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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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一四五 派遣部隊


 セントラルへの出発を三日後に控え、各部隊が準備に忙しくしている中、トノジは部隊長たちを治安部隊隊舎にある会議室に集めた。


 トノジの前には第一部隊キタロ・ススキから第十五部隊セジ・ジベイまでが横一列に並び、その中には第十二部隊隊長のサスケの姿もあった。


 そして、トノジの横にはアジが背筋を伸ばして立っているのだった。


 居並ぶ隊長たちにトノジは訓示を垂れる。


「サムイコク各地から治安部隊が集結し、タケル様を指揮官とし、アジをその補佐役として、サムイコク遠征隊が編成される。我が西地区からは、第十部隊から第十五部隊までの六部隊が参加する」


 トノジはそう告げ、当該部隊長一人ひとりに視線を送った。


 セントラルへ向かう六部隊、第十部隊から第十五部隊の隊長は次のようになる。


 第一〇部隊 隊長 ジロウ・サカミ


 第一一部隊 隊長 シノブ・ウエタ


 第一二部隊 隊長 サスケ


 第一三部隊 隊長 オサム・ミキノ


 第一四部隊 隊長 タケ・フコシ


 第一五部隊 隊長 セジ・ジベイ


 サスケだけはスラム街出身の為、名字がない。


 それだけに、サスケが部隊長に任命されたのは異例の抜擢だったということが窺える。それは、身分の低いサスケがどれだけ治安部隊の中で人望を集め、その(すぐ)れた能力が認められているかを証明するものでもあった。


 トノジは横に立つアジを横目に一瞥してから告げた。


「第十五部隊の隊長はセジであるが、セジはアジの留守を守るため、ウオチに残ることになった。よって、第十五部隊は、アジの指揮下に入ることになる」


 トノジがそう言ってセジを見ると、セジは野心的な笑みを返し、それを承知して頭を下げた。


 トノジは言葉を続ける。


「霊兎族の都市ラドリアで行われる服従の儀式の結果は、すぐに、ウオチ側の検問所に伝えられることになっている。その結果については、セントラルで報告を待つタケル様の元へ早馬を飛ばして知らせるが、どんな状況にも対応できるよう、準備だけはしっかりしておくように」


 トノジがそう注意を与えると、当該部隊長たちは真顔で静かに頷いた。


 トノジはそれに満足し、続いてウオチに残る部隊に指示を出した。


「西地区に残る部隊は、イスタルで起こる不測の事態に備えよ」


 トノジはそう告げると、最後に、


「セジ、お前はアジに代わって私の補佐を務め、遠征に参加しない部隊全体をまとめよ」


 と、セジに命じた。


 セジは背筋を伸ばし、


「はい。何が起こっても対処できるように備えておきます」


 緊張感のある声でそう応え、誇らしげに胸を張る。


「私からは以上だ。各部隊、それぞれに準備を進めよ」


 トノジがそう締め括ると、各部隊長たちはそれぞれの部隊に戻っていった。


 いつもなら、アジはトノジと共にそこに残るのだが、このときはアジに代わってセジが残り、アジはセジが率いる第十五部隊の処へ向かった。


 その途中、サスケはアジと肩を並べて歩いた。


 二人に会話はなく、空気もどこなく重い。


 サスケはアジの気持ちを推し量り、アジはそんなサスケの気持ちを推し量って黙っていた


 しばらくして、サスケが口を開いた。


「アジ、いいのか」


 サスケが尋ねると、


「なにが?」


 アジは惚けた顔で聞き返した。


「俺は、セジではなく、お前が残るべきだと思う」


 サスケは真顔でそう言う。


「なんで?」


 アジはその言い分が理解できないといった風に首を傾げる。


 サスケはアジのその反応に戸惑い、


「お前がジベイ家の跡取りだからだ」


 と、取り繕ったような理由を告げた。


 本当のところ、サスケが気にしたのはクミコの存在だった。


 サスケはアジとクミコの縁談のことは知らない。でも、二人が結ばれることを心から願っている。


 二人には幸せな未来が待っていると思うからだ。


 だからクミコのために、そしてアジ自身のために、アジにはウオチに残ってほしかった。


 それがサスケの本当の気持ちだった。


「関係ないだろ」


 アジはあっさりと応え、サスケの言い分に耳を貸さない。


「そっかな・・・」


 サスケはそう呟き、哀しげな眼差しでアジを見る。


 アジは何も気にしていないように振る舞っているが、サスケにはアジの胸の内の複雑な想いが感じられるのだった。


 そんなサスケの眼差しにアジは気づくと、


「ジベイ家の跡取りなんて、どうでもいいことだよ」


 と淡々と告げ、


「タケルには俺たちが必要だろ」


 そう言ってサスケの腰をパンッと叩く。


 その軽い口調とは裏腹に、アジから感じるのは強い覚悟だった。


「ああ」


 サスケはそう相槌を打って頷いた。いや、頷くことしかできなかった。


 アジはサスケが頷くのを見て、


「なら、何も言うな」


 そう真顔で告げ、それから、いつもの笑顔で笑った。


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