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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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一二七 儀式について


「ああ、服従の儀式のことか」


 タヌはあっさりと儀式の名前を告げた。


 タケル、アジ、サスケ、セジの四人は、何の警戒もしないタヌに驚いた。


「服従の儀式?」


 タケルは拍子抜けした顔で聞き返した。


「うん。俺たち霊兎族が爬神族に服従を誓う儀式なんだ」


 タヌは平然と答え、それから服従の儀式について説明した。


 タケルはその無防備な態度に、タヌが自分たちに対して心を許していることを改めて実感し、それを嬉しく感じると同時に、感謝の気持ちで一杯になるのだった。


 服従の儀式についての説明を聞き終わると、


「兎人の手で兎人を斬るのか。しかもその斬った者の肉を儀式の中で爬神様に捧げるなんて・・・」


 タケルはその場面を想像して顔をしかめるのだった。


「そう。だからこそ、それは俺たち霊兎族にとって屈辱の儀式なんだ。儀式の中で人が殺されるのも服従の儀式だけだし、まして殺した背信者の肉を自らの手で捌いて爬神に捧げるなんて・・・そんなおぞましい儀式を行おうとしているんだ」


 タヌはそう言いながら、吐き気を覚えるほどの憤りを感じていた。


 その眼差しはさっきまでの柔和なものとは違い怒りに満ちたものだった。


「そうなんだ」


 タケルも厳しい表情で相槌を打つ。


 それが霊兎族にとって屈辱的な儀式だということは、その内容を聞いた者なら誰でもわかることだった。


「それにドラゴンに捧げる生贄は、高位にある兎神官(としんかん)の誰かじゃないかって言われてるんだ。その生贄の持つ霊力は、ドラゴンに永遠の力を与えるらしい。本当かどうかは半信半疑だけど、服従の儀式では、それだけ霊力の高い霊兎が生贄にされるのは間違いない。だからどっちかって言うと、爬神にとってはその生贄の方が大切なのかも知れない」


 そこまで語ると、タヌは真剣な眼差しのまま、ふーっと大きく息を吐いた。


 タヌは思い詰めた眼差しで宙を睨む。


 タケルはじっとタヌの言葉を待つ。


 タヌは覚悟を決めた眼差しでタケルを見、アジを見、サスケを見て、


「だからこそ、絶対に、その生贄を爬神に渡してはいけないんだ」


 そう決意を語った。


 タヌの隣で、ラウルは意味深な眼差しでタケルら四人を見て、口元に笑みを浮かべた。


 やっぱりそうか。


 なんとなくそうだとは思っていたけれど、


「と、いうことは・・・」


 サスケは顔を強張らせ、


「まさか・・・」


 アジは緊張し、


「やるのか」


 タケルは眼光鋭くタヌにその意志を確認した。


 こいつらは何をやろうとしているんだ?・・・


 セジはキョトンとした顔で、その様子を眺めていた。


「うん」


 タヌは真顔の力強い眼差しでタケルに頷いた。


 その眼差しに、タケルは全身が痺れるような得体の知れない感覚に包まれる。


「聞かせてくれないか」


 タケルは鬼気迫る表情でタヌに迫った。


 タヌはラウルを見る


 ラウルはタヌに頷く。


 タヌはふっと息を吐き、肩の力を抜いてから、静かな口調でこれからのことを伝えた。


「服従の儀式当日の正午、霊兎族すべての都市で護衛隊が立ち上がり、蛮狼族監視団を襲撃することになってるんだ」


 タヌのその言葉に、タケルの胸は震えた。


 アジとサスケも感動してそれを聞いていた。


 それこそまさに、三人が求めていたものだった。


 アジの横で、セジは腰を抜かすほど驚いていた。


 目を見開きただ唖然としていた。


「やるんだな」


 タケルはタヌに念を押して確認する。


「ああ」


 タヌは迷いなく頷いてみせる。


「すげぇ・・・」


 アジは思わずそう声を漏らしていた。


「いよいよか・・・」


 サスケは握った両手の拳に力を込めた。


 タヌは言葉を続ける。


「そしてラビッツはラドリアにおいて、服従の儀式に参加している護衛隊と共に、そこにいる爬神軍、蛮狼族監視団を殲滅する」


 そこまで言うと、タヌは大きく息を吸い、鋭く厳しい目つきで宙を睨み、タケル、アジ、サスケ、セジの四人に告げた。


「そして、リザド・シ・リザドへ向かう」


 その覚悟を決めた声の迫力に、四人は圧倒された。


 リザド・シ・リザドへ向かう・・・


 それをタヌの口から聞いて、タケルは改めてラビッツがやろうとしていることは、途轍もないことだと思い知らされるのだった。


 タヌ、ラウル、ギルの三人は爬神族を滅ぼすつもりだ。


 世界を変えるとはそういうことなのだ。


 改めてそのことを実感させられると、タケルはあまりにもスケールの大きな話に、


「そっか・・・」


 と声を漏らすだけだった。


 以前、


—蛮兵を殺し続けた先に何があるのか。


 タケルが尋ねたとき、


—もちろん、この世界を変えることに決まってる。


 タヌは迷わずそう答えた。


 その言葉に感動し、


—俺はお前たちと共に戦いたい。


 そう応えたタケルではあったが、今、ここにいる自分はあまりにも無力だった。


 だがあのとき、共闘を願うタケルに、


—なら、きっかけを見逃さず、そのときが来たら、サムイコクを動かすんだ。


 タヌはそう言ったのだ。


 ラドリアで行われる儀式はまさにその〝きっかけ〟となる出来事に違いない。


 さらに、タヌはこうも言った。


—そして、サムイコクだけじゃなく、賢烏(けんう)族全体を動かしてくれ。


 と。


 どうやって・・・


 タケルは宙を睨む。


 そんなタケルの背中を押すように、


「俺たちはドラゴンを倒し、爬神族を滅ぼす」


 タヌは力強く宣言した。


 その言葉を聞いて、(ひらめ)くものがあった。


「ドラゴンを倒す・・・」


 タケルはそこにヒントがあるような気がした。


 もし、ラビッツにドラゴンを倒すことができるというのなら、そこに自らの進むべき道が拓けるような気がした。


「ドラゴンさえ倒せば、爬神族から力は失われる」


 タヌがそう言うと、


「そうだな」


 タケルに異論はなかった。


 しかし、自分が一歩踏み出す前に、一つ確かめておきたいことがあった。


「確認したいことがあるんだけど、ドラゴンを倒し、爬神族を滅ぼしたら、世界は混沌としてしまうんじゃないか。そうなったら今よりひどい状況になってしまうんじゃないか。俺はそう考えることがあるんだけど、お前は気にしないのか」


 タケルは率直にその懸念を伝えた。


 今、世界は爬神族の力によって、ある意味安定していると言っていい。しかし、その安定が崩れたとしたら、賢烏族の国々では色々な動きが出てくるだろうし、霊兎族だってバラバラにならないとも限らない。


 それはタケルが元老家の人間であるがゆえの懸念だった。


 タケルのその懸念を聞いて、タヌは〝なるほど〟といった風に頷いた。


 そして、自らの考えを伝えた。


「それ以外に今の世界を変える方法がないとしたら、何も恐れず、それをやるしかないと思うんだ。その先に来るのが混沌なのか、幸せな世界なのか、それを決めるのは自分たち自身だと思う」


 タヌは迷いのない眼差しできっぱりと答えた。


 タヌの堂々とした態度、その揺るぎない姿に、タケルは胸を打たれた。


 そして、タケルはタヌのその覚悟に納得して頷いた。


「そうだな。俺もそう思う」


 タケルが同意すると、


「タケル、俺たちも立ち上がろう」


 サスケが声を上げた。


「俺もラビッツと一緒に戦いたい」


 アジもそう熱く訴えた。


 そんなアジを見て、セジは呆気に取られる。


 ジベイ家の人間として、いっときの感情に流されて物事を判断してはならないはずだ。常に冷静な目で物事を見極め、正しい判断を下し、元老を補佐しなければならないというのに、あろうことか、アジはタケルを(そそのか)しているのだ。


「無茶だ」


 セジはそう呟いた。


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