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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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一〇一 何としてもこの手で


 親衛隊がイスタルへ来て二ヶ月が経った頃、ラドリアから使者が遣わされ、服従の儀式にまつわる日程が決まったことが知らされた。


 すべての都市の統治兎神官および護衛隊隊長は必ず出席すること、各都市は背信者を百名提供すること、などが併せて厳命されたのだった。


 神殿の謁見の間で、使者から直接報告を聞いたコンドラは、


「一ヶ月後とは、急だな」


 難しい顔で使者に不満を言い、口をへの字に曲げた。


 謁見の間にはドゴレとアクがいて、一緒に報告を聞いていた。


 ドゴレは使者からの報告に、ついにこの時が来たかと思い、身が引き締まる思いがした。


「コンクリ様から親衛隊に対し、至急ラドリアへ戻るよう命令が出ています。ラビッツを生け捕りにすることは諦めて構わないとのことです」


 使者が親衛隊への命令を伝えると、


「ちっ」


 アクは苦々しい顔で舌打ちをした。


 二ヶ月経ってもラビッツの尻尾すらつかめていなかった。


 コンドラは苛立ち、


「ラビッツはまだ現れないのか」


 と、アクに尋ねる。


 コンドラにとって、そもそも爬神軍による住民虐殺は興味のないことだった。


 それよりも、ラビッツの暗躍によって自らの悪事がリザド・シ・リザドに知られることの方がよっぽど恐ろしいことだった。ゆえに、ラビッツを壊滅させることの方が重要なのだ。


 このままラビッツをのさばらせたまま、アクをラドリアへ帰らせてはならない。


 コンドラの頭の中にあるのはそれだけだった。


「広場にて監視団が罪人を処刑しているのですが、ラビッツが現れる気配はありません」


 アクは苦々しい顔でそう報告した。


 アクとしても、何をやってもラビッツが現れないことに、怒りと焦りを感じていた。


 ラビッツにバカにされているようでもあり、何よりタヌとラウルの二人にバカにされているようで、アクの腸は煮えくり返っていた。


 報告するアクの苦々しい顔を、ドゴレは冷ややかに見ていた。


 ドゴレは密かにラビッツと連絡を取り合っている。


 どんな手を打とうが、ラビッツが現れることはない。無駄(むだ)なことはやめてさっさとラドリアへ帰るがいい・・・


 ドゴレは心の中でそう吐き捨てる。


 コンドラはアクの報告に不愉快な表情を浮かべ、


「親衛隊については七日の猶予をお願いする」


 と使者に告げた。


 使者にそのことを許可する権限はない。


「わかりました。そのようにお伝えします」


 使者は淡々とそう答えるだけだったが、


「うむ」


 コンドラはふんぞり返って頷き、


「それでは、親衛隊をラドリアへ返すのは七日後ということで」


 と決定し、使者を帰したのだった。


 使者が帰ると、


「七日あるということですね。この七日間は激しくやることにしましょう。ラビッツの名が血で染まるくらいに・・・それでもラビッツが現れなければ、泣き叫ぶ人間を見殺しにしたラビッツに、反感を持つ住民も出てくるでしょう。そうなれば、ラビッツに行き場はなくなります。現在行っている処刑においても、その兆候は表れています」


 アクはそう言って嫌らしい笑みを浮かべ、それを聞いたコンドラの顔が明るくなる。


「なるほど。すぐにラビッツを壊滅させることはできなくても、そうやってじわりじわりと追い込むのも悪くない、ということだな。さすがだ、アク。ラドリアへ帰る前に、思う存分やってくれ」


 コンドラはそう命じると、片頬を吊り上げ卑しく笑い、


「実際に手を下すのは監視団ですが」


 アクはそう応えてニヤリと笑う。


 ドゴレはそのやりとりに吐き気を覚え、激しい怒りが込み上げてくるのをなんとか押し殺しているのだった。


 俯き、怒りを堪えるドゴレを(さげす)むように見て、


「アクがラドリアへ帰った後は、ラビッツの壊滅はお前の使命だということを忘れるな」


 コンドラはそう吐き捨て、


「とっとと下がれ、目障りだ」


 と、乱暴にドゴレを下がらせたのだった。


 邪魔者のいなくなった室内。


「アクよ、この七日間でなんとしてもラビッツを追い込むのだ。サウォ殿と協力し、見ている者が震え上がる程の処刑を行うのだ」


 コンドラはそう命じ、


「ドゴレは信用ならんからな」


 と、ドゴレに対する嫌悪感を露わにした。


 正直なところ、アクにとってラビッツなんてどうでもいい存在だった。


 アクの目に映るのは、タヌとラウルの二人だけだったからだ。


 アクはその二人を殺すことしか考えていなかった。


 特にラウルは自分の手で殺さなければならない存在だった。


 そのために、何としてもラビッツをおびき出さなければならないのだ。


 だからこそ、あの二人が後になって助けなかったことを後悔するほどの残虐な処刑を、監視団に実行してもらうのだ。


 アクは激しく渦巻く憎しみの感情をその目に湛え、宙を睨みつける。


 アクから放たれるその殺気、その凄みにコンドラは圧倒され、背筋にゾクゾクと寒気が走るのを感じるのだった。


「できる限りのことは致します」


 アクはそう約束して退室した。


 謁見の間に残されたコンドラは、しばらく椅子から立ち上がることができなかった。


 恐ろしい男だ・・・


 コンドラはアクを頼もしく思った。


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