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異世界転移したら無敵になったけど、服が拒否されました  作者: 榊シロ


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36話 ~転移~

「あ……水気が、消えた……?」


 びしょ濡れになっていた体は、すっかりキレイに乾いていた。

 流れ的に、間違いなく今の光のおかげだろう。


 この魔力にはそんな力が!? とビックリしていると、


「あー、ホントお前、おもしろ能力持ってんなぁ」


 と、バカにしてるのか感心しているのかわからない顔でフムフムと頷き、


「何事もなくってよかったけど……ホント、肝が冷えるわ」


 と、エリアスがホッとした表情で胸をなでおろす。


 ヴィルクリフにはベーッと舌を出し、エリアスにはペコリと頭を下げた私は、気を取り直して金塊に向き直った。


 ゲコ……


 そんな私の肩が、ちょんちょん、とまた叩かれる。


「ん? ……っ、どうしたの、カエルくん」


 例のカエルが、三度私の後ろに立っていた。


 さすがに三度目ともなると、警戒の方が先に出る。


 私はジリジリと後ずさると、念押しした。


「えっと、虫も水もいらないからね?」


 その言葉を聞くと、カエルは申し訳なさそうに身を縮め、ゲコォ、と力なく鳴いた。


「オイ。へこんでるぞそのカエル」

「う゛っ……で、でも、困りますし……」


 いくら魔物じみた巨大ガエル相手とはいえ、反省している様子を見せられるとなんとなく罪悪感が生まれてくる。


 コホン、とひとつ咳ばらいをしてから、カエルへと向き直った。


「もう、三度目の正直! 今度はなにをくれるの?」


 もう、なんでも来いや!


 という、捨て鉢な気分で巨大ガエルを見据えた。

 頭上につきだされたカエルの丸い目がギョロリ、と動く。


 ぷくっ、と頬が膨らみ、パカリと目の前で口が開く。

 そこから突き出した黄色い舌が、ヒュンッ、と勢いよく金塊の中へ突き刺さった。


「え……?」


 金銀財宝の奥をごそごそと探るように舌は動き、少しして、ヒョイッとひとつ、私の手のひらの上へと放り投げてきた。


「おわっ」


 慌ててキャッチしてみれば、それはキラキラと美しく輝く装飾品だ。


「お、王冠? いや……ティアラ?」


 頭を丸く囲むような形をした、ファンタジーでよくみかける金色の装飾品だ。


 ティアラのあちこちには親指の爪ほどのサイズの白い宝石が埋め込まれていて、金で出来たそれ自体にも、植物を模したような繊細な造形が刻まれている。


「こ……ここ、これ、もらっていいの……!?」


 手が震えた。

 なにせ、いかにも高価なシロモノだ。


 いったい、いくらするのか。考えただけでも恐ろしい。


 カエルに恐る恐る視線を向けると、満足そうにゲコ、と鳴いた。


 どうやら、やはりこれはプレゼントということらしい。


「うわっそれ……ものすごい価値があるものよ、きっと」


 様子を見ていたエリアスが、若干引き気味に身をのけぞらせた。


「エッ……あの、いかほどの……??」

「鑑定士じゃないから正確には言えないけど……宝石店に売れば、かなりの値打ちになるでしょうね。たぶん、質素に過ごせば一生暮らせるくらいの」

「ひぇっ……」


 人間、ぶったまげすぎると、案外リアクションが薄くなるものだ。


 両手で慎重にティアラをもって、ジッと凝視する。


 これに、そんな価値が。

 元の世界だと、うん千万とかそういうレベルのものなのだろうか。


 私が呆然としている隣で、カシャカシャと宝の山をチェックしていたヴィルクリフが、のんびりと言う。


「いやー、しっかし、その服にはまったく似合わねぇけどな」

「……でしょうね……」


 ごもっともすぎる指摘には、頷く他なかった。


 いまだ、着用しつづけているフリフリの水色エプロン。

 それに宝石のティアラを合わせるなんて、悲惨な光景にしかならないだろう。


「これは、大事にとっておかせてもらおう……」


 と、意外とデカいエプロンのポケットにしまい込もうとする。


 が、しかし。


 ゲロッ……ゲロ……ッ


 傍らのカエルが、憐れっぽい瞳でこちらを見つめてきた。


「えっ……もしや……かぶれ、と?」


 まさか、と、ティアラを頭にかぶせる仕草をすると、キラキラとまばゆいカエルの視線が向けられた。


「……いや、それは」


 カエルが、こちらを見る。


 視線が痛い。期待のまなざしが、痛い。


「これは……その、ちょっと似合わないと思う、というか」


 ……ゲコッ


 シュン、とカエルの目が垂れる。悲しそうに。


「……うぅ……」


 負けた。

 あぁ、負けた。


 どうせ、ずっとかぶり続けるわけじゃないし。今だけだし。


 そう、むりやり自分に言い聞かせ、両手でエイヤッ、とティアラをつかむと、頭の上へ乗せた。


「…………」「…………」「…………」


 ゲロッ……


 四者四様の切ない沈黙が、その場を満たした。


「……もう、いいですかね」


 なぜプレゼントされた当人が、切ない気持ちにならねばならないのか。


 くそぅ、と内心毒づきつつ、かぶったティアラを右手で下ろした。


 すると、


 カチッ


「……カチッ??」


 右手の人さし指が触れた宝石が、スイッチのように深く沈んだ。


「……わあっ!?」


 と、突然。


 足元に白い光が噴きあがった。


 クルクルと光が円を描くように体を包みこみ、なんの抵抗もできない。


 アレ、これ、この世界に初めてきたときもこんなじゃなかったっけ。


 私が混乱の渦中にそんなことを考えていると、


「ちょっ、ハナ!? あんた何したの!?」

「おわっ、オイ、危ないぞっ!?」


 私の様子を見ていた二人が、助けようとしたのか、この白い光の中に飛び込んできた。


 その、瞬間。


『転移魔法、発動』


 という、女性のような機械的な声が飛び込んできた。


「エッ、て、ててて、転移魔法!?」


 と、私が叫ぶのが早いか。


「うわわゎゎああぁ!?」


 足が、体が、ふわっと宙に持ち上がって、


「えっ、エリアスさん、ヴィルクリフさん!!」

「わっ、なにコレ!?」

「おっオイ、なんだよコレ、どうし……うわっ!?」


 ヒュンッ


 視界が、まっ白に染まったのだった。






「あー……これが、探してた【秘宝】だったか~」


 緑の草の上で大の字に寝転がりながら、青い空をぼんやりと見上げた。


 白い光に包まれて、次に目を開けたら、この場所にいた。

 この、ひたすらにだだっぴろい荒野の真ん中の、オアシスらしき泉の前に。

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