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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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一九六 アク


「なんだ貴様!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは突然現れた黒緑色の霊兎に怒声を上げる。


「俺はラドリア親衛隊隊長、アクって者だ」


 アクはそう自己紹介すると、ゴリキ・ド・ゴリキに向かって剣を構えた。


 アクの握る剣がボワッと鈍く光る。


「アク・・・」


 ラウルはゴリキ・ド・ゴリキがアクに気を取られている隙に剣を拾うと、歯を食いしばって立ち上がった。


「逃げろ!」


 アクはラウルに向かって叫んだ。


「逃げるわけないだろ」


 ラウルはそう応えて笑みを浮かべる。


「いいからお前は逃げろ!お前を死なせるわけにはいかないんだ!」


 アクは必死に逃げろと訴える。


「アク、お前を残して逃げるわけないだろ。二人でやっつけようぜ」


 ラウルはそう言うと、歯を食いしばって腹に力を込め、残された気力を振り絞って剣を握った。


 目の前にいる赤の爬神は爬神軍の最高指揮官であり、最強の爬神なのだ。


 アクを置いて逃げるなんて、ラウルにはできなかった。


「しょうがないな」


 アクは諦め顔でそう応え、ため息をつく。


 しかし、その顔は嬉しそうだ。


 アクの心に〝二人でやっつけようぜ〟という言葉が響いていた。


 アクは今まで感じたことのない感情に胸が熱くなる。


 シールが惚れるわけだ・・・


 アクは微かな胸の痛みに苦笑いを浮かべる。


 そこにあるシールへの想い。


 苦笑いを浮かべるアクの、その寂しげな眼差し。


「バカめ」


 ゴリキ・ド・ゴリキはそう言って立ち上がり、二人の霊兎をせせら笑う。


 ゴリキ・ド・ゴリキは二人を睨みつけながら大きく息を吸い、全身に気を溜める。


 ゴリキ・ド・ゴリキの体がぷるぷる震え、全身からエネルギーが漲り出す。


 なんて野郎だ・・・


 ラウルはゴリキ・ド・ゴリキから放たれる強い殺気に圧倒されないように歯を食いしばる。


 ラウルを守らねば・・・


 アクはゴリキ・ド・ゴリキから発する凄まじい殺気に恐怖を感じながらも、腹に力を入れて覚悟を決める。


「誰からいたぶってやろうか」


 ゴリキ・ド・ゴリキはニヤリと笑う。


「俺が相手だ!」


 アクはそう叫ぶと、ゴリキ・ド・ゴリキに向かっていった。


「うおおお!」


 アクは跳び上がってゴリキ・ド・ゴリキに剣を振り上げる。


 ビリビリッ!


 蛮兵に斬られた背中が痺れ、痛みが走る。


 アクはぐっと歯を食いしばってゴリキ・ド・ゴリキの眉間を狙う。


 ガキンッ!


 ゴリキ・ド・ゴリキはアクの太刀を顔の前で受けると、


「ギェエエ!」


 そのままアクを払い除けるように剣を振った。


 ブォン!


 ゴリキ・ド・ゴリキの気合いを込めた力でアクの体は弾き飛ばされる。


「くっ」


 ザザァーッ!


 アクは地面を滑るようにして着地し、踏ん張って剣を構えると、


 ズキッ!


 今度は蛮兵に噛まれた足に痛みが走った。


 くそっ・・・


 アクの額に脂汗が滲む。


 ズダンッ!ズダンッ!


 ゴリキ・ド・ゴリキがアクに襲いかかる。


「ギエエ!」


 ブォン!


 ゴリキ・ド・ゴリキが力一杯に振り下ろした太刀を、


「負けるか!」


 アクはそう叫び、


 ガキーンッ!


 顔の前で受け止めた。


 ズキッ!


 ゴリキ・ド・ゴリキの太刀を受け止めた衝撃がアクの全身に走り、背中と足に鋭い痛みが走る。


「なんのこれしき!」


 アクは痛みを吹き飛ばすかのように叫んで自分自身に気合いを入れ直す。


 ゴリキ・ド・ゴリキは力一杯振り下ろした自らの太刀が、この黒緑色の霊兎にまともに受け止められたことに驚いていた。


 こいつもただの霊兎じゃないのか・・・


「ならば、本気を出すまでだ」


 ゴリキ・ド・ゴリキはそう吐き捨てると、


「ギイエエ!」


 物凄い勢いでアクに襲いかかった。


 ガキッ!ガキッ!ガキッ!


 アクは必死にゴリキ・ド・ゴリキの太刀を受け止める。


「死ね!」


 ゴリキ・ド・ゴリキが気合いを込めた一撃をアクに見舞うと、


 ガッキーン!


 その太刀を必死に受け止めたアクは後ろに弾き飛ばされた。


 ゴリキ・ド・ゴリキはすぐにアクに迫り、


「トドメだ!」


 地面に横たわるアクに向かって剣を振り上げる。


 そのとき、


「うおおおお!」


 ラウルがゴリキ・ド・ゴリキの背後から襲いかかり、


 ビュンッ!


 気合いを込めた一撃をその後頭部めがけて振り下ろした。


「ギィエ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは咄嗟に体を横に移動させ、ラウルの一撃を躱そうとするが、


 ブスッ!


 その一撃はゴリキ・ド・ゴリキの肩を突き刺した。


「ギィアッ」


 その肩から血が流れ出し、ゴリキ・ド・ゴリキは短い悲鳴を上げる。


「ちっ!」


 ラウルはゴリキ・ド・ゴリキの背中を蹴って離れながら、仕留めきれなかったことに舌打ちをした。


 そして、


「霊兎ごときがぁあああ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは発狂した。


「ギィェエエエアア!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは絶叫すると、狂ったようにラウルとアクに襲いかかった。


 ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!


 二人はその太刀を必死に受け流す。


 ガシッ!ガシッ!ガシッ!ガシッ!ガシッ!ガシッ!ガシッ!


 怒り狂ったゴリキ・ド・ゴリキは誰にも止められない。


 二人の体はゴリキ・ド・ゴリキの太刀を受ける度に、その衝撃によってダメージを受けていった。


「くっそ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」・


 ラウルはもう限界を超えていた。


 ゴリキ・ド・ゴリキの肩を突き刺したその一撃に、力を使い果たしていた。


「ぐっ、ぐぐ・・・」


 アクは全身の痛みを堪え、ゴリキ・ド・ゴリキの太刀を必死に受け流すが、そこには恐怖しかなかった。


 ラウルは発狂したゴリキ・ド・ゴリキの隙を探すが、ゴリキ・ド・ゴリキの体は激しい怒りの炎に包まれ、どこにも隙は見当たらなかった。


「ギエエエ!」


 ブォオオン!


 ゴリキ・ド・ゴリキの渾身の一撃を躱すことができず、


 ガッキーンッ!


 ラウルはそれを正面で受け止めるしかなかった。


「ぐあっ」


 弾き飛ばされ、


 ガンッ!


 ラウルは頭から地面に叩きつけられ意識を失ってしまう。


 ラウルはぐったりとし、その手から剣がこぼれ落ちる。


「ラウル!」


 アクは思わず叫んでいた。


 アクはラウルに意識がないことを見て取ると、ゴリキ・ド・ゴリキの注意をラウルから逸らそうと、すぐさまゴリキ・ド・ゴリキに向かって跳びかかった。


「うぉおおお!」


 怒り狂ったゴリキ・ド・ゴリキはアクに振り向くと、


「ギィエエエ!」


 凄まじい勢いで剣を繰り出した。


 ブォオオン!


 ゴリキ・ド・ゴリキの繰り出した剣の凄まじさに、アクはヘソの下あたりで何かが収縮するような感覚を覚え、全身が恐怖に襲われた。


 その瞬間、アクは死を悟った。


 シール・・・


 最後に浮かんだのは、シールの自分を睨みつける嫌悪の眼差しだった。


 それがアクには寂しかった。


「うおおお!」


 アクは目を見開いて雄叫びを上げる。


 ブァサッ!


 ゴリキ・ド・ゴリキの繰り出した太刀は、アクの体を腹部から一刀両断に斬り捨てた。


「ゲボッ・・」


 アクの口から血が吹き出し、


 ドサッ、ドサッ!


 その二分された体が、バラバラに地面に落ちた。


 アクはほぼ即死だった。


「次はお前だ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは狂ったように、倒れて動かないラウルに向かって突き進んだ。


 そのとき、


「させるか!」


 叫び声が聞こえ、五人の霊兎がゴリキ・ド・ゴリキの前に立ちはだかった。


 それは、スペルスのラルス、ミンスキのマイス、サットレのイオン、ボルデンのユラジ、ナスラスのアミラ、五人の護衛隊隊長だった。


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