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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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一六五 絶望


 建物の屋上から飛び降りたタヌは西側中央の入り口から広場に入り、背信者が並べられるはずの舞台の上を走ってマーヤの元へ急いだ。


 くそっ、何でもっと早く気づけなかったんだ・・・


 タヌは白髪の隊士がマーヤだとすぐに気づけなかった自分を責めていた。


 そのタヌの視線の先で、マーヤは黒の爬神の太刀をまともに受け、後ろに飛ばされ地面に叩きつけられていた。


 マーヤ、無茶だ・・・逃げてくれ・・・


 黒の爬神が仁王立ちでマーヤの前に立ちはだかる。


「マーヤ!」


 ギィアウォオー!


 ざわざわ・・・


 騒然とする広場。


 タヌの声はかき消される。


 ギィアウォオー!


 ブァサ、ブァサ・・・


 ドラゴンが生贄の柩に向かって降下を始めると、二人の神兵が生贄の柩をドラゴンに向かって掲げた。


 まずい・・・


 マーヤは黒の爬神に向かって剣を構え、その隙を窺っている。


 マーヤは自分の命にかえてもシールを渡さないつもりだ・・・


 マーヤのその想いに切なさが込み上げてくる。


 護衛隊の隊士たちは想定外の状況にパニックに陥っていて、為す術なくマーヤと黒の爬神の戦いを見ているだけだった。


 間に合ってくれ・・・


 タヌは広場中央に向かって必死に走る。


 マーヤが黒の爬神の横を擦り抜け、生贄の柩を掲げる神兵に斬りかかったそのとき、生贄の柩の近くに立っていた赤の爬神がマーヤを斬りつけた。


 あっ・・・


 タヌの目にあのときの光景が浮かぶ。


 あの爬神だ・・・


 マーヤを斬りつけた赤の爬神こそ、あのとき、ナイとハウルを惨殺した濃緑の爬神だった。


 あのときと同じだ・・・


 大切な人の命が奪われたあのときと同じ光景。


 マーヤを死なせるわけにはいかない・・・


 タヌは泣きそうな気持ちを堪え、マーヤの元へ急いだ。


 マーヤが生贄の柩を掲げる爬神にぶつかって地面に倒れるのが見えた。


「マーヤ!」


 タヌは叫ぶ。


 でも、その声は届かない。


 赤の爬神が倒れるマーヤを鷲掴みにして持ち上げた。


 ギィアウォオー!


 ドラゴンは咆哮し、


 グワシッ!


 生贄の柩をがっちり掴むと、


 ブァサ、ブァサ・・・


 広場に土煙を巻き起こしながら空高く舞い上がり、北西の空に飛び去っていった。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


 タヌの息が切れる。


 あと少しだ・・・


 マーヤはもう目の前だった。


 タヌはマーヤへの想いをぶつけるように、


「マーヤ!」


 腹の底から力を込めてその名を叫んだ。


 すると、マーヤは微かに目を開けタヌに振り向いた。


 タヌはマーヤと目が合ったような気がした。


 マーヤ、今行くから・・・・


 マーヤの目からぽろぽろ涙がこぼれ落ちるのがわかった。


 もう少しだから・・・


 マーヤは何かを呟くと、静かに目を閉じ、赤の爬神の手の中でぐったりとして動かなくなった。


 マーヤ、待って・・・


 タヌの胸は締め付けられ、悲しみで一杯になる。


 そんなタヌの視線の先で赤の爬神はマーヤの頭を右手で鷲掴みにした。


「やめろぉおおおおおお!」


 タヌは心の限り叫んだ。


 そんなタヌを嘲笑うかのように、


 ブシュッ!


 赤の爬神はマーヤの頭部をその体から引き千切ったのだった。


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