一七五 激突
ガシャ!ガシャ!ガシャ!
剣と剣がぶつかる音が広場中に響き渡り、戦闘は始まった。
護衛隊の隊士たちは次々と神兵の急所を狙って跳び上がり、剣を繰り出す。
隊士たちのある者は舞台の下をくぐり、ある者は舞台の上を飛び越え、津波のように神兵に襲いかかった。
神兵は体格に劣る隊士たちの攻撃を剣をぶつけるようにして弾き飛ばした。
ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!
弾き飛ばされた隊士たちの背後から次々と隊士が飛び出し、
ブスッ!ブスッ!ブスッ!
神兵の鳩尾や喉を突き刺した。
「ギィアッ!」「ギァエッ!」「ギィアアッ!」
神兵が悲鳴を上げながらドサッドサッと倒れていく。
神兵は隊士たちの俊敏な動きについていけなかった。
「行けぇえええ!」
ミカルは隊士たちを鼓舞し、自ら先頭を切って神兵を斬り裂いていく。
スペルスのラルス、ミンスキのマイス、サットレのイオン、ボルデンのユラジ、イスタルのドゴレ、ナスラスのアミラ、ドゴルラのテサカ、それぞれが隊士たちを鼓舞し、自らが先頭に立って敵兵に向かっていった。
「ギィアッ!」「ギァエッ!」「ギィアアッ!」
神兵の悲鳴が広場に響き渡る。
奮い立つ隊士たちは最初の激突を優勢に進めた。
タヌ、ラウル、ギルの三人は舞台から飛び降りると、バケじぃの指示通り黒の爬神を倒しに向かった。ラビッツの霊兎たちもそれぞれバケじぃの指示通り、リーダーたちは濃緑の爬神に向かい、その他のメンバーは神兵に向かって突進するか、二人一組で濃緑の爬神に向かっていった。
「行くぜぇえええ!」
ギルは活き活きとして黒の爬神ナセル・ド・ナセルに向かって跳び上がると、
ビュンッ!
鋭く剣を振り下ろし、
「小癪な!」
ナセル・ド・ナセルはギルにぶつけるように下から剣を思いっきり振り上げた。
ガキーンッ!
二つの剣がぶつかり、ギルは後ろに飛ばされ、
ドンッ!
こちらに向かってくる隊士とぶつかり地面を転がった。
わぁあああああ!
ガキンッ!ガシッ!ガシッ!ガキンッ!
周りでは激しい戦闘が始まったばかりだ。
「ちっ」
ギルはすぐさま立ち上がり、そこにナセル・ド・ナセルが襲いかかる。
「キィエエエ!」
ブォン!ブォン!ブォン!
ナセル・ド・ナセルの繰り出す凄まじい太刀を、ギルは右に跳び、左に跳び、後ろに跳ぶなどして躱したが、
バサッ!バサッ!
「ぎゃっ!」「ぐあっ!」
ナセル・ド・ナセルの剣はギルを捉えることができなくても、その周りにいる隊士を斬っていくのだった。
ギルも爬神と戦うのがこれが初めてのことで、黒の爬神のその体の大きさに似合わぬ動きの速さに驚いていた。
舐めんなよ・・・
ギルは剣を構え、集中する。
「怖いか?」
ナセル・ド・ナセルはそう言ってニヤリと笑う。
「ビビってんのはお前だろ」
ギルがそう吐き捨てると、
「霊兎ごときが生意気な・・・」
ナセル・ド・ナセルは怒りに目を吊り上げ、
「キェエエエ!」
ギルに向かって剣を振り上げ突進した。
「来いよ、木偶の坊が」
ギルはそう言ってふーっと息を吐く。
「死ね!」
ナセル・ド・ナセルは勢いよく剣を振り下ろし、ギルはそれを素速く躱した。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
ナセル・ド・ナセルの剣は何度も地面を叩く。
「ぬぐぐ」
ギルの素速い動きにナセル・ド・ナセルは苛立ちを募らせるが、ギルはギルでナセル・ド・ナセルの凄まじい太刀を躱すので精一杯だった。
まともに受けた最初の一撃の衝撃がまだ残っていた。
こいつ、隙がねぇ・・・
ギルは集中をとぎらせることなく剣を構え、
「うすのろ、地面を耕しに来たのか?」
そう言ってナセル・ド・ナセルを挑発するのだった。
「この野郎ぉおおお!」
ナセル・ド・ナセルは逆上し、思いっきり剣を振り上げギルに向かった。
そこに隙があった。
「ふっ」
ギルはニヤリと笑う。
「キェエエエ!」
ナセル・ド・ナセルが剣を振り下ろす直前にギルはその懐に入ると、すぐさま跳び上がり鳩尾に向かって剣を突き出した。
グサッ!
剣はナセル・ド・ナセルの鳩尾深く突き刺さり、
「ギィアアアア!」
ナセル・ド・ナセルは剣を振り上げたまま仰向けに倒れたのだった。
絶命したナセル・ド・ナセルに向かって、
「相手が悪かったな」
ギルはそう言い、「ふーっ」と大きく息を吐く。
「ナセル・ド・ナセル様!」
「ナセル・ド・ナセル様が殺られたぞ!」
「あの霊兎を殺せ!」
周りから神兵の怒りの声が聞こえてくる。
「かかってこいよ!まとめて相手してやる!」
ギルはそう叫び、
「キィエエエ!」
襲い来る神兵に立ち向かうのだった。
ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!
こいつ・・・
黒の爬神ネイル・ド・ネイルは自らの剣にまともに剣をぶつけてくる銀色の霊兎に驚いていた。
「うぉおおお!」
ラウルは一点に力を集中させ、ネイル・ド・ネイルに剣をぶつけていく。
ガキンッ!
剣と剣が激しくぶつかり、
「ぐっ・・・」
押されているのはネイル・ド・ネイルの方だった。
だが、ラウルがネイル・ド・ネイルの急所を狙うには跳び上がるしかなく、宙に浮いたところに隙があった。
「キエェエエ!」
ネイル・ド・ネイルは着地する前のラウルに向かって剣を振る。
ブォン!
「くっ」
ラウルはそれに剣をぶつける。
ガキーンッ!
剣と剣がぶつかり、
「ぐっ・・・」
やはり押されたのはネイル・ド・ネイルの方だった。
気を一点に集中させ、斬る瞬間にそれを爆発させる。
それが父ハウルから教わった術だった。
「観念しな」
ラウルはそう言って剣を構える。
ネイル・ド・ネイルは高位爬武官である。
たかが霊兎一人にてこずることなどあってはならないことだった。
「調子に乗りやがって・・・」
ネイル・ド・ネイルは気づいていない。
目の前にいる霊兎こそ、あのラドリアの惨劇のハウルの息子だということを。
「キィエエエエ!」
ネイル・ド・ネイルは怒りに任せて剣を振る。
ブォン!
ラウルはそれを後ろに跳んで躱し、
ガンッ!
ネイル・ド・ネイルの剣が地面を打ったときにはすでにその頭上にいた。
「うぉおおお!」
ラウルはネイル・ド・ネイルの後頭部を狙って剣を下ろす。
グサッ!
ラウルの剣は後頭部の付け根に深く突き刺さり、
「ギィ・・・」
ネイル・ド・ネイルはうめき声を漏らし、前のめりに倒れ絶命したのだった。
「ふぅ」
ラウルは短く息を吐くと、辺りを見回し、次に向かう。
「わぁあああああ!」
ガキンッ!ガシッ!ガシッ!ガキンッ!
戦闘が始まるとすぐに、タヌは赤の爬神ゴリキ・ド・ゴリキを探したが、ゴリキ・ド・ゴリキは後ろの方にいて近づける状態ではなく、やむを得ず目の前にいる黒の爬神コグリ・ド・コグリを先に始末することにした。
コグリ・ド・コグリもタヌを狙っていて、両者は真っ向からぶつかることになる。
「セザル・ド・セザルの仇だ!」
ブォン!ブォン!ブォン!
コグリ・ド・コグリは怒りに任せて剣を振り、タヌはその剣をゆらゆらと躱していく。—意識を空間に溶け込ませ、気の流れに身を任せる。そこに自我があってはならない。自我のない空間として存在すれば、体が気の流れにそって勝手に動いてくれるのだ。
それが父ナイから教わった術の極意だった。
なんだ、こいつは・・・
コグリ・ド・コグリは自らの太刀が掠りもしないことに驚愕した。
そして、セザル・ド・セザルの惨状を思い出すのだった。
こいつはヤバい奴だ・・・
コグリ・ド・コグリの本能がそう言っていた。
タヌはじっとコグリ・ド・コグリの隙を窺っている。
一撃で仕留めるつもりだ。
コグリ・ド・コグリはこの得体のしれない霊兎に恐怖を覚え、
「こいつを殺せ、こいつを先に殺せ!」
周りにいる神兵にそう命じた。
「こいつを殺せ!」
「コグリ・ド・コグリ様の命令だ!」
「殺せ、セザル・ド・セザル様を殺した霊兎だぞ!」
「殺せ!」
神兵たちが血眼になってタヌに向かう。
コグリ・ド・コグリはその隙に別の場所へ移動を始め、
「逃げるな!」
タヌは叫び、その後を追おうとするが、
「キィエエエエ!」
「お前こそ逃さんぞ!」
「キィエエエエ!」
無数の神兵が押し寄せ、どうすることもできなかった。
「くっ」
ブォンッ!ブォンッ!ブォンッ!
タヌは神兵の繰り出す太刀を躱し、
バサッ!バサッ!ブスッ!
的確に急所を狙って倒していく。