一七六 グラン、パパン、キーナ
タヌの元から逃れたコグリ・ド・コグリは水を得た魚の如く、護衛隊隊士たちに襲いかかった。
「キィエエエ!」
ブォン!ブォン!ブォン!
爬神の持つ剣は大きく、
バサッ!バサッ!バサッ!
一太刀で三人をいっぺんに斬り裂くことなど簡単なことだった。
さらに黒の爬神は並の爬神ではなかった。
「黒の爬神を先に倒せ!」
「おお!」
護衛隊も黒の爬神に向かっていくが、
バサッ!バサッ!バサッ!
「ぎゃっ!」「ぐあっ!」「ぐふっ!」
まったく太刀打ちできなかった。
それどころか、コグリ・ド・コグリは斬り捨てた隊士の頭をもぎ取り、それをムシャムシャと食べながら、嬉々として剣を振るのだった。
そんなコグリ・ド・コグリの前に立ちはだかったのが、左腕に茜色のバンダナを巻くラビッツだった。
「グロいんだよ!」
キーナはそう叫びながら跳び上がり、コグリ・ド・コグリの頭上から剣を振り下ろした。
ガキンッ!
コグリ・ド・コグリはキーナに向かって剣を振り上げ、剣と剣とをぶつけた。
「きゃっ」
コグリ・ド・コグリの怪力でキーナの体は後方へ弾き飛ばされ、
ドンッ!
ラビッツの一人、パパンにぶつかって地面を転がった。
「キーナ、大丈夫か」
パパンはすかさず駆け寄り、コグリ・ド・コグリの攻撃を牽制しながらキーナを助け起こす。
「うん。大丈夫」
キーナはすぐに立ち上がり、コグリ・ド・コグリに向かって剣を構えた。
パパンもキーナの隣で剣を構える。
「二人で殺るぞ」
パパンがそう言うと、
「おいおい、俺もいるぞ」
と後ろから声がした。
振り向くと、そこにグランがいた。
「三人なら確実だろ」
グランはそう言って笑う。
「だね」
キーナはそう応えて笑い、
「ありがとよ、グラン」
パパンはそう言って喜んだ。
しかし、目の前にいるコグリ・ド・コグリという爬神は、そう簡単に倒せる相手ではない。
残虐な神兵に輪をかけて残虐にしたのが爬武官であり、その爬武官の中でも高位にあるのが黒の爬神なのだ。
「キーナ、気をつけろ」
パパンはそう声をかけ、
「うん」
キーナはコグリ・ド・コグリを睨みつける。
「俺とパパンで引きつけるから、トドメはお前が刺せ」
グランがそう言うと、
「いいの?」
キーナは驚き、そんなキーナに、
「ああ。お前にはヒーナがついてるだろ」
グランはそう言って笑うのだった。
「任せたぜ」
パパンもそう言って頼もしくキーナを見る。
二人の優しが嬉しかった。
「わかった」
キーナは覚悟を決め、剣を握る。
コグリ・ド・コグリは目の前で剣を構える三人の腕に巻かれた茜色のバンダナを見て、
こいつらか、護衛隊を焚き付けたのは・・・
三人が舞台上にいた霊兎だと気づき、ふつふつとした怒りを覚えるのだった。
「調子に乗りやがって」
コグリ・ド・コグリの目付きが鋭くなり、全身から殺気が立ち込める。
そこに、護衛隊の隊士が斬りかかった。
「うぉおお!」
突然横から現れた隊士を見てコグリ・ド・コグリは「ふん」と鼻で笑うと、
グワシッ!
その隊士の頭を鷲掴みにし、
「むん!」
その手に力を込め、
「ぎゃっ!」
ブシャ!
いとも簡単に握り潰したのだった。
コグリ・ド・コグリはニヤリと笑い、ぶら下がる隊士の体を振り落とすと、手についた頭部の肉片を舌で舐め取りながら、
「次はお前らだ」
そう言って卑しく笑うのだった。
ゾッとした。
だからこそ、怯んでいる場合ではなかった。
「まともに受けたら弾き飛ばされるだけだ。受け流すか、避けろ」
グランが二人に声をかけると、
「おうよ。隙を見つけたら一気に畳みかけるぞ」
パパンはそう応えてその目を輝かせ、
「わかった」
キーナはそう言って剣を握る手に力を込める。
少しでも気を抜いたら、そこで終わりだ。
その恐怖心との戦いでもあった。
そこから三対一の攻防が繰り広げられ、
ブォン!ブォン!ブォン!
ガンッ!ガシッ!ガシッ!
コグリ・ド・コグリの剣を三人は避け、受け流し続けたが、その勢いの凄まじさに、
「きゃっ」
キーナはつい横たわる死体に足を引っ掛け倒れてしまう。
しまった・・・
そこに、
「キィエエ!」
コグリ・ド・コグリが剣を振り下ろした。
ブォン!
「今だ」
グランとパパンは同時にコグリ・ド・コグリの背後に跳んだ。
「躱せ!」
の声に、キーナは咄嗟に横に転がり、
ガンッ!
コグリ・ド・コグリの剣は地面を打つ。
狙っていたのはそのタイミングだった。
「うぉおお!」
「死ねぇえ!」
パパンとグランは力を込めて剣を振り下ろし、
バサッ!バサッ!
「ギィアッ!」
コグリ・ド・コグリの背中と肩を斬ったのだった。
それは急所ではなかったが、コグリ・ド・コグリを逆上させるには十分だった。
「許さん!」
コグリ・ド・コグリが二人に振り向き、
「キィエエエエ!」
剣を振り上げたそのときだった。
「バカか、お前は」
コグリ・ド・コグリの頭上に跳び上がったキーナが冷静にそう言いながら、
グサッ!
その後頭部に剣を突き刺したのだった。
「ギィアアア!」
コグリ・ド・コグリは目を剥いて顔から地面に倒れ、絶命した。
「はぁ、はぁ・・・やった・・・」
キーナはコグリ・ド・コグリの後頭部から剣を抜きながら安堵の声を漏らし、そんなキーナに、
「よくやった」
パパンはねぎらいの言葉をかけ、
「油断するな、次行くぞ」
グランは発破をかける。
戦いはここからが本番だ。
「うん」
キーナはそう応えて手に握る剣を見つめ、
ヒーナ、一緒に世界を変えようね・・・
そう呟くのだった。
三人はそこで別れ、リーダーとして他のメンバーを鼓舞しに向かった。
広場では激しい戦闘が繰り広げられている。
「わぁあああああ!」
隊士たちの雄叫び。
ガキンッ!ガシッ!ガシッ!ガキンッ!
剣と剣のぶつかりあう音。
ブスッ!ブスッ!ブスッ!
隊士たちの剣が神兵の急所を斬り裂き、
「ギィアッ!」「ギァエッ!」「ギィアアッ!」
神兵は悲鳴を上げ倒れいく。
護衛隊は多くの犠牲者を出しながらも、優勢に戦いを進めていた。