一八一 このクソ爬神がぁ!
教会前広場での戦いは、時間とともに護衛隊隊士たちにとって不利な状況になっていった。
神兵や蛮兵に力で及ばない分を俊敏さで補って戦うしかない隊士たちは、体力の消耗が激しい。
—第二陣が投入されるまでに、できるだけ神兵と蛮兵を倒さなければならない。
その一念で隊士たちはひたすら戦った。
しかし、ラビッツは第二陣が投入されることを知らない。
今広場にいる隊士がすべてだと思っているから、その戦う姿には悲愴感さえ漂わせていた。
わぁあああああ!わぁあああああ!
兵士一人ひとりの雄叫びが混ざり合い、一つの喊声として教会前広場を包み込む。
ヒュン!ブスッ!
「ギィアッ!」
パパンは一撃で神兵を仕留めると、
「ふぅー」
と、大きく息を吐いた。
一人でも多くの爬神を倒さなければ・・・
パパンは疲弊した体に鞭打つように必死に剣を振っていた。
一息つくのはほんの一瞬でしかない。
そんなパパンの背後からグラゴ・ド・グラゴが襲いかかる。
パパンは背後に物凄い殺気を感じると、咄嗟に頭を低くして前に跳び、地面を転がってそれを躱した。
ブォン!
グラゴ・ド・グラゴの右手が空を切る。
「逃がすか!」
グラゴ・ド・グラゴは素速い動きでうつ伏せの状態のパパンに襲いかかる。
パパンは地面に手をついてすぐに立ち上がろうとしたが、間に合わなかった。
それぐらいグラゴ・ド・グラゴの動きは速かった。
グワシッ!
グラゴ・ド・グラゴは左手でパパンの頭を鷲掴みにした。
「くそっ」
パパンは握り締めた剣を振り回し、グラゴ・ド・グラゴに斬りつけようとするが、すでに体力を消耗し尽くした彼に、黒の爬神に抗う力はなかった。
頭がぐぐぐっと締め付けられていく。
パパンは覚悟を決め、体の力を抜き目を閉じる。
「パパン!」
どこからかバケじいの声が聞こえた。
バケじぃ、今までありがとな・・後は頼んだぜ・・・
パパンは心の中で呟いた。
そして、
ブシャ!
パパンの頭部はグラゴ・ド・グラゴの手の中で潰されたのだった。
グラゴ・ド・グラゴは手についたパパンの肉片を舐めると、
「この霊兎は当たりだったようだ」
卑しい笑みを浮かべ、何度も手についた肉片を舐めるのだった。
バサッ!ブスッ!バサッ!
タヌは広場南口付近で爬神軍の勢いを止めるべく必死に戦っていた。
ブスッ!グサッ!バサッ!
神兵はバタバタと倒れていくが終わりは見えない。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
タヌは肩で息をし、意識が朦朧とし始める。
いつの間にか体中が返り血に染まっていた。
体力ももう限界に近かった。
とにかく行けるところまで行かなきゃ・・・
「ギィエ!」「ギィエ!」「ギィエ!」
神兵は次々と襲いかかってくる。
ブォン!
タヌは神兵の鷲掴みにしようとする手を躱すと、すっとその懐に入って跳び上がり、
ブスッ!
鳩尾に剣を突き刺した。
「ギィ・・・」
神兵は仰向けにゆっくりと倒れていく。
そのとき、
「パパン!」
という声が聞こえ、声の方に振り向くと、そこにバケじぃの姿と、その先に黒の爬神に頭を鷲掴みにされた霊兎の姿が見えた。
パパン!・・・
タヌは咄嗟に駆け出していた。
しかしその瞬間、
ブシャ!
パパンの頭部は黒の爬神の手によって握り潰されたのだった。
「このクソ爬神がぁ!」
バケじぃは怒りに体を震わせ、パパンを握りつぶした爬神、グラゴ・ド・グラゴに向かっていき、
「バケじぃ!」
タヌはバケじぃの元へ急いだ。