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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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一八五 エラスの変化


「うぉおおお!」


 バサッ!


 アクは雄叫びを上げ、蛮兵を斬り倒した。


 くそっ、キリがねぇ・・・・


 アクは広場中央付近にいて、神兵と蛮兵の両方を相手に戦っていた。


 神兵に向かって跳び上がるアクの目に映ったのは、広場南口から雪崩れ込む神兵と、その勢いを止めようとする茜色のバンダナの霊兎たちの姿だった。


 あそこで爬神軍の勢いを殺すことができれば、広場にいる隊士たちが楽になる・・・


 アクはラビッツの霊兎たちのその姿に胸が熱くなる。


 俺もあそこで爬神軍を食い止めなければ・・・


 ブスッ!


「ギィアッ!」


 アクは神兵の後頭部に剣を突き刺すと、すぐさま広場南口へ向かった。


 襲い来る神兵、蛮兵の攻撃を躱しながら先を急ぐ。


 広場の戦闘の中にポッカリとできた空白地帯を突っ切っていると、


 ビュンッ


 突然背後から襲われ、アクはそれを躱そうとするが間に合わなかった。


 バサッ!


 アクは斬られ、


「くっ!」


 背中に鋭い痛みを感じながらも、前に跳びながら後ろを振り向き剣を構えた。


「こんなところで会うとはな」


 そう言ってニヤリと笑うのは、イスタルの蛮狼族監視団団長サウォだった。


 ザザッと足音がし、アクの周りを四人の蛮兵が取り囲む。


「サウォ殿か。つくづく間の悪い男だな」


 アクはサウォを鼻で笑う。


 サウォの背後にはさらに三人の蛮兵が立っていた。


 相手はサウォを含め八人か・・・


 アクは意識を集中させる。


 サウォごときを相手にしている場合ではなかった。


 一刻も早く南口に向かい、爬神軍の勢いを削がなければ・・・


「アク、お前に天の裁きを与えてやる」


 サウォはそう吐き捨て、


「殺れ!」


 そうアクを取り囲む四人の蛮兵に叫んだ。


「ウォオオオオ!」


 四人の蛮兵が一斉に剣を振り上げ向かってくるのと同時に、


 バサッ!


 アクは後ろの蛮兵の首を刎ね、その蛮兵と体を入れ替えるようにして残りの三人の蛮兵と向き合うと、


「雑魚が」


 そう吐き捨て、


 バサッ!バサッ!バサッ!


 あっという間にその三人の蛮兵を斬り捨てた。


 そのあまりの速さに、蛮兵たちは悲鳴を上げることなく倒れたのだった。


「覚悟しろよ」


 アクはサウォを睨みつけ、ニヤリと笑う。


 ゴクリ。


 アクのその凄みにサウォは緊張した。


 すると、地面に倒れ死んでいるはずの蛮兵が突然、


 ガブッ!


 アクの足に噛み付いた。


「死に損ないが!」


 ブスッ!


 アクは剣を下に向けて突き、


「ぎゃっ」


 アクの足に噛みついた蛮兵は絶命したが、噛みついたままだった。


「クソが!」


 アクはその蛮兵を足を振って払おうとするができなかった。


 蛮狼族は犬歯が発達していて、それが足に食い込んでいるのだ。


 動きの取れなくなったアクを見て、


「ふっ」


 サウォは笑う。


「アク、観念しろ」


 サウォがそう告げると、背後に立っていた三人の蛮兵がザザザッと前に出てきて剣を構えた。


 残りサウォを入れて四人か・・・


 アクは目の前の蛮兵三人を威圧するように剣を構える。


 それにしても、足に噛みついたままの蛮兵が邪魔だった。


「雑魚を相手にしている暇はないんだがな」


 アクはそう言って余裕の笑みを浮かべる。


 だが、誰がどう見ても、それは足を噛まれ身動きの取れないアクの強がりにしか見えなかった。


「アク、何とでも言うが良い」


 サウォは冷めた目でアクを見、


「殺れ」


 と静かに告げる。


 三人の蛮兵は最初の四人が殺られたときのアクの凄みを見ているので、すぐには斬りかかれない。


 アクとの間合いをじりじりと詰めていく。


 そのときだった。


 グサッ!


「ギャオッ!」


 突然、サウォの胸から剣の切っ先が突き出て、


「グボッ」


 サウォは口から血を吐き、地面にうつ伏せに倒れたのだった。


 ドサッ!


 サウォが倒れると、そこに立っていたのは茶髪の霊兎だった。


「アク様、助太刀します」


 茶髪の霊兎はそう言うと、三人の蛮兵に斬りかかっていった。


「エラス!」


 アクは驚き、思わず声を上げた。


 目の前で勇猛果敢に蛮兵に立ち向かう茶髪の霊兎は、あの臆病者のエラスだった。


「本当にエラスなのか・・・」


 アクは自分の目を疑ってしまう。


「ギァオッ!」


 しかし、蛮兵を迷いなく斬り殺すこの茶髪の霊兎は、エラスに間違いなかった。


 エラスは何かに取り憑かれたかのように、怒りの形相で蛮兵にぶつかっていた。


 それは今まで見たことのないエラスの姿だった。


 こいつは・・・


 アクはしゃがんで足に噛みつく蛮兵の口を無理やり開かせて足を抜きつつ、エラスの戦いぶりに目を見張った。


 バサッ!バサッ!


「ウギォッ!」「ギャオッ」


 エラスはあっという間に蛮兵三人を片付けると、


「大丈夫ですか」


 アクに声をかけた。


 アクの背中は斬られ、服が血に染まっている。


「大丈夫だ」


 アクはぶっきらぼうに答える。


 そのアクの顔は、今までのようなエラスを見下したものではなかった。


「まだ行けますか?」


 エラスが微かな笑みを浮かべ悪戯っぽくアクを見ると、


「当たり前だ。お前には負けんぞ」


 アクはそう言って笑った。


 そのとき、エラスは一人の男として、アクに認められたような気がした。


 アクはアクでエラスの顔つきの精悍さに驚いていた。


 人はこんなにも変われるものなのか・・・


 アクは言った。


「エラス、南口で戦って爬神軍の勢いを止めるぞ」


 アクは広場南口に向かって(あご)をしゃくる。


「はい!」


 アクの自分を信頼するその眼差しが、エラスは嬉しかった。


 エラスは元々タヌを追って南口へ向かっているところだったので、そこでアクと共に戦えることを心強く思った。


「あそこで爬神軍の勢いを止められれば、勝機が見えてくるはずだ」


 アクは言葉に力を込め、エラスに真剣な眼差しを向ける。


「僕もそう思います」


 エラスがそう言って頷くと、そこへ突然神兵が斬りかかってきた。


「ギエエ!」


 神兵はアクから見て右側から二人に斬りかかった。


 ブォンッ!


 神兵が水平に振った太刀を、二人は後ろに跳び退いて躱すと、エラスが囮になるように神兵の前に立って剣を構え、アクはその背後に回った。


「うぉおおお!」


 アクが神兵の背後で跳び上がると、神兵はそれに気づいて右手に持つ剣をエラスに向けながら、咄嗟に上体を左に捻り、背後のアクに向かって左手を伸ばした。


 その瞬間、


 ブスッ!


 エラスが神兵の懐に飛び込み、その鳩尾に剣を突き刺したのだった。


「ギィエ!」


 神兵が悲鳴を上げながらエラスの頭を掴みにかかると、


 ブスッ!


 今度は後頭部にアクの剣が突き刺さった。


「ギィ・・エ・・・」


 神兵は呻き声を漏らし、前のめりに倒れ絶命した。


「よし、行くぞ」


 アクがそう言ってエラスの肩をポンと叩くと、


「はい」


 エラスはそう返事を返し、キッと唇を一文字に結んだ。


「死ぬなよ」


 アクはエラスにそう声をかけて微笑むと、広場南口の激しい戦闘の中へ突っ込んでいった。


 なんだろう・・・


 エラスはあれ程恐れていたアクに、人としての温かみを感じて不思議な気持ちになる。


 エラスにはアクが少し足を引きずっているようにも見えたが、アクの全身から(みなぎ)る気が、それを不安に感じさせなかった。


「世界を変えるんだ・・・」


 エラスはそう呟くと、アクに続いて広場南口の激しい戦闘の中に突入していった。


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