最終話
「はい。勤めを果たします」
「僕も、勇者代理として頑張ります」
「聖女様の身代わりになれるなんて光栄です」
子供たちがにこりと笑う。
誇りのある使命。何が待つのか、今ナイフを当てられることへの恐怖よりも、その先の世界を救うための使命に満足している顔だ。
自分たちにしかできない。それが辛さを伴うとしても。世界のためにと。
「僕たちは、親に捨てられたんじゃなくて、神様に選ばれたんでしょう?」
子供の言葉に、院長がふわりと優しく抱きしめる。
「ええ、そうですよ。あなた方のようにいい子を捨てる親なんていません。神様があなたたちを選んでここへ連れてきたんですよ」
親に捨てられたんじゃない。
神様に選ばれたんだ……か。
そんなはずがあるわけがない。神様が、わざわざ鬼のいけにえを選ぶわけがない。けれど……けれど、この子たちの心を傷つけるような言葉なんて出せるわけもない。
「さぁ、腕を出して。神様に血をささげましょう」
院長先生の言葉に、少年が腕を差し出す。
「だめっ!」
ナイフが少年の腕に当てられる。
鮮血が傷口から飛び出す。
真っ赤な血。
まだまだ細くて折れそうな腕から、赤い血が。
「飛んでけっ!」
人殺しのあの牢屋の男たちの元に飛んでけっ。
少年の傷口からの出血が止まる。
「傷が少し浅かったかしら?」
院長が再び少年の腕にナイフを当てようとする。今度は、傷つけられる前に院長の腕をつかんで止めることができた。
「離しなさい」
院長の服をつかんで少年の血をぬぐう。
「傷が消えた?」
「私が、助ける……」
助けられるかどうか何てわからない。
わからないけど……。
もう、何もしないなんて無理だよ。父さん、ねぇ、もしかしたら自分が何とかしてあげられたかもしれないってそんな後悔したことがあるの?
わざわざほかに医者がいないところへ移り住んだのは、自分が何とかしてあげたいと思ったから?
「先生ありがとう、ありがとう」
「先生が来てくれたおかげで助かったよ。先生がいなきゃとっくに死んでた」
「先生もちゃんと体を大事にしておくれよ、先生がいなくなったら困るからねぇ」
「先生、これ食べて。うちで取れた野菜だよ。一番おいしいところ持ってきたで」
「先生」
「先生」
……そうだ。
そうだ……。
いやならあの村から逃げ出すことだってできた。
いやなら、私のように何もかも放棄して城から逃げ出すことだってできた。
でも、父はしなかった。死ぬまで村にいた。
それが、答えなのかな。父さん……。
◆
「聖女の代理なんていりません、院長……私が……聖女が……いるんですから」
反逆の聖女だ。
聖女じゃない。
だから、どこまでできるのかわからない。でも、でも。
「え?」
院長先生が驚いた顔をして私を見る。
「力が及ばないかもしれませんが、私が、鬼退治に行きます。ですから、どうか……この子たちのことは……孤児院で大人になるまで、面倒をみてあげてください」
院長先生が泣いている。ぎゅうっと抱きしめた。
「聖女さ……ま……」
「あなたも、神に選ばれたのです。院長……辛い役割を、耐えて耐えて……子供たちのために、この世界のために……ありがとうございます」
上から目線で何様だって、そう思うけれど、でも。言わずにはいられなかった。
院長先生は、どれほどこのシステムの秘密を抱えて苦しんでいたのか。
……鬼がいるせいで。
鬼が、退治されないせいで……。
聖女もどきの私だけど。勇者と賢者はいると言っていた。賢者は知恵を授ける人だろう。私でも鬼退治に役立つ方法を考えてくれるかもしれない。
会いに行こう。まずは、賢者に。
リュートさんが賢者の居場所を知っているから、まずはリュートさんの帰りを待ってから、賢者の元に連れて行ってもらおう。
孤児院を出ると、王都の扉をくぐってこちらに向かってくる人影た2つあった。
「ヨリコっ!」
「リュートさん、戻ってきたんですね。ちょうど、リュートさんにお願いがあって!」
後ろにいる人物に視線を移す。
「そちらの人は?」
「賢者だ」
賢者!
「直接足を運んで水車を作ったほうがいいと、来てくれた……だが……」
リュートさんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「すまん、頼子……俺は、賢者と行く」
「行く?どこへ?」
リュートさんが小さく首を振った。
「心の底から守りたいものができた。頼子……ヨリトを頼む。頼まれてくれ……」
心の底から守りたい?ヨリトを?
「守りたいなら、どうして行くの?ヨリトを、なぜ連れて行かないの?」
リュートさんが腕を伸ばした。
手の平には何もなかったはずなのに、一瞬にして剣が現れた。
剣じゃない。日本刀のような形をしている。刀……と呼んだ方がいいかもしれない。
「鬼を唯一切ることができる鬼切刀だ……。勇者でありながら、俺は今までこれを出すことができなかった」
鬼切刀?勇者?
「守りたいと強く思ったことで……出すことができた。鬼から、ヨリトを……そして、頼子を守りたい。だから、行く」
刀を出せない勇者……か。そうなんだ。
勇者として召喚されながら、勇者としての役割を果たせなかったリュートさん。
「待って!勇者と賢者と聖女の3人が揃わないと鬼を退治できないんでしょう?」
リュートさんがふっと笑う。
「聖女の召喚には失敗したらしい。30年は待っていられないし……完全に退治できなくても数を減らすくらいならできるだろう。鬼の力をそげば、しばらくは」
完全に、死を覚悟した男の顔してる。
リュートさん。
「死んでもお前たちは俺が守るって、かっこ悪いですよ、ねぇ」
リュートさんに抱き着く。
「は?あ、いや……そうだな、そんなこと言っておいて守れなかったらかっこ悪いよな」
ぶんぶんと首を横に振る。
「違います。死んだらダメなんです。死んでしまったら意味がないんです。死なずに守らないとダメですっ」
あははと、リュートさんの小さな声が聞こえる。
「賢者さんはどう思います?勝てると思います?」
ちょうど亡くなった父と同じくらいの初老の男性。
眉間のしわよりも、目じりの笑い皺が濃い。優しい人だと、それで思った。
「鬼切刀が出せない勇者と、私の二人ではむつかしかっただろうが、鬼切刀が出せる勇者と私の二人であれば……可能性が全くないわけではないと思う」
だけれど、可能性は低いと言いたいのだろう。
「じゃあ、そこに……回復魔法も治癒魔法も使えない、中途半端な反逆の聖女が加わったら?」
賢者さんが何もかも理解した顔で私を見る。
「反逆の聖女?」
リュートさんが賢者に視線を向ける。
「日本に、帰れるかもしれませんね」
ん?
「3人であれば、鬼を倒して日本に帰れるかもしれない……」
え?まさか、倒せば日本に戻れるっていう……こと?あ、あれ?私、むしろ、日本に帰る遠回りをしようとしてた?
「さ、3人って?え?俺と、え?頼子……もしかして」
「リュートさんが勇者だったなんてね。……帰れなかったら、ヨリトは勇者と聖女に育てられた子供ってことになるのかなあ」
くすくすと笑う。
「頼子が、聖女……」
「残念ながら、ステータスは反逆の聖女です」
でも……。
聖女に課せられた鬼退治の使命を果たすために動こうと思う。
私の意思とは関係なく召喚されたけど。
あの王たちには腹が立つけれど。
私にしかできないことがあって、誰かを笑顔にできて、誰かを幸せにできて……。
それが、私も幸せなんだから。ねぇ、聖女になってみるのも悪くないかもしれない。
最後までお付き合いありがとうございました!
まさかの、そういう話でした。
聖女になんかならないっ!→聖女になる
っていうのと、父が亡くなったトラウマ克服みたいな。
……(´・ω・`)こ、こんな話になるはずじゃぁ、そもそも、色々情報もらったために、布おむつメインの話になってる気がする。
面白エピソード入れたくなっちゃうんだもん……。
というわけで、情報を下さった皆様と一緒に書き上げた作品です。
本編はこれで終了ですが、ヨリコとリュートの育児はまだまだ続きます。面白エピソードお待ちしております。
……しかし、赤ちゃんの病気って大人には耐えられないとか聞くけど、本当なのかな?おたふくとかも大人になってからかかるとすごく大変とか……。
頼子さん、ヨリトが苦しんでたら「とんでけー!」って大人に向けると大変なことになるんじゃ……
賢者「鬼に向けて病気を飛ばしたらどうだ?」
鬼「うががががぁぁぁっ……」パタリ
頼子「おおお!」
賢者「これは!」
リュート「えっと、とどめを刺したほうがいいよね?」
ちゃんちゃん。
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