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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
137/367

一三六 なぜ


 バンッ!


 ドアが勢いよく開くと、マーヤが泣きながら入ってきた。


「ダレロ様、どうしてお姉ちゃんが生贄なんですか!」


 ダレロは突然ドアが大きな音を立てて開いたことと、マーヤの剣幕に驚いて目を丸くした。


「ダレロ様、何でですか!」


 マーヤは怒鳴り、


 バンッ!


 泣きながらダレロの机を叩いた。


 ダレロはそんなマーヤを見て、背筋を伸ばして椅子に座り直す。


「どういうことですか!」


 迫るマーヤ。


 ダレロは「ふぅーっ」と息を吐き、自分の気持ちを落ち着けてから、


「マーヤ、落ち着け」


 と、穏やかに声をかけた。


 そのダレロの温かな声に、


「なんでお姉ちゃんが・・・」


 マーヤはそう言って涙をぽろぽろ流した。


 いつも明るく元気なマーヤの、そんな痛々しい姿を見るのはダレロにとっても辛いことだった。


「お前の気持ちはよくわかる。しかし、こればかりはどうにもならないんだ」


 ダレロは何もしてやれない自分を苦しく思う。


「どうして、どうして・・・」


 マーヤはシールが生贄としてドラゴンに捧げられるなんて、どうしても受け入れられなかった。


「私もコンクリ様に訊いたんだ。なぜシールなんだって、神官じゃだめなのかって」


 ダレロは自分もマーヤと同じ気持ちだということを、わかってもらいたいと思う。


 マーヤはダレロの目を睨むように見て、


「コンクリ様はなんてお答えになられたんですか!」


 と問い詰めた。


 マーヤの言葉には怒りの感情が込められていて、ダレロはそれを真っ直ぐに受け止める。


 それくらいしか自分にできることはないからだ。


 ダレロはマーヤの目をしっかりと見、その理由を説明した。


「シールには生まれ持った高い霊力が備わっていて、高位兎神官が身につけている霊力でさえ、それには遠く及ばないそうだ。だから、シールが選ばれたんだ」


 ダレロが苦渋の表情でそれを伝えると、


「そんな・・・」


 マーヤは崩れ落ち、床にペタッとお尻をつけて座り込んだ。


「うっうっ・・・」


 マーヤは俯いて嗚咽の声を漏らす。


「力になれなくてすまない」


 ダレロは力なくそう言い、悲しくマーヤを見つめるだけだった。


 今まで当たり前のように一緒にいたシールを突然失ったことの喪失感。


 どうしようもない気持ち。


「お姉ちゃーん、死んじゃ嫌だよぉー」


 マーヤはまるで子供のように声を上げて泣きはじめた。


「なんでお姉ちゃんなの、なんでよ・・・うっ、うう・・・」


 ダレロは立ち上がってマーヤの傍に行くと、片膝をついてしゃがみ込み、マーヤの肩に優しく手を置いた。


「マーヤ、お前の気持ちはわかる。私も辛いんだよ」


 ダレロはそう言って目頭を押さえるのだった。


 


 


「なんでシールなんだろうね」


 エラスがそう声を漏らす。


 トマスはそれに返事をしない。


 二人は部屋のベッドの上で横になって、天井を見つめていた。


 二人のベッドは隣同士だ。


 まだ外は明るいし昼寝をするつもりもない。


 ただ、何もしたくなくて部屋にこもっている。


「マーヤが心配だ」


 エラスはそう言ってトマスを見る。


 トマスからは返事がない。


 トマスは仰向けに横になって、目を閉じていた。


「トマス、寝てるの?」


 エラスがそう声をかけると、トマスの目尻から涙がつーっとこぼれ落ちた。


 やっぱり、トマスも辛いんだ・・・


 そう思うと、エラスも辛くなる。


 シールが生贄になるなんて、エラスにはまだ信じられない気持ちだった。


 どうにかならないか。


 そう考えても、何もいい案なんて思い浮かばない。


 こういう時に力になれないなんて・・・


 エラスは自分の無力さが悔しくてしょうがなかった。


「トマス、僕にできることがあれば、なんでもするからね」


 エラスはそう声をかけ、また天井を見つめた。


「あるよ」


 突然トマスの声がして、エラスは驚いた。


「え、なに?」


 エラスは寝返りを打つようにして体をトマスに向ける。


 トマスは目を開けていて、ぼーっと天井を見つめていた。


 そして、ゆっくりとエラスに顔を向けると、ポツリと言った。


「マーヤを止めよ・・・」


 トマスは無表情にそう告げると、天井に顔を向け、それから目を閉じた。


「どういうこと?」


 エラスは驚いて聞き返した。


 エラスは身を乗り出してトマスの返事を待ったが、トマスは何も応えなかった。


 しばらく待つと、トマスから寝息が聞こえ始めた。


「どういうこと?」


 エラスは独り言のように呟くと、ベッドに仰向けになって眉間に皺を寄せ天井を睨むのだった。


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