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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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一一六 反撃


「うぉおおおおお!」


 ギルは跳び上がると、アクに向けて怒りの一撃を振り下ろした。


 ガギーンッ!


「ぐぐぐっ・・・」


 アクはその太刀を全力で受け止める。


「往生際が悪いぜ」


 ギルはそう言ってアクを笑い、二人は剣をぶつけたままま睨み合う。


 その殺気と殺気のぶつかり合いに、取り囲む親衛隊の隊士たちは固唾を呑んで見守るしかなかった。


「ラビッツ!逃がさんぞ!」


 そこに蛮兵が数十名、なだれ込むように駆けつけると、親衛隊をどかして二人の周りを取り囲んだ。


「終わりだな」


 アクはぶつけた剣と剣の間からギルにそう声をかけると、ニヤリと笑い、ギルを突き飛ばすようにして後ろに跳び退いた。


 それから、少し遅れてやって来たサウォに向かって、


「こいつは監視団が好きにしていい」


 そう言ってギルを差し出したのだった。


「逃げるのか!」


 ギルが怒鳴ると、


「逃げるも何も、お前は蛮狼(ばんろう)の餌がお似合いだ」


 アクはギルを鼻で笑う。


「アク様、ラビッツは生け捕りにするはずでは」


 隊士の一人が慌ててアクに声をかけると、


「ラビッツが生け捕りにできないことは、さっきの女でもわかっただろ」


 アクはそう吐き捨て、ヒーナの亡骸に向かって顎をしゃくってみせた。


 ギルは改めて剣を構え、取り囲む蛮兵の数を数える。


 ざっと数えて、四十ってとこか。


 四、五人、いや、六、七人くらいならどうってことないんだがな・・・


 ギルは苦々しく蛮兵たちを睨みつける。


 すでにアクとの戦いで体力は奪われている。


 いくらギルでもこれだけの数の蛮兵を相手にすることは不可能だ。


 ならば・・・


 ギルは狙いをアクに定める。


「お手並み拝見だな」


 アクがギルを見下したように笑うと、


「はぁ、はぁ、俺は、お前を、殺せれば、それでいい・・・」


 ギルはそう言ってニヤリと笑った。


「なんだと!」


 アクがそう言い返す前に、ギルはアクに向かって突進していた。


 そのギルの動きに、サウォは慌てて号令をかける。


「ラビッツを斬れ!」


 蛮兵たちが一斉にギルに襲いかかる。


 ギルは蛮兵に構わず、


「うぉおおお!」


 全身全霊の一撃をアクに振り下ろした。


 ガギーンッ!


 アクは驚いてギルの太刀を受け止めると、後ろに仰け反りながらギルの腹を蹴った。


 ドスッ!


「ぐぁっ」


 ギルはそれをまともに受けて後ろに飛ばされ、


 ドンッ!


 仰向けに地面に叩きつけられる。


 うぐっ・・・


 すぐには起き上がれないギルに蛮兵たちが襲いかかる。


「今だ、斬れ!」


「殺せ!」


 蛮兵たちのその声を聞きながら、


 まだだ、まだ・・・


 ギルは歯を食いしばって立ち上がろとする。


 そのとき、


「おお!」


 群衆からどよめきの声が上がった。


 バサッ!バサッ!バサッ!


 肉を斬り裂く音がした。


 それから、


「うぎゃ」「ぐぁ」「うがっ」


 ギルに向かって剣を振り上げていた蛮兵たちが悲鳴を上げ、血飛沫を上げながら次々と倒れた。


 そしてギルを庇うように、二人の霊兎が蛮兵たちの前に立ちはだかったのだった。


 赤褐色の霊兎と銀色の霊兎。


 そこにタヌとラウルの姿があった。


 二人の姿を見て、ギルは何とも言えないほっとしたような顔をした。


「ラビッツ参上!・・・なんてね」


 タヌはそう言って口元に笑みを浮かべた。


「ギル、本番はこれからだぜ」


 ラウルがそう声をかけると、ギルは歯を食いしばって立ち上がり、


「遅いぜ、お前ら」


 そう言ってニヤリと笑い、剣を構えた。


 目の前に現れた二人に、


 やっと現れやがったか・・・


 アクの目の色が変わる。


「ラビッツを斬れ!」


 サウォがすかさず号令をかける。


 蛮兵たちが一斉に三人に向かって斬りかかると、タヌ、ラウル、ギルの三人は、三方に散るように蛮兵たちに突っ込んでいった。


 バサッ、バサッ、バサッ!


 タヌは蛮兵たちの間をただ駆け抜けたようにしか見えないのに、蛮兵たちは「ぎゃ」っと悲鳴を上げバタバタと倒れた。


 それはまさに信じられない光景だった。


 ラウルもまた蛮兵たちの間を力みのない動きで縫うように移動する。


 ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!


 繰り出される蛮兵たちの剣を躱し、躱す流れでバサッ、バサッ、バサッと斬り殺していった。


 その鮮やかな剣さばきに、それを見ていた群衆は息を呑む。


 ガシッ!ガシッ!ガシッ!


 ギルは稲妻のような激しさで蛮兵の太刀を弾き返し、


 バサッ!バサッ!バサッ!


 怒りをぶつけるように一刀両断にしていった。


 アクは目の前の光景を驚きの眼差しで眺めていた。


 親衛隊の隊士たちは皆、この三人の凄まじい姿を唖然とした表情で見ていて、


「これが、ラビッツか・・・」


 そう口々に言って、タヌ、ラウル、ギルの姿に胸を熱くしているのだった。


 そんな隊士たちの前で、蛮兵たちは為す術なく斬り捨てられていった。


 ドサッ!ドサッ!ドサッ!


 気づいたら、蛮兵で立っているのは隊長のサウォだけだった。


「なっ、なっ、なっ」


 あまりの出来事にサウォは言葉を失う。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・あんたも、やるかい?」


 肩で息をするギルは、不敵な笑みを浮かべサウォに声をかけた。


「親衛隊は何をしているのだ!なんとかしろ!」


 サウォはアクにそう叫び、その場から逃げるように去っていった。


 アクはその声に我に返り、


「親衛隊はこの三人を逃がしてはならん!」


 と隊士たちに怒鳴った。


 隊士たちは剣を構え、三人を取り囲む。


 タヌ、ラウル、ギルの三人は、背中合わせに剣を構え、親衛隊と対峙した。


 隊士たちは同じ霊兎であり、さらに精鋭ということもあって戦いにくい相手だ。


 しかも、ラビッツには〝兎人を殺してはならない〟という掟がある。


「ラウル、俺が相手になってやる!」


 アクはそう叫んだ。


 ラウルだけはこの手で、今、この場で殺してやる・・・


 それはアクの執念だった。


「うん?」


 ラウルは突然自分の名を叫ばれ、黒緑色の大男をまじまじと見て驚いた。


 アク!・・・


 ギルを救うことに気を取られていたラウルは、アクの存在に気づいていなかった。


 アクはラウルを憎しみの眼差しで睨みつける。


 やっと会えたな・・・


 激しい憎しみの感情がアクの心の中で渦を巻く。


「お前はここで死ね」


 アクがドスの利いた声で言うと、


「返り討ちにしてやる」


 ラウルはそう応え、アクの前に一歩出る。


 ラウルにとっても、アクは借りを返さなければならない相手だった。


「私が号令をかけるまでは誰も動いてはならない!ただし、こいつらが逃げようとしたら、迷わず斬り捨てよ!」


 アクは親衛隊にそう命令を下した。


「ラウル、相手にしちゃだめだ」


 タヌが声をかける。


 ラウルはタヌに振り返ると、目で何かを語って微笑んだ。


 そっか、そういうことか・・・


 タヌはその微笑みの理由に納得して頷いた。


 ラウルはアクと真っ直ぐに向き合い、剣を構える。


 アクはラウルを威圧するような大きな動きで剣を構えた。


 タヌとギルは周りの親衛隊の動きに気を配る。


 ラウルは呼吸を整え、気を集中させながら、アクを中心とした円を描くようにして、左回りにじりじりと動き、アクの背後に逃走経路を探した。


 ラウルのその動きに合わせ、タヌとギルの二人もラウルの背後の位置を守って左に動く。


「ラウル、どうした、怖いのか」


 アクは自分を怖れて間を詰めきれないラウルをバカにした。


 しかしそう言うアクも、隙の見えないラウルとの間を詰めきれないでいるのだった。


「ふっ」


 ラウルは片頬に笑みを浮かべ、アクを睨みつける。


 そして、その動きがピタリと止まる。


 タヌはギルに目で合図を送る。


 ラウルはすーっと大きく息を吸い、剣を握り直した。


 その場の緊張が高まっていく。


 音はしているはずなのに、そこには静寂があった。


 アクは殺気立った笑みを浮かべ、ラウルを待ち構える。


 ラウルはアクの動きを見据え、小声でカウントダウンを始めた。


「さん、にぃ、いち」


 そして、


「行くぞ!」


 と叫び、勢いよくアクにぶつかって行った。


 ビュンッ!


 ラウルはアクの構える剣に向かって思いっきり剣を振り下ろす。


 ガキンッ!


 アクはラウルの剣を受け止め、


「ぐぐっ」


 その一撃の激しさに仰け反ってしまう。


「ぬぉおおっ!」


 そこにラウルは次々と太刀を繰り出した。


 ガキッ!ガキッ!ガキッ!


 ラウルはあえてアクの剣にぶつけるように太刀を繰り出し、それを受けるアクは後ろにずるずると後退(あとずさ)りした。


「くそっ」


 アクはなんとか踏ん張ろうとするが、ラウルの打撃の重さとギルとの戦いの疲れから、どうにも踏ん張ることができなかった。


「くらえぇえええ!」


 ラウルは気合いを込めた最後の一撃をアクに食らわせた。


 ガキィーンッ!


 ラウルのその一撃を受け止めたアクの体は後ろに吹っ飛んだ。


「ぐぅあああ!」


 取り囲む親衛隊の輪を突き破るように、アクは背中から地面に叩きつけられ、仰向けに倒れたのだった。


 アクの倒れた場所に逃げ道が生まれた。


 ラウルはすぐに剣を鞘に収めると、仰向けに倒れるアクに飛びかかって馬乗りになり、アクの目を見て一言、


「借りを返させてもらうぜ」


 そう吐き捨てると、右腕を振り上げ、アクの顔面めがけて思いっきり拳を振り下ろした。


 ガンッ!


 アクの顔面に強烈な一撃が浴びせられ、アクはその衝撃で頭が真っ白になる。


「ぐうっ・・・」


 アクは呻き声を漏らし気絶した。


「ラウル、逃げるぞ!」


 後ろから走ってきた二人が勢いよくラウルの横を()り抜け、広場から飛び出し街中へ消えていくと、ラウルもそれを追って街中へと消えていった。


 隊士たちはあっという間の出来事にただ呆然とし、身動き一つできなかった・・・ように見えた。


 しかしよく見ると、隊士たちはあえて動こうとせず、思いのこもった眼差しで、去りゆく三人の後ろ姿を見つめていたのだった。


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