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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
315/367

三一四 黒の爬神が二人


 タケルは死を覚悟した。


 ただでは死なないからな・・・


 タケルは剣を握る手に力を込める。


「これで終わりだ!」


 ガギラ・ド・ガギラがそう叫び、タケルに最後の一撃を振り下ろした。


「ギエエエエエ!」


 まさにその時だった。


 ドゴォーン!


 タケルの目の前で信じられないことが起こった。


「ギイエ!」


 剣を振り下ろすガギラ・ド・ガギラを、突然現れた別の黒の爬神が殴り倒したのだった。


 ダァンッ!


 ガギラ・ド・ガギラは豪快に仰向けに倒れた。


「えっ・・・」


 タケルは唖然としながらその光景を見つめ、同時に、命拾いしたことにほっとした。


 そしてさりげなく、爬神との距離を取るために後退(あとずさ)るのだった。


「ガギラ・ド・ガギラよ、こいつを斬り殺してどうするのだ」


 突然現れたもう一人の黒の爬神は仁王立ちでガギラ・ド・ガギラに問いかける。


 ガギラ・ド・ガギラを殴り倒したこの黒の爬神は言うまでもなくギラス・ド・ギラスだ。


「貴様、何を言っているのだ」


 ガギラ・ド・ガギラは苛立ちを隠さない不機嫌さでそう吐き捨て、そして、口から流れる血を拭いながら立ち上がった。


「簡単に殺してどうする?こいつはいたぶって殺すべきだ」


 ギラス・ド・ギラスはそう言い、タケルを冷たく見下ろしニヤリと笑う。


 その狂気の眼差しに、タケルはゾクッと背筋が寒くなる。


「なるほど」


 ガギラ・ド・ガギラは納得して卑しい笑みを浮かべると、ギラス・ド・ギラスのそばに立ってタケルを見下ろし、舌舐めずりをするのだった。


「賊軍の大将タケル・テドウはもがき苦しみながら、我々に食い殺されるのだ」


 ギラス・ド・ギラスはそう告げ、鋭くタケルを睨みつける。


 どうやっていたぶろうか。


 その目から感じるのは、反逆者に対する激しい怒りだった。


「こいつはもうふらふらだ。じっくりと手足を一つずつ引き千切ってやろう」


 ガギラ・ド・ガギラは剣を鞘に収め、


「この手でな」


 そう言ってタケルをいたぶるように見るのだった。


 その眼差しに、タケルの身の毛がよだつ。


 いくらなんでも黒の爬神二人相手じゃ、どうにもならない。


 タケルに諦めにも似た感情が湧き起こってくる。


「観念しな」


 ガギラ・ド・ガギラはそう言うが早いか、タケルに襲いかかった。


 こいつ一人でも倒すことができれば・・・


 タケルはガギラ・ド・ガギラの鳩尾を狙って神経を集中させる。


 タケルは鳩尾に向かって剣を投げるつもりだ。


「ギイエエエ!」


 ガギラ・ド・ガギラの手がタケルを掴みにかかる。


「うぉおおお!」


 タケルが雄叫びを上げ剣を振り上げたそのとき、


 ヒュッ!


 風を切る音が聞こえた。


 次の瞬間、


 グサッ!


 ガギラ・ド・ガギラの左の目に、短刀型の手裏剣が突き刺さっていた。


「ギイアアア!」


 ガギラ・ド・ガギラは悲鳴を上げる。


 タケルが後ろを振り返ると、そこにルカ・トッチャの姿があった。


「トッチャ殿!」


 タケルの声にルカ・トッチャは頷き、


「間に合いました」


 ほっとした笑顔をみせる。


 そこに、


「ギエエエエ!」


 もう一人の黒の爬神ギラス・ド・ギラスが襲いかかる。


 ギラス・ド・ギラスは剣を鞘に収めていない。


 ブォン!


 タケルに向かって思いっきり剣を振り、


「くっ」


 タケルは横に跳んでその太刀を躱し、地面を転がった。


「タケル様!」


 ルカ・トッチャは慌ててタケルに向かって駆け出す。


 タケルはすぐさま立ち上がり剣を構える。


 だが、剣では爬神の急所に届かず、まともに爬神の振る大剣とぶつかれば弾き飛ばされるだけだ。


「キエエエ!」


 ギラス・ド・ギラスはタケルに向かって剣を振り上げ、


「ギィアアア!」


 と悲鳴を上げた。


「えっ」


 と驚くタケル。


 見ると、その背中に向かって槍を突き出す兵士がいた。


 サスケだった。


「サスケ!」


 タケルの顔がパッと明るくなる。


 こういうときにいつも助けてくれるのがサスケだった。


 何とも言えない感情がこみ上げてくる。


 サスケはタケルと目が合うと笑みを浮かべて頷き、それから自分の背後に向かって顔を微かに傾け、そこを見るように促した。


 うしろ?・・・


 タケルがサスケの背後に目を向けると、そこにアジの姿があった。


 アジは両手に槍を握っていて、一つはタケルのものだった。


「アジ!」


 タケルが叫ぶと、


「タケル、これ、落ちてたぞ」


 アジはそう言ってタケルに向かって駆け出した。


「貴様ぁあああ!」


 ギラス・ド・ギラスはサスケに向かって剣を振る。


 ブォン!


 サスケはそれを後ろに跳んで躱し、その間に、アジはタケルのところにたどり着き、


「ほら」


 そう言ってタケルに槍を手渡すことができたのだった。


 同時にルカ・トッチャもタケルの元に駆け寄った。


 サスケはそのままギラス・ド・ギラスを引きつけ、タケルとアジ、ルカ・トッチャの三人はガギラ・ド・ガギラに向かって槍を構えた。


「心強い援軍だ」


 タケルはそう言って左右に頼もしく二人を見る。


「間に合って良かったです」


 ルカ・トッチャはそう応えて微笑み、


「お前を死なせるわけにはいかないからな」


 アジはそう言いながら、ガギラ・ド・ガギラを睨みつけた。


「貴様ら・・・」


 ガギラ・ド・ガギラは左目から血を流しながら怒りに全身を震わせ、右目で三人を睨みつけながら、ゆっくりと剣を抜いた。


 手裏剣は刺さったままで、血を流す左目を気にする様子はない。


「ギイアアアオオオオウウ!」


 ガギラ・ド・ガギラは怒りを爆発させ、天に向かって咆哮すると、槍を構える三人に襲いかかった。


 ブオン!ブオン!ブオン!


 一方、サスケの方はといえば、


「キエエエエ!」


 ブォン!ブォン!ブォン!


 ギラス・ド・ギラスの振り回す剣を後ろに右に左に跳びながら、槍の穂で必死に受け流していた。


 黒の爬神は並の爬神ではなかった。


 動きが速く、一瞬の判断の遅れも許されない。


 ガシッ!ガシンッ!ガシッ!


 サスケは意識を集中させ、ギラス・ド・ギラスの繰り出す太刀をまともに受けないように細心の注意を払いながら受け流しているのだが、そこから攻撃に転じることができないでいた。


 それでも、


 くっ・・・


 サスケは歯を食いしばり反撃の糸口を探す。


「キエエエエ!」


 ギラス・ド・ギラスはなかなか仕留められない茶髪の賢烏に苛立っていた。


 握る剣に力がこもる。


「なめやがって・・・」


 ギラス・ド・ギラスはそう吐き捨て、


「ギィエエエ!」


 ブォン!ブォン!ブォン!


 サスケに向かって力任せに剣を振る。


 ガシッ!ガシンッ!ガシッ!


 サスケはギラス・ド・ギラスの太刀を払いながら、タケルとアジの様子を気にした。


 槍を構えもう一人の黒の爬神と対峙する三人。


 タケル、アジ、そしてルカ・トッチャ。


 この三人を見て、


 大丈夫だ・・・


 サスケはそう確信し、


 ならば・・・


 と、今目の前で猛烈に剣を振り回すこの黒の爬神を、できるだけこの場から遠ざけることにした。 


 ブォン!ブォン!ブォン!


 ガシッ!ガシンッ!ガシッ!


 サスケはギラス・ド・ギラスの太刀を払いつつ、大きく後ろに跳び、すかさず背を向け走り出した。


「逃がすか!」


 ギラス・ド・ギラスは迷うことなくサスケを追いかける。


「捕まえてみろ!」


 サスケは挑発的な笑みを浮かべてそう叫び、腰の剣を抜くと、振り向きざまにそれをギラス・ド・ギラスに向かって投げた。


 ブンッ!


 剣はギラス・ド・ギラスに腹の当たりに向かって飛び、


「ギエッ!」


 ギラス・ド・ギラスは咄嗟に横に跳ぶようにしてそれを躱すが、


 バサッ!


「ギィア!」


 躱しきれず脇腹を斬られてしまうのだった。


 脇腹から溢れる血の感触に、


「許さん・・・」


 ギラス・ド・ギラスは怒りに震えた。 


 わぁあああああ!


 ガシンッ!ガシッ!ガキンッ!


 戦闘の混乱の中(とはいえ、大きく横に戦線が広がっているため、密集しているわけではない)、転がる死体を避けながらサスケは必死にギラス・ド・ギラスから逃げ、そして、タケルから十分離れた場所まで来ると、


 そろそろいいか・・・


 走るのをやめ、ギラス・ド・ギラスが追いつくのを待った。


 サスケは目を半眼にし呼吸を整える。


 ズダンッ!ズダンッ!ズダンッ!


 ギラス・ド・ギラスの怒りと殺気が、一つの塊となって迫ってくる。


 ギラス・ド・ギラスはサスケとの間合いを詰めると、


「ギエエエエエ!」


 と叫び、剣を振り上げた。


 今だ・・・


 サスケはパッと目を見開き、素速く右に跳ぶ。


 ブオン!


 ギラス・ド・ギラスの太刀は空を切り、サスケはギラス・ド・ギラスの背後に回り込んだ。


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