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 この場にいる騎士たちの腕に同じような傷が全員にできただろう。

「あー、慰謝料に関しては、年収2年分くらいの金額になると思う。いろいろ交通事故にあって保険の請求をする人の相談もされたから……そんなに遠い数字じゃないと思う。で、もう重たくて持てないから、そのうち取りに来ると思う。じゃ。3年と待たずにさっさと日本に帰してくれることを期待してるから」

 ……上司に逆らえなくて、仕方なく……という話とすれば、慰謝料をしでかした本人に請求するのはおかしいだろうというのもわかってる。

 だけど、命じられれば人殺しもするっていうのには納得できない。躊躇して動かなかった……本来は命令されればすぐに動くべきなんだろうけど、泣き叫んでる生後間もない赤ちゃんを殺すなんて、命じられて「はい分かりました」と実行する方が私には信じられない。

 いくら命じられたからと言って「できません」と一度は抵抗してみせたっていいと思う。

 そのうえで「やらねばお前を殺す」と言われたら……まぁ、何ていうか……。苦渋の選択……って、騎士みんなで団結すれば抵抗できそうだけどね。

 王の間を出て、ずんずんと廊下を歩く。

 ……ずんずん。

 って、出口どこ。

 くるりと振り返る。さっきから、誰かにつけられてる気がしたんだ。

「出口まで案内してくれる?そのあとは、ついてこないでくれる?」

 私の後ろをついてきたのは、白装束の人だった。カルト集団的なやつ。

 すっぽり体を白装束で覆って、頭には先がとんがった三角のマスクをかぶって目元だけ穴が開いているだけの姿なのに個性がある。

 いや、違うか。黒装束の人間はあまり個性が見られなかったけれど、白装束の……今後ろをちょこちょこついてきたのだけは、個性的だ。

 あ、慌てて裾踏んでつんのめった。

 そう、この世界の呼び出されたときにも、この白装束だけは際立ってたよなぁ……と、思い出す。

 仕事中召喚された。

 カフェ店長30歳吉田頼子、それが私。

 右手にコーヒーサーバーを持ち、左手にコーヒーカップ。

「お待たせいたしました」

 乗せるべきカップソーサーもテーブルもなかったので、仕方なくそのままコーヒーを注いだカップを差し出す。

 目の前には3人の白装束の人間。

 いきなりなんだ?

 私、どうしちゃったんだろう?

 パニックに陥る時って、人間、とりあえず今やってたことの続きをしちゃうものなんだなぁと、つくづく思った。

 そう、とりあえずコーヒーを客に出すという……。

 3人のうち、二人は両膝をついて頭を下げた。

「ようこそ、聖女様」

 と、言っている。

 で、右側にいた白装束だけが、手を出した。

「はい、ありがとうございます」

 と、私の差し出したカップを受け取ったのだ。

「な、なにをしている、早く跪け!」

「勝手なことをするな!」

 と、他の白装束二人が慌てて小声で右側の白装束に話しかけていた。

「いい香りですね」

 と、右側の白装束……って、めんどくさいな。なんか白ちゃんとでも呼ぼう。あとの二人は白装束Aと白装束B。

「サイフォンで独自ブレンドのコーヒー豆を使って丁寧に入れていますから」

 褒められればうれしい。

「うちは、酸味も苦みも少ないコーヒーですので、砂糖やミルクを入れなくても飲めるという人も多いのですが……好みでミルクや砂糖を入れてください」

 と、制服のエプロンのポケットからミルクと砂糖を取り出す。

「あ、スプーンがないですね……」

 石造りの部屋。

 テーブルの一つもなく、あるのは床にこれでもかと並べられたろうそくのみ。

 ろうそくは、なんだか映画で見た「魔法陣」みたいな形に並べられているようにも見える。

 そして、その中央に私が立っていて、目の前には謎の白装束のあやしい人が3人。

 ……どう考えてもやばい。

 店じゃない場所に突然移動するということも信じがたいけれど……。まだいれたてのコーヒーは冷めてないし、一瞬の出来事だということは、間違いないのだろう。

 ……瞬間移動?魔法陣みたいなものが本物だとすると、転移魔法みたいな?

 現実的でない出来事にどうしていいのかわからない自分がいる。でも、手にはコーヒーサーバーがあり、それがなんとか現実とつながっているような気がして少しだけ落ち着くのも事実。というか、目の前に見えている現実から逃避して、コーヒーに逃げているという話でもある……。

「あ、スプーンですか、すぐに持ってきます。あの、兄さんたちのカップもあったほうがいいですよね」

 と、白ちゃんが動こうとしたのを、白装束AとBが思わず立ち上がって静止する。


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