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「あの、でも僕ばかりいただくのは……と、カップがなかったんですよね……」
白ちゃんがきょろきょろとあたりを見回す。見回してもないでしょう。
「あ、そうだ。お水よ出てこい」
え?
白ちゃんの指先が少し青白く光ったと思うと、水が出てきた。
何、それ……。
カップの中に水を灌ぐと、回すようにカップをゆすいで水を捨てた。いや、水が消えた。
「はい。これできれいになりましたので、どうぞ使ってください」
と、ニコニコと私にカップを差し出す白ちゃん。いや、待って、ニコニコというのは幻影なんだけど、相変わらず白いマスクで顔見えないので……声の調子で勝手にそう判断したんだけど、って、それはそうとして……。
「ま、魔法?」
魔法って、ああ……。この魔法陣っぽいものは、本物の魔法陣?
それから……聖女聖女言われてたけれど……これは、いわゆる「異世界から聖女を召喚」的な……。ファンタジー小説でよくある、アレ……?
嘘でしょう?
嘘だよね?
あー、えっと、……。
そう、とりあえず、落ち着こう。うん、落ち着くには……。
白ちゃんの差し出したカップを受け取り、コーヒーを注ぐ。
ふわりと立ち上るコーヒーの香ばしい香り。
少しだけ冷めてしまったコーヒーは飲み頃で。
香りを鼻から楽しんでから、ごくりと喉を潤す。
「はー、やっぱり美味しい」
うちのブレンド最高!コーヒーの淹れ方も絶品。こんな素晴らしいコーヒーを、得体のしれないものとか言ったAとB、許すまじ。
「えーっと、聖女様、ご説明をさせていただきたいのですが……。まずは、えっと……何を説明すればいいんでしょうか?」
私の正面にぺたりと座っている白ちゃんが首を傾げた。
うーん。いかにも怪しいカルト宗教っぽい白装束なんだけど、こういう仕草はかわいいんで、なんだか「ゆるキャラ」に見えてきた。
……。
「ねぇ、なんでそんな恰好してるの?」
ふと、疑問に思ったことを尋ねる。
「あ、えっと、僕は白魔導士なんで。えーっと、白魔導士って分かります?」
白魔導士?
どんどんファンタジーになってきましたよ。驚く代わりに、コーヒーを一口。ゴクリ。
「あーっと、魔法とかがない世界にいたので、全然分かりません」
「あっと、魔法が使える人は、この世界でも少数派で、えーっと、100人に一人くらいなんですが、その中でも強い魔法が使える人間は魔導士という位になります」
ふーん。ってことは、もしかして白ちゃん、こう見えてエリートなわけ?
「水、光、木、風などの魔法を使う者は白魔導士で、闇、呪い、毒などの魔法を使うものが黒魔導士です」
うわっ。黒魔導士なんてのもいるんだ。しかも、呪いとか……カルト教団っぽさが増してる。




