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53.風に揺れて

「永劫の地、焼けた大地に芽吹く母なる花、その根を外敵に絡め生命を糧に華麗に咲け緑魔法【人喰い花(ラフレシア)】」



 クライフの足元で植物の蔓が身体を伝いその身体を拘束する。さらに蔦越しに生命力を吸い取り紅い花を咲かす。



人喰い花(ラフレシア)は吸い取った生命力で花を咲かせます。そしてその花が生み出す花粉には状態異常を起こす能力が備わっています。いくらあなたと言えど少しは応えるんじゃないですか?」



 黄色い花粉にまみれたクライフが空でもだえるがすぐにその身体を漆黒の闇の靄が覆う。そこから放たれる閃光が一体を覆う。



すると辺りに散布した花粉は瞬く間に霧散し、代わりに閃光の一撃でルナの身体に無数の目玉が現れる。


 

目玉の開眼と同時に全身に激痛が走る。



痛みに顔を歪ませながら浄化魔法を発動させなんとかその身を回復させるが、気力、体力ともに限界が近いことはわかりきっていた。



 それでもルナが必死にクライフに喰らいつく理由。



「絶対に、絶対に私はソラさんを守ります」



 たった一人の大切な人を守りたいという想いの力。ただそれだけだ。気持ちが肉体を超える。



 それは真実だった。現に今こうしてクライフに喰らいついている。



 しかしそれでも限界は存在する。ほんの一瞬、ほんの一瞬の出来事だった。ルナの身体に浄化しきれなかった目玉が与えた痛み。気力で耐えていた身体がほんのわずかに震え、硬直する。



 そこに現れた小さな隙。それをクライフは見逃さなかった。逆にいえばその些細な変化に気づくほどにルナの存在を意識し、厄介な敵と認識していたということでもある。



 クライフが硬直したルナに向かって鋭い鉤爪を打ち下ろす。その一撃を避けようと藻掻き足掻くがリアクションの遅れた身体は完全に回避することはできず右手に深い裂傷を負わす。



 力のなくなった右手は握力を無くしクライフの足元からその手を離す。さらに巻き付けていた大樹をも切り裂かれたことによって自身を支える物はなくなり、遥か上空からその細い身体が落下しだす。



 必死に魔法を紡ぎクライフに根を伸ばし支えにしようとするがその全てを叩き落とされやがてその姿は魔法の射程圏外となった。



 そして自身の身体と大地の距離が縮まっていく。それは言い換えれっば生と死の距離だ。




――――ごめんなさい。ソラさん。私約束果たせませんでした。




 その瞳から大粒の涙を流し、瞼を閉じ最後にそう心の中で呟いた。



「【俊足】」



 一陣の風が吹いた。



 何かに当たった感覚はあった。でもそれは間違いなく固い地面ではなくもっと柔らかくて優しい何かに包み込まれる感覚。



 いつまでたっても訪れない痛み。不思議に思いそっと瞼を開ける。すると優しい空色が風に靡いて揺れていた。



「おそくなってしまってすいません。それと涙を流させてしまってごめんなさい。もう僕はルナさんを悲しますことはしません」



 世界で一番大好きな人がそこにはいた。


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