14話 ~起きない兵士たち~
いたぶるのを楽しむためか、ただのイタズラか。
それにしては『ボクの仕事はもう終わってる』なんて不思議なコトを言っていたのに。
少しばかり腕を組んで考えたものの、あきらめて腕をほどいた。
この世界の知識がロクにない私には、サッパリ検討がつかないし。
なにせ、情報が不足しすぎている。
結局、自分の名前をなんと名乗ればいいかも、まだ決めていないくらいだ。
キャパシティーオーバーの頭でグルグル考えてみても、生粋の凡人である私では、トンチンカンな考えしか浮かばなかった。
「傷ヨシ、打撲ヨシ、呼吸ヨシ……よし、オッケー」
転がっている兵士たちを再チェックしてケガが治ったことを確認して、ふー、とひと息つく。
私が見回り終えたのを見て、今度は隊長が、ひとりひとりの脈などを確認し始めた。
「うーん……起きない、わね」
「ですねぇ……」
皆のチェックを終えた隊長が、コテンと首をかしげる。
小悪魔(?)が去ってしばらく経ったものの、兵士たちが、いっこうに目を覚まさないのだ。
傷も治って、体に異常がないにも関わらず。
「たぶん、疲れちゃったんじゃないですかね? さっきはオオカミの魔物、今回は子どもみたいな魔物に襲われて……」
と、ブラウが漂う緊張をほぐすように、おずおずと言った。
「そうねぇ。たしかに、立て続けの襲撃だったし」
「そうですよ、隊長! 隊長がいちばん頑張ったんですし、ちょっと休んでてくださいよ! おれたちが、隊のやつらのことは見てるから」
小生意気な口調で、グリューが小さな手足をバタつかせ、隊長のことをねぎらっている。
(いちばん頑張った……ワタクシも、がんばったんですけどね……)
そりゃあ、前線で戦っていたのは、彼らだけれど!!
ちょっとだけやさぐれた気分で、三人がワイワイ話している場所からスススーッと後ずさった。
私だって、見ず知らずの大勢の他人のために、全力でナゾの力を駆使してがんばったのだ。
正直、ちょっとくらいねぎらって欲しい。
しかし、彼らは痴女もどきのことなんて、スッカリ眼中にはないようだった。
「ありがと、ブラウ、グリュー。もうちょっと休んで、みんなが起きたら国へ帰りましょうね」
「「はい、隊長!!」」
幼いながらにキッチリ敬礼の動作を決めた二人を見て、ささくれだった心がわずかに和らいだ。
(ま、私のことはどうでもいいか。
この世界じゃ、あんな子どもですら、体を張っているんだし)
空いている床に座り込んで、ふー、と長く息を吐きだす。
元の世界でも、自分の国ではない遠い場所で、子どもの命が脅かされていたことは知っている。
でも、それはあくまで知識として知っていただけで、この目でリアルにその光景を見たわけではなかった。
――今、これは現実だ。
目の前で、獣が人間にとびかかり、腹を裂くのを見た。
子どもの兵士たちが、必死に仲間を治療しているのを見た。
ファンタジー世界であるのに、限りなくリアルな、これは現実だった。
(夢か、まぼろしなのかもしれないけど……でも、音も匂いも、なにかを触る感触も、ハッキリ感じる)
手で砂をなぞってみれば、土の感触がある。
大地の上に充満していた、血と、金属の臭いも。
兵士たちが起きないため、様子を見つつ休む三人を見守りながら、ボーっと今までのことを思い返す。
小悪魔に好き勝手言われたこと、回復の力に目覚めたこと、オオカミの魔物に追っかけられたこと、森でさまよったこと、エトセトラ……。
記憶をたどっていくにつれて、一番最初、この地に降りたったときの、痴女だ変態だとなじる男たちの声までも、ありありと脳裏によみがえってきた。
「クッ……変態、痴女、って……こっちだって、したくてハダカってわけじゃないってのに。まったく、昔のRPGでさえ、最初に布の服くらいは装備させてくれてるっていうのに、この世界はいったいどういう」
「ねぇ、聞いてる?」
「……ハイッ!?」
「なにか、ブツブツ言ってたみたいだけど」
イジイジと、ひとり砂の上で適当な模様をラクガキしていたのを覗き込まれて、あわててかき消した。
「いえっ、たわいないひとり言なのでお気になさらず!」
「そう? ならいいけど……」
心配半分、あきれ半分といった表情で首をかしげる隊長に、慌ててエプロンの端を整えて立ち上がった。
「えっと、なにか御用ですか?」
「えぇと……改めてだけど、うちのみんなを助けてくれてありがとね。すっかり傷も癒えたみたいだわ」
「えっ、あ……いえ、とんでもない、です」
さっきまでイジイジしていたのが急に恥ずかしくなって、もじもじと視線をそらした。ひとりで拗ねていたのが、子どもみたいじゃないか。
「それで……聞きたいんだけど。彼ら、目を覚まさないのよねぇ。なにかわかるかしら?」
「え……まだ、起きないんですか?」
回復させてから、はや三十分といったところだろうか。
最初の襲撃のときは、すぐに意識だって戻っていたのに、まだ目を覚まさないのか。
キョロキョロと見回すと、たしかに、誰も起き上がってこない。
(まさか……私の魔力が切れてて、中途半端にしか回復できてない、とか……??)
なにせ、まだよくわかっていない力だ。
治療したと思っていても、実は表面だけとか、治した風に見えているだけ、なんてこともありうるかもしれない。
「その……すみません。力の制御がまだまだ不安定で。ちゃんと治療できていなかったのかもしれません」
「いいえ、それはおそらく大丈夫よ。あたしが見ても傷はしっかり治ってるし、呼吸も脈拍もしっかりしているわ」
「え……じゃあ、どうして……」
ケガが治っているなら、すぐに復活できるはずなのに。
どうしよう、なにか方法は、と私がワタワタしていると、隊長が小さくうめいた。
「まさか……さっきの魔物の襲撃。あれがなにか……」
と、彼がギリッと唇をかんだ時だった。
「う……う、ぅ?」
「あれ……おれ、は……」
大地に転がっていた兵士たちが、急に目を覚まし始めた。
「ん、あ……? あれ、なにがどうなって……」
「えぇと……ぐっ、頭がいてぇ……」
兵士たちは、状況がつかめないらしくフラフラと視線をさまよわせつつも、思い思いに体を起こし始めている。
(はー、よかった。このままみんな目覚めなかったらどうしようかと)
私のせいかも、という緊張が解けて、深々とため息をついた。
いやーよかったよかった、と兵士たちの肩をたたいて回りたいような気分だったものの、このままだと総勢二十名にファンシーなエプロン姿を再放送するハメになるので、そそくさとテントの方へ引っ込んだ。
「みんな、大丈夫? 意識はハッキリしてるかしら?」
「あれっ、た、隊長!」
「え、えっと……あれ……??」
うっすらと聞こえる外の会話をBGMにしつつ、テント内の荷物を背に、床にそのまま座り込んだ。
例の魔力の層とやらのせいか、土と肌の間にうっすらと膜が張られている感覚があって、皮膚に砂はくっつかない。
土の感触は感じるから、なんとも不思議なものだけど。
(なんか……ドッと疲れた、ような……)
今まで感じたこともない魔力とやらを、連続で何度も使ったせいだろうか。
もしくは、急に魔物に襲われて、精神的に疲れた、というのもあるかもしれない。
「……ちょっと、休もう」
まぶたを閉じて、視界をそっと遮断する。
暗い世界に、グルグル渦巻きが現れて、意識がどんどん落ちていく。
音が消え、思考が消えて、眠りの中、闇の中へ――。




