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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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一八九 疲弊


 ガッ!


 隊士の振り下ろした太刀がギラス・ド・ギラスの肩を斬る。


 しかし、その太刀は爬神の硬い皮膚を斬り裂くことはできなかった。


「ギイエエ!」


 ギラス・ド・ギラスは叫び、


 グワシッ!


 隊士の頭を鷲掴みにすると、


「ギャッ!」


 悲鳴を上げるその隊士をふんっと鼻で笑い、


 ブシャッ!


 迷わず握り潰すのだった。


 ギラス・ド・ギラスは自分に向かってくる者がいないことを確認すると、辺りを見回し、別の神兵に向かっていく隊士を見つけて襲いかかった。


 飛びかかってくる霊兎を相手にするときは素手で掴まえる方が楽だが、こちらから霊兎を襲うときは剣で斬り捨てる方が楽だし効率的だった。


 バサッ!


「ぎゃっ!」


 ギラス・ド・ギラスは隊士を腹から真っ二つに斬り捨てると、地面に転がったその頭部をもぎ取って口の中に放り込む。


 バキッ、ボリボリ・・・


「食べながら戦うのは贅沢だ」


 ギラス・ド・ギラスはニヤリと笑い、次の獲物を探す。


 目の前で繰り広げられる戦闘。


 ギラス・ド・ギラスの目に一人の霊兎が目に留まった。


 その霊兎は神兵の頭上高く跳び上がると、


 バサッ!


 その眉間を斬り裂いた。


「ギィ・・・」


 呻き声を漏らし倒れる神兵。


「うぉりあ!」


 その霊兎はすぐさま別の神兵に向かっていった。


 次はこいつだ・・・


 ギラス・ド・ギラスが狙いを定めたのは、ドゴルラの護衛隊隊長テサカだった。


 ギラス・ド・ギラスはテサカに襲いかかる。


「ギエエ!」


 ギラス・ド・ギラスはテサカの背後から剣を振り下ろした。


 ブォン!


 テサカは咄嗟に横に跳んでその太刀を躱し、地面を転がった。


 テサカはギラス・ド・ギラスを見上げると、


「黒の爬神か・・」


 そう声を漏らして素速く後ろに跳び、間合いを取って剣を構えた。


 テサカはギラス・ド・ギラスから放たれる殺気に気圧されないように、剣の柄を両手で握り締め、ぐっと歯を食いしばる。


「ギイエ!」


 ギラス・ド・ギラスは凄まじい勢いでテサカに襲いかかった。


 ブォン!ブォン!ブォン!


 ギラス・ド・ギラスの繰り出す太刀を、テサカは右に左に後ろに跳んで必死に躱した。


 やはり、黒の爬神は並の神兵とはわけがちがう・・・


 テサカに焦りの色が浮かぶ。


 テサカはギラス・ド・ギラスの隙を探すが、その全身から漲る力に隙は見つけられない。


 たとえ隙を見つけそこを突いたところで、この黒の爬神を倒せるとは思えなかった。


 タヌは簡単に倒したように見えたのだがな・・・


 テサカは黒の爬神を赤子の手をひねるように斬り捨てたタヌの実力に、改めて驚嘆すると同時に、タヌのような霊兎がいることに喜びを感じるのだった。


 たとえ今、自分がここで殺されようとも、あの二人がいる限り、我々がこの戦いに敗れることはない・・・


 不思議とそう思えるのだった。


 ブォン!


 ギラス・ド・ギラスの水平に繰り出した太刀を、テサカは仰け反るようにして躱すと、


「なっ!」


 足を滑らせ仰向けに倒れてしまう。


 ドサッ!


 そこへギラス・ド・ギラスが襲いかかった。


「死ね!」


 ギラス・ド・ギラスはテサカに向かって剣を突き下ろす。


 テサカは体を横に回転させてそれを躱そうとするが、


 グサッ!


「うっ!」


 ギラス・ド・ギラスの剣はテサカの脇腹を斬って、地面に突き刺さった。


 テサカの脇腹は深く斬られ、


「ぐう・・」


 傷口から血がどくどくと溢れ出した。


 そのとき、


「やめろぉおおお!」


 その叫び声がギラス・ド・ギラスの背後から聞こえ、テサカが視線を向けると、そこにタヌの姿があった。


 タヌはギラス・ド・ギラスの頭上高く跳び上がり、その後頭部を狙って剣を振り上げていた。


 タヌ、後は任せたぞ・・・


 テサカはギラス・ド・ギラスに立ち向かうタヌの精悍な顔つきを見て微かな笑みを浮かべると、


「グボッ」


 口から血を吐き、ぐったりとするのだった。


 テサカのその目からすーっと精気が失われていき、そして、テサカは目を開けたまま絶命した。


 テサカの息絶えた姿がタヌの目に入る。


 間に合わなかったか・・・


 ギラス・ド・ギラスは右手で後頭部の首の付け根を隠しつつ、


「ギエエ!」


 怒声を上げながら、敏捷な動きで背後のタヌに振り返ると、左手の拳をタヌの横っ腹に向かって突き出した。


「くそっ!」


 タヌはギラス・ド・ギラスの敏捷さに驚き、咄嗟に体を捻ってその拳を躱そうとするが、


 ガンッ!


 躱しきれずに背中でそれを受けてしまう。


 タヌの体はその一撃で飛ばされ、戦闘中の別の神兵の背中にぶつかって地面に落ちた。


 タヌがぶつかった神兵は、


「ギエッ」


 と驚いたところを、


 ブスッ!


 隊士に鳩尾を突き刺され、膝から崩れ落ちたのだった。


 神兵を倒した隊士はタヌに気づかず、黒の爬神を避けるように、そこから少し離れたところにいる神兵に向かっていった。


 タヌは立ち上がってギラス・ド・ギラスに向かって歩き出す。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


 テサカを救うためにタヌはあえて気づかれるように大声を出して斬りかかったのだが、それが無駄にタヌから体力を奪っていた。


 タヌは思った以上に、自分が疲弊していることに気づいた。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


 タヌはテサカを知らない。しかし、テサカの着ている服から、自分が救おうとした霊兎が護衛隊隊長であることはわかっていた。


 もう少し早ければ・・・


 タヌの心は虚しさに襲われる。


「ギイェエ!」


 ギラス・ド・ギラスはすかさず地面に突き刺した剣を抜き、タヌに襲いかかった。


 ギラス・ド・ギラスはタヌとの間合いを詰め、剣を振り上げる。


 タヌはすーっと意識を落ち着ける。


 ブォンッ!


 タヌはギラス・ド・ギラスの太刀を後ろに跳んで躱す。


 ブォンッ!ブォンッ!ブォンッ!


 ギラス・ド・ギラスは猛烈な勢いで剣を振り回してタヌに斬りかかるが、タヌはそれをすっすっすっと躱していった。


「この野郎!」


 ギラス・ド・ギラスは自分の太刀がタヌに掠りもしないことに苛立ちを覚える。


 タヌは静かに息を吐きながら、ギラス・ド・ギラスが放つ怒りのエネルギーを受け流し、体の力を抜いて気の流れに身を任せる。


 タヌにはギラス・ド・ギラスの太刀を躱すことはできるが、ギラス・ド・ギラスを仕留めるだけの力は残っていなかった。


 それ程までにギラス・ド・ギラスの動きは充実し、その放つエネルギーは激しかった。


 もし攻撃を仕掛けたところを掴まれてしまったら、そこで終わってしまう。


 だから、ギラス・ド・ギラスがその体力を消耗するのを待つしかなかった。


「ギイエエエ!」


 ギラス・ド・ギラスは怒りのために我を忘れて剣を繰り出し続ける。


 ブォン!ブォン!ブォン!


 タヌは心を鎮め、すっすっすっとそれを躱す。


 すると突然、背後に凄まじい殺気を感じた。


 咄嗟に身を屈めると、


 ブオン!


 空を斬る大きな音がして、爬神の剣がタヌの頭上を掠めたのだった。


「くそったれめが!」


 背後でそう毒づいたのは、ガキラ・ド・ガギラだった。


 タヌは黒の爬神二人に前と後ろを挟まれてしまう。


「ガギラ・ド・ガギラ、こいつは、私一人で十分だ」


 ギラス・ド・ギラスがそう言うと、


「こいつはラドリアの惨劇のあの気狂いの子供だ。ただの霊兎ではない」


 ガギラ・ド・ガギラは真顔でそう告げた。


 ギラス・ド・ギラスの表情が変わる。


 そういうことか・・・


 ギラス・ド・ギラスは自分の繰り出す太刀がこの赤褐色の霊兎に掠りもしなかった理由がわかって落ち着きを取り戻した。


 この赤褐色の霊兎はドラゴンが恐れるほどの霊兎なのだ。


「ガギラ・ド・ガギラよ、ならば、二人で確実に仕留めよう」


 ギラス・ド・ギラスはそう提案してニヤリと笑う。


「うむ」


 ガギラ・ド・ガギラは頷き、タヌとの距離をじりじりと縮めていく。


 この霊兎を逃がしてはならない・・・


 ガギラ・ド・ガギラとギラス・ド・ギラスはタヌを前後に挟み、左右に逃げられないように両手を広げるようにして、その間合いを詰めていった。


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