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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
319/364

三一八 東ガルウォの戦い、その終わりに


 さわさわっ・・・


 戦いの終わった戦場を、そよ風が優しく吹き抜ける。


「ううーん・・・」


 負傷した兵士たちが至る所で呻き声を上げていた。


 カイ・セヤロは兵士たちの屍の転がる戦場を歩きながら、部下の兵士たちに負傷兵の発見と治療を指示していた。


「カサコクの兵だけでなく、すべての遠征軍兵士たちを救うように」


 カイ・セヤロはそう指示を出しながら、同時に虚しさを覚えていた。


 戦場に倒れる遠征軍兵士たちの屍は、頭がないもの、手や足がないもの、そのどれもが体のどこかを潰されるか引き千切られるかしていて、見るに堪えない無惨なものだった。


(ひど)い殺し方をするものだ・・・」


 カイ・セヤロは無意識にそう呟いていた。


「う、うーん・・・」


 呻き声を上げる兵士たちも、腕や足を引き千切られている者がほとんどだ。


 命を救える兵士は多くはないだろう・・・


 カイ・セヤロは辺りを見渡し、大きなため息をつく。


 そのとき、カイ・セヤロの目に見覚えのあるでっぷりとした大男の屍が飛び込んできた。


 その大男は、神兵の屍の横でうつ伏せになって倒れていた。


 神兵の鳩尾には槍が突き立っていて、おそらく、その命と引き換えに倒したのだろう。


「アキサ殿らしいな・・・」


 カイ・セヤロはそう呟くと、兵士たちの屍の間を縫ってミーヨ・アキサの亡骸に歩み寄った。


 ミーヨ・アキサは背中を斬られて絶命したようだ。


 カイ・セヤロはミーヨ・アキサの亡骸のそばに立つと、手を合わせ、その冥福を祈った。


「この男、口が悪く、態度も悪く、いいところはあまりありませんでしたが、良きにつけ悪しきにつけ、この男ほど、正直な人間はいませんでした。なにより、ミナカイコク遠征隊隊長として、立派に戦い、賢烏族の未来のために命を捧げました。この男に、天国の門が開かれますように・・・」


 カイ・セヤロは目を閉じ黙祷を捧げる。


「ひでぇ言い草だな・・・」


 突然、ミーヨ・アキサの亡骸から声が聞こえ、カイ・セヤロは飛び上がるほどに驚いた。


「げっ!」


 カイ・セヤロは目を丸くし、まじまじと亡骸だったはずのミーヨ・アキサを見つめた。


 ミーヨ・アキサはうつ伏せの状態から痛みを堪えるようにゆっくりと体を反転させ、カイ・セヤロに振り向いた。


「残念ながら・・・まだ、生きてるぞ・・・」


 ミーヨ・アキサは痛みに顔をしかめながらそう言って無理に笑ってみせ、それを見て、


「アキサ殿!生きておられたか!」


 カイ・セヤロは飛び上がって喜んだのだった。


「死にそう、だけどな・・・」


 ミーヨ・アキサは顔を引きつらせて笑う。


「残念ながら、もう死ぬことはありませんよ」


 カイ・セヤロは自信を持ってそう告げると、


「救護班、こっちだ!」


 声を張り上げ、離れたところで治療を行っている兵士を呼んだ。


「カサコクの薬はミナカイコクのものより良質だと聞いているが・・・」


 ミーヨ・アキサがそう言うと、


「だからアキサ殿はもう、死にたくても死ねません」


 カイ・セヤロはそう応えて爽やかな笑顔をみせるのだった。


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