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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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一七七 激しさを増す戦闘


 ゴリキ・ド・ゴリキは目の前に現れる護衛隊隊士を手当たり次第に鷲掴みにしていった。


 ある隊士は頭部を食い千切られ、ある隊士は頭部を握り潰され、そしてある隊士は胴体を鷲掴みにされ、その骨を砕かれた。


 ボキッ!バキッバキッバキッ・・・


「うぎぁああああ!」


 ゴリキ・ド・ゴリキは神兵たちに叫んだ。


「霊兎の動きは素手で止めろ!」


 俊敏な霊兎の動きに合わせて剣を振り回しても霊兎を捉えることは難しい。


 さらに密集した空間では、思うように剣を振り回せもしない。


 霊兎の動きを止めるには素手がいい。


 ゴリキ・ド・ゴリキの指示は的確だった。


「素手で戦え!」


 その叫び声が神兵たちの間に広がっていくと、戦況は一変した。


 神兵たちは眉間、喉、鳩尾、そして後頭部の首の付け根を狙って攻撃をしかける護衛隊の太刀を避けることもなく、その繰り出された剣が急所に届く前に、手を伸ばしてその体を鷲掴みにしていった。


 そして、掴まえた隊士たちをいたぶるように殺してくのだった。


「ぎゃあああっ」


 バキッ、ボリボリ、ムシャムシャ・・・


 頭部を食らわれる隊士がいて、


「うぎゃああ!」


 ブシャッ!


 胴体を握り潰される隊士がいて、


「ぎぃあああ!」


 ブシュッ!


 腕や足を引き千切られる隊士がいた。


 広場のあちこちで隊士たちの断末魔の叫び声が上がった。


 次々に隊士は神兵に掴まった。


 隊士は逃れるために神兵の手を斬り落とそうと試みるが、爬神の皮膚は硬く、その手から逃れることは不可能だった。


 神兵は隊士の頭部を食らいながら戦った。


 真っ先に頭部を食らうのは、単純に霊兎の脳みそが好物だからということではなく、霊兎の脳みそは最も霊力が高い部位とみなされていて、それを食べることで、戦闘中にも拘わらずエネルギーの補給ができるというメリットがあるからだった。


 いたるところで隊士たちの頭部が千切られ、神兵の口に放り込まれていった。


 ボリボリ・・・


 骨の砕ける音とその食感が、神兵たちの食欲をそそる。


 爬神軍は護衛隊を圧倒していった。


 ミカルは神兵を斬り倒しながら、爬神軍の攻勢に危機感を持った。


 このままでは第二陣が投入される前に全滅しかねない・・・


 ミカルは爬神軍の圧倒的な力に恐怖を感じながらも、


「狼狽えるな!」


 そう声を張り上げ、怯む隊士たちを鼓舞し続けた。


 ミカルは跳び上がり、手を伸ばしてくる神兵の手首に向かって剣を振る。


 スパッ!


 ミカルの剣は神兵の厚い皮膚を深く斬り裂き、


「ギィァ!」


 神兵が痛みに仰け反った一瞬の隙をついてその背後に回ると、その後頭部の急所に剣を突き刺した。


 ブスッ!


「ギィアア!」


 神兵は悲鳴を上げながら前のめりに倒れ、動かなくなる。


「神兵の隙を突いて後頭部の急所を狙え!」


 ミカルはそう叫んだ。


 正面からの攻撃は三ヶ所ある急所を狙えるため、一見攻撃しやすく感じるが、素手で掴みに来る神兵に対しては、自ら掴まれに行くようなものだった。それに比べ、神兵を前に引きつけてからの後頭部への攻撃なら、隊士たちの俊敏な動きに神兵はついてこれないし、隊士たちがそう簡単に掴まれることもない。


「おお!」


 隊士たちは「後ろだ!」「後頭部の急所だ!」「正面に引きつけろ!」と口々に叫びながら神兵たちを前に引きつけ、後頭部の急所を狙って跳び上がる。


 ブスッ!ブスッ!ブスッ!


 隊士たちの剣が次々と神兵の後頭部に突き刺さっていく。


「ギア!」「ギィアア!」「ギィア!」


 隊士たちは劣勢を跳ね返すべく反撃を開始した。


 ここから戦闘はさらに激しさを増していった。


 蛮狼(ばんろう)族監視団との戦闘も激しいものだった。


 広場の東端に整列していたラルス率いるスペルス護衛隊と、西端に整列していたテサカ率いるドゴルラ護衛隊が監視団とぶつかっていた。


「ミズホ様、見守っていて下さい」


 スペルスの隊長ラルスは前隊長であるミズホの想いを背負って戦い、


「蛮狼ごときに負けるか!」


 ドゴルラの隊長テサカは鬼の形相で蛮兵(ばんぺい)たちを斬り捨てていく。


 霊兎族は長年〝狼人(ろうじん)に食べられることは地獄に落ちること〟と教え込まれて来たため、蛮兵はまさに地獄の番人であり、実際に霊兎族の人々はさんざん蛮兵にはいたぶられてきたこともあって、隊士たちの蛮兵に対する嫌悪感は凄まじいものがあった。


 ガシッ!ガシッ!ガシッ!


 剣と剣がぶつかる音が響き、


 バサッ、バサッ、バサッ!


 肉を裂く音に続いて、


「ぎゃあ」「うぎゃ」「ぎゃっ」


 蛮兵の悲鳴が上がる。


 蛮兵は隊士より体は大きいものの、爬神のように硬い皮膚を持っているわけではないので、隊士にとって倒すことが難しい相手ではなかった。


 敵味方入り乱れての戦いは、戦場に死体の山を築いていった。


 広場の至る所にラビッツの茜色のバンダナが見え、それぞれのメンバーは勇猛果敢に戦っていた。


「この野郎!」


 ブスッ!


 ギルが濃緑の爬神の後頭部に剣を突き刺すと、


「ギィアアアッ!」


 濃緑の爬神は悲鳴を上げながら前のめりに倒れ絶命した。


 その爬神の右手に握られていたデニトの体が地面に転がった。


 デニトは地面にぐったりと仰向けに倒れ、その胴体が歪んで見えた。


「デニト、大丈夫か!」


 ギルが声をかけるが、デニトは口から血を流してすでに絶命していた。


「デニト・・・」


 ギルは悔しさで顔を歪め、その胸に怒りが込み上げてくる。


「ギィエエエ!」


 背後に迫る神兵。


 その剣がギルめがけて振り下ろされる。


 ブォン!


「ちっ」


 ギルは横に跳んでそれを躱しながら、神兵の腕を狙って剣を繰り出す。


 バサッ!


 ギルの怒りを込めた一撃は、あの硬い皮膚で覆われた神兵の腕を斬り落とした。


「ギィアアア!」


 悲鳴を上げ仰け反る神兵の頭上にギルは跳び上がると、その眉間に剣を振り下ろした。


 スパッ!


「ギィ・・」


 神兵は眉間から血飛沫を上げ、仰向けに倒れ絶命した。


「すげぇ斬れ味だ・・・」


 ギルはナイの打った剣の斬れ味に驚きを隠せない。


「デニト、俺もすぐそっち行くからよ」


 デニトの亡骸にそう声をかけるギルの耳に、


「うわぁははは!」


 場違いにも感じる笑い声が聞こえてきた。


 ギルが辺りに目を向けると、


 ブスッ!バサッ!バサッ!


 そこに見事な身ごなしで神兵を斬り倒していくバケじぃの姿があった。


 バケじぃは目にも留まらぬ速さで神兵を斬っていく。


「ギィエ!」「ギエッ!」「ギイエッ」


 神兵は悲鳴を上げ、バタバタと倒れていった。


「すげぇな、じじぃ・・・」


 ギルは驚いて目を丸くする。


「ラドリアの戦士の血が騒ぐぞ!うわぁははは!」


 バケじぃは笑いながら神兵を斬っていく。


 バケじぃが使っている剣もナイが打った剣だ。


 ナイが想いを込めて打った剣は、神兵の硬い皮膚を物ともせず、その肉を裂き、骨を断ち斬った。


「負けてらんねえな」


 ギルはニヤリと笑うと、バケじぃに負けじと神兵に向かっていくのだった。


 広場全体で神兵、蛮兵、隊士、そしてラビッツの霊兎たちが入り乱れて戦闘を繰り広げた。


 その激しい戦闘の中、


 ボキッバキッ、ムシャムシャ・・・


 神兵が隊士を鷲掴みにして頭から食らっていると、


 ブスッ!


 後頭部に剣が刺さり、


「ギィアッ!」


 その神兵は目を見開いて地面に崩れ落ちるのだった。


 その倒れた神兵を仁王立ちに見下ろす茶髪の霊兎は、あのエラスだった。


 マーヤ、見ててね・・・


 エラスは心の中で呟くと、広場中央に向かった。


 広場中央付近にタヌはいるはずだ。


 タヌと一緒に戦って爬神族を滅ぼし、シールを救い出すこと。


 今のエラスにとって、それがマーヤのためにできる唯一のことだった。


 護衛隊は勇猛果敢に戦い、劣勢を盛り返し、広場での戦いを優勢に進めていた。


「むん!」


 ミカルは気合いを入れ、無我夢中で目の前の神兵を斬り倒していく。


 バサッ!ブスッ!


 皆が皆、必死だった。


 そのとき、


 ドドドド・・・・


 教会前広場の南、中央広場の方から地鳴りのような音が聞こえてくると、ラドリア市街地東西南の門外で待機していた神兵たちが現れ、広場に雪崩れ込んできたのだった。


 遂に来たか・・・


 ミカルは隊士たちが疲弊し始めた頃に現れた神兵六千に、心が(くじ)けそうになる。


 もともと儀式に参加していた神兵が三千だから、これからさらにその二倍の数を相手に戦わなければならないのだ。


 しかもこちらは疲弊していて、向こうには勢いがある。


 ここで諦めたら終わりだ・・・


「怯むな!ここが勝負所だ!」


 ミカルはそう叫んで隊士たちを鼓舞した。


 わぁああああ!わぁああああ!


 隊士たちの士気は衰えていない。


 バサッ!バサッ!ブスッ!


 隊士たちは必死に神兵を倒していく。


 イスタルのドゴレもひたすら隊士たちを奮い立たせていた。


「踏ん張れ!我々の意地をみせろ!」


 ドゴレはそう叫びながら神兵に向かっていく。


 そんなドゴレの姿に応え、


「おおー!」


 イスタル護衛隊は懸命に神兵に立ち向かっていくのだった。


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