驚きだ。
私が再び草の上に腰を下ろし、うーん、と伸びをしていると、その私の周りを興味深そうにトテトテと鳥が歩いている。
かわいい。
「はー……ここ、ドコだろ。これから、ちょっとはゆっくりできるのかなぁ」
なんて、グッと両腕を空にむけて伸ばした、その時だ。
チカチカチカ
「……ひィッ!?」
パッ、とエプロンのポケットが光る。
慌てて手をつっこんでみると、指に触れたのは、いつぞや王女様にもらった、あのお守りだった。
「はっ、はい! お、王女様、どうぞ!!」
またなにかあったのかと、しどろもどろになりつつお守りに向かって話しかけると、それはチカチカと光の強さを増した。
『……あ……ま、魔女様、でいらっしゃいますか?』
「えっ、ええ! そうです、魔女です!! 王女様、聞こえてますよ!」
『ああ、よかった……やはり、あの森からは、無事に逃げおおせたのですね!』
「え、ええ……でも、王女様はどうしてそれを?」
なんとも、見計らったようなタイミングだった。
このお守りって、そんなことまでわかるのだろうか。




