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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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三三五 死闘の中の声


 タヌはドラゴンとエラスを意識しながら、ゴリキ・ド・ゴリキとの間合いを測る。


 ヒューーーッ!


 ドラゴンが迫って来る。


 ゴリキ・ド・ゴリキはドラゴンなど気にしていない。


 タヌを自分の手で殺すことしか考えていないからだ。


「ギエエエエエ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは雄叫びを上げてタヌに襲いかかり、剣を振り下ろした。


 ブォオン!


 タヌはそれをスッと左に躱して跳び上がると、


「うぉおおお!」


 ゴリキ・ド・ゴリキの頭上からその眉間(みけん)めがけて剣を振り下ろす。


 ビュン!


「させるか!」


 ゴリキ・ド・ゴリキはすかさず空振りした剣を、その反動を使ってタヌめがけて振り上げた。


 速い!・・・


 ゴリキ・ド・ゴリキの太刀の鋭さ、速さにタヌは驚いた。


 ゴリキ・ド・ゴリキの太刀はタヌの体を真っ二つに斬る軌道を描いて振り上げられ、


 ガキーンッ!


 タヌは剣をぶつけることでそれを受け止めるしかなかった。


「ぐぁっ!」


 右手一本のタヌはバランスを崩して弾き飛ばされてしまう。


 タヌは背中から地面に向かって落下した。


 ヒューーーッ!


 そこにドラゴンが襲いかかった。


 まずい・・・


 タヌの目の前にドラゴンの三つの赤い目が迫っていた。


 ギィアアアオオオオオオ!


 次の瞬間!


 ドラゴンはその口からタヌめがけて火炎を放射した。


 ビシャーッ!


 タヌは火炎を躱すことができない。


 火炎の炎が視界を覆う。


 タヌは死を覚悟した。


「くそぉおおお!」


 と叫んでいた。


 そのときだった。


「タヌ!」


 自分の名を呼ぶ、ラウルの声が聞こえた気がした。


 ドンッ!


 何かに強く突き飛ばされるような感覚があって、


 ザザーッ、ゴロゴロ・・・


 気づいた時には地面を転がっていた。


 近くに生える草が広い範囲で燃えていた。


 ブァサッ、ブァサッ、ブァサッ・・・


 ドラゴンは地面すれすれを飛び、上空へ舞い戻っていく。


 ギィアアアオオオオオオ!


 ドラゴンは咆哮し、それに応えるように、


「ギイエエエエエエ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは空に向かって雄叫びを上げ、地面に転がるタヌに襲いかかった。


 ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ!


 何が起こったんだ・・・


 死んだと思ったはずの自分があの視界を覆い尽くす火炎から逃れ、こうして生きていることに、タヌは夢か現実かわからない不思議な感覚に包まれていた。


 そこに襲いかかるゴリキ・ド・ゴリキ。


 タヌはその殺気を感じると、何も考えず、体の反応に任せて起き上がりながらゴリキ・ド・ゴリキに向かって剣を構えた。


「死ねぇえええ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキはタヌに向かって剣を振り下ろす。


 ブォオン!


 力一杯に振り下ろしたその一撃を、タヌはゆらゆらと横に跳んで躱す。


 ガンッ!


 ゴリキ・ド・ゴリキの剣が地面を打つ。


 ゴリキ・ド・ゴリキはドラゴンの火炎を浴びてもまだピンピンしているタヌに、


「ほぉ」


 と感心の声を漏らした。


「あの火炎から逃れられたのは流石だと褒めてやろう。やはり、貴様は私の手で殺さなければならないようだな」


 ゴリキ・ド・ゴリキはタヌを睨んで卑しく笑う。


「死ぬのはお前だ」


 タヌはゴリキ・ド・ゴリキを睨み返し、そう吐き捨てる。


 タヌはゴリキ・ド・ゴリキを睨みつけながら、自分がどうやって火炎から逃れることができたのか、不思議に思っていた。


 死を覚悟した瞬間に聞こえた声。


 あの声は、間違いなくラウルの声だった。


 ラウル・・・


 タヌはラウルの存在を感じずにはいられなかった。


 お前が一緒なら、負けるわけないよな・・・


 タヌの胸に熱いものが込み上げて来る。


 そんなタヌの目の前に聳え立つゴリキ・ド・ゴリキ。


 タヌは静かに息を吐きながら、痛みの残る左手に力を入れる。


「ぐっ、ぐぐ・・」


 タヌは痛みに顔をしかめながら左手で剣を握り締め、


 ズキッ!


「うっ」


 脳天を貫くような痛みに、左腕がもう使えないことを知る。


 だめだ・・・


 タヌの表情が険しくなる。


 痛みに意識が持っていかれそうになる中、


 ギィアアアオオオオオオ!


 空からドラゴンの咆哮が聞こえてきた。


 ドラゴンは上空で旋回し、次の機会を窺っているようだ。


 タヌはエラスが気になった。


 エラスは矢を放つことができなかったのか・・・


 タヌはさっとエラスの様子を窺う。


 エラスは戦士の弓と矢を両手に握ったまま力なくうなだれ、呆然としているように見えた。


 その横でバケじぃが何か言葉をかけている。


 エラス、次こそ頼んだぞ・・・


 タヌは心の中でエラスに声をかけると、ゴリキ・ド・ゴリキに集中した。


 目の前に聳えるゴリキ・ド・ゴリキの巨体から、殺気がゆらゆらと立ち上っている。


 ゴリキ・ド・ゴリキはタヌを睨みつけたまま、剣を持つ手に力を込める。


 空気がピンッと張り詰める。


 タヌは気を鎮め、静かな呼吸を繰り返した。


 目は半眼になり、意識を空間に溶け込ませ、左腕の痛みを解放し、空っぽの空間にゴリキ・ド・ゴリキの放つ気の流れを捉える。


「ギィエエエエエ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは叫びながら剣を振り上げ、タヌに襲いかかった。


 ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ!


 タヌはゴリキ・ド・ゴリキの動きを感じながら、剣を右手だけで握り締め、その切っ先をゴリキ・ド・ゴリキに向ける。


「ギィエエエエエ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキがタヌに向かって剣を振り下ろすと、タヌはそれをスッと右前方に踏み込みながら躱し、躱した瞬間にパッと目を見開いてゴリキ・ド・ゴリキの懐に飛び込んだ。


 ブォンッ!


 ゴリキ・ド・ゴリキの太刀は空を斬り、


「なんだと!」


 ゴリキ・ド・ゴリキはタヌの動きに驚いて目を見張る。


 そこに、


「うぉおおお!」


 タヌがゴリキ・ド・ゴリキの鳩尾めがけて跳び上がると、


「させるか!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは瞬時に上体を捻り上げながら、剣を持たない左手で鳩尾を狙うタヌに掴みかかるのだった。


「くっ」


 鳩尾を狙っていたタヌはそれが無理だとわかると、掴みかかるゴリキ・ド・ゴリキの左手の親指と人差指の間に向かって剣を一閃(いっせん)させた。


 バッ!


 タヌはゴリキ・ド・ゴリキの手のひらを斬り裂き、


「ギィエア!」


 さらに、その左脇腹を斬り裂いた。


 バサッ!


「ギェエア!」


 左手の手のひらと左脇腹から血が吹き出すと、


「貴様ぁあああ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは激しい怒りの声を上げた。


 ゴリキ・ド・ゴリキの硬い皮膚は並みの神兵とは比べ物にならないほどに硬い。


 最高爬武官に就任する際に、ミザイ・ゴ・ミザイから祝福されていたからだ。


 生命の水を使った儀式によって、ゴリキ・ゴ・ゴリキの体は最高爬武官に相応しい強靭さと、回復力を手に入れていたのだった。本来、霊兎如きに斬り裂かれるものではないのだ。それを服従の儀式の際はラウルが、そして今、タヌが簡単に斬り裂いたのだから、ゴリキ・ド・ゴリキとしてはたまったものではなかった。


 タヌはすぐさまゴリキ・ド・ゴリキの背後に回ると、ダッと跳び上がり、その後頭部を狙って剣を振り下ろした。


「うぉおおお!」


 タヌはゴリキ・ド・ゴリキの後頭部の急所をはっきりと捉える。


 ゴリキ・ド・ゴリキはタヌの動きを予測し、すぐさま左手で後頭部の首の付け根を隠すと、鋭い動きで振り返り、


「ギイィエエエ!」


 タヌに向かって剣の切っ先を突き出したのだった。


 ズォンッ!


 この動きの速さにタヌは驚き、


「くっ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキの一撃を体を反らして躱すと、目標を変え、


 シュバッ!


 着地しながらゴリキ・ド・ゴリキの太ももの裏を斬った。


「ギイエ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは悲鳴を上げ、反射的にタヌを追い払うように剣を振り回した。


 ブォン!ブォン!ブォン!


 タヌはそれを躱しながら、


 ビュンッ!


 さらにゴリキ・ド・ゴリキに斬りかかる。


 バサッ!


 タヌの放った太刀は、ゴリキ・ド・ゴリキの腰を斬った。


 タヌは攻撃の手を緩めない。


 左腕を(かば)いながらの攻撃のため、威力は十分とは言えないものの、


 ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!


 タヌは次々と剣を繰り出し、


 ガシッ!ガシッ!ガシッ!


 ゴリキ・ド・ゴリキは時に後退(あとずさ)りながらそれを必死に払い、


 ブォンッ!ブオンッ!ブオンッ!


 時に反撃を試みるが、タヌはそれをゆらゆらといとも簡単に躱すのだった。


 ゴリキ・ド・ゴリキはタヌの動きについていけなかった。


 いや、タヌの動きがわからなかった。


 こいつ・・・


 ゴリキ・ド・ゴリキに焦りの色が見えてくる。


 その屈辱感。


 ゴリキ・ド・ゴリキの腹の底からしみ出るように込み上げて来るものがあった。


 そして、


「ギィエエオオオオ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは発狂したのだった。


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