一五二 爬神軍九千
ラドリアから北西に数キロ手前の草原で、爬神軍九千は野営のテントを張っていた。
そのテントの一つが会議用のテントで、ステラ・ゴ・ステラはゴリキ・ド・ゴリキを呼び、明日の爬神軍の行動についての説明を受けていた。
ステラ・ゴ・ステラは椅子に座り、その前にゴリキ・ド・ゴリキが立っていて、ゴリキ・ド・ゴリキの後ろに、セザル・ド・セザル、ギラス・ド・ギラス、グラゴ・ド・グラゴ、ガギラ・ド・ガギラ、四人の高位爬武官が横並びに立っている。さらにその後ろに四人、高位爬武官た立っているのだった。
当初、服従の儀式には八人いる高位爬武官のうちの四人が参加予定だったが、
—ゴリキ・ド・ゴリキ様、なぜ服従の儀式という晴れの舞台に我々四人は参加できないのでしょうか。参加する四人と参加できない我々四人との違いはなんでしょうか。
リザド・シ・リザドでの待機を命ぜられた四人からそんな不満の声があがったとき、ゴリキ・ド・ゴリキはそれに答えることができず、そのことを相談したミザイ・ゴ・ミザイから、
ーならば、全員を儀式に参加させるがよい。
という助言があり、高位爬武官全員を服従の儀式に参加させることになったのだった。
ナセル・ド・ナセル、コグリ・ド・コグリ、ネイル・ド・ネイル、マウラ・ド・マウラ。
それが後に参加を許された四人の高位爬武官の名前である。
「明日の儀式においては混乱が予想されるため、ドラゴンが上空に現れた時点で、ステラ・ゴ・ステラ様には儀式から離れていただきます。我々の乗る軍馬はラドリアの西門外に繋ぎ留めておきますが、ステラ・ゴ・ステラ様の乗る馬車だけは、教会前広場の南口でいつでも走り去れるように待機させておきます」
ゴリキ・ド・ゴリキがそう説明すると、
「うむ」
ステラ・ゴ・ステラは満足げに頷き、
「ステラ・ゴ・ステラ様が離れ次第、我々は虐殺を開始します」
ゴリキ・ド・ゴリキはそう告げ、その目を鋭く光らせる。
その目に映るのは、公開処刑以上に残酷な光景に違いない。
「うむ。生贄さえ手に入れることができれば、服従の儀式に意味はない。私の使命も終わる。後はお前たちの好きなように、兎人どもに真の恐怖を味わわせるが良い。霊兎族すべての都市から集まってくる統治兎神官、護衛隊隊長らをみせしめに殺せば、まさに服従の儀式に相応しく、霊兎族は永遠に我々に服従することになるだろう」
ステラ・ゴ・ステラはそう言って卑しく笑う。
「はい。それは間違いないことでしょう。私の後ろに並ぶ八人の爬武官は、その残虐さにおいて我が爬神軍の中でも抜きん出た存在になります。この者たちに任せれば、兎人どもは必然的に地獄を見ることになるでしょう。霊兎族に、永遠という時間をかけても拭えないほどの恐怖を与えるつもりです」
ゴリキ・ド・ゴリキは真顔でそう応え、その最後に、ステラ・ゴ・ステラに冷たく笑ってみせるのだった。