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軍隊の結成

兄:ヨリ(主人公)

妹:ハヅキ

親友:タケシ

親友の妹:チエちゃん

 軍隊を作る――


 タケシのアイデアは、素直にいいと感じた。

 一人で孤独に戦うよりも、俺の“力”を上手く使って、大勢で、効率的に妹へ反撃した方が大きな成果を得られるだろう。

 いや、絶対に得られる。

 だから俺はすぐに賛成した。


「いいぜ、タケシ。軍隊を作ろう」


 そうとなれば、まずは人集めだ。

 しかし、あまり苦労しなかった。

 あの日以来、妹の仕業でスマホはメールも通話もできなくなってしまっていたが、武器を探すために強制インストールされたスマホアプリ〈W-E〉に記された場所に行けば必ず誰かいるし、必ずと言っていいほど、そこにいる人は切羽詰っていた。

 そんな奴ほど、俺たちに賛同し、入隊してくれた。

 生きるためなら藁にもすがりたく、希望という可能性があるなら、それにかけるしかないからだ。

 でも、中には難色を示す者もいる。

 そういう奴ほどサバイバル能力があり、頭もよく、こちらとしては是非入隊してもらいたい人材なのだが、俺の持っている“力”のことなんて全く信用してくれない。

 まあ、そりゃそうだ、

 初めて会う人間から、いきなり、


 俺は軍隊を作ったんだ。それに入隊してくれないか?

 しかも俺には特別な“力”があるんだ。

 え? どんな“力”だって? 

 それはスゲー“力”だよ!

 なんだって〈レオ〉も〈ガルディア〉も俺の前じゃビビって動かなくなるんだぜ。

 しかも弱点までご丁寧に教えてくれるんだ。

 その間にみんなで協力して、じゃんじゃん敵を仕留めるってわけだよ。

 チート使った爽快無双みたいなもんだよ。

 どうだ? イカしてんだろ?


 な~んて勧誘したところで、首を縦に振る奴なんて、普通はいない。

(実際は交渉役となったタケシが上手く話してくれるんだが)

 それでも入隊してくれる奴は、さっきも言った通り切羽詰ってる奴ばっかで、生きるための力も知性もある奴は俺の“力”なんて信用しない。

 当たり前だ。

 だから俺は、信じてくれない奴に俺の“力”のデモンストレーションをして、それを信じてもらうしかない。

 そうすれば一発だ。

 こういうのって、百閒は一見にしかず、って言うんだっけ?

 とにかく、聞いても納得できないなら、見てもらうしかない。

 それの繰り返し。

 それしかない。

(デモンストレーションの動画をタケシに撮ってもらって、それを見せたりもしたが、どうせトリックだろ?と疑われただけだったしな)


 そんな地道な勧誘活動を続ける傍ら、討伐活動も続けていた。

 そしてタケシは、画期的な方法を編み出した。

 それは、夜狙うことだ。

 俺の“力”が発動している最中、〈レオ〉や〈ガルディア〉たちは赤い光によって弱点を曝す。

 つまり夜になればその弱点が際立つわけで、誰でも弱点が狙いやすくなる。

 銃などの飛び道具は必要ない。

 あっても討伐時には使用しない。

 暗闇の中で発砲すれば、同士討ちが懸念される。

 だから崩壊した灰ビルとかに転がっているような鉄の棒で行った。

 そうやって夜、日が沈めば、俺たちは赤い光めがけて棒を振り回し、〈レオ〉や〈ガルディア〉の弱点を叩き割る。

 もっとも安全で簡単な討伐方法だ。

 あのチエちゃんが、楽しそうに討伐に参加できるくらいに。


 /


 そして月日が経ち、気が付けば俺の軍隊はそれなりに大きくなっていた。

 軍隊の結成を決意して3ヵ月くらい経った日のこと。

 俺の軍隊は、300人を超えるまでになっていた。

 これまでに討伐した〈レオ〉や〈ガルディア〉の数は1,500体くらい。

 一日に15~20体のペースってところだ。

 十分なペースとは言えない。

 このペースを維持できたとしても、〈レオ〉や〈ガルディア〉を全滅させるだけでも5,000年以上かかる。

 しかも敵は〈レオ〉や〈ガルディア〉だけじゃない。

 その他にもいろんな軍事兵器が俺たちを狙ってるんだ。

 だから俺の軍隊は、もっと規模を大きくしなければならない。

 そしてより効率的に、より大量に討伐していかなければならない。

 だが、軍隊の規模が大きくなればなるほど、統制が取れなくなってくる。

 俺は特別な“力”によって人々に希望をもたらし、一個中隊規模の軍隊を作り上げることができた。

 軍隊は秩序だ。

 混沌と絶望しかない世界で生まれた、数少ない奇跡。

 しかしその奇跡も、組織の規模が大きくなればなるほど、完璧に機能しなくなる。

 通話やメールが使えなくなっているとは言え、口コミや風の噂で俺は徐々に英雄視されるようになってきていた。

 でも、なったばかりの英雄に、一個中隊規模の組織を完璧に統制できるだけの求心力はない。

 しかも軍隊といっても、つい3ヵ月くらい前までは一般人として生活していた人々の集まりだ。

 中には、軍隊は安全だからと、子どもや女もたくさん受け入れてきた。

 だから移動して戦い続けるよりも、定住して暮らしたいと言う連中もたくさんいる。

 そんな名ばかりの軍隊は、規模が拡大するに従って(ほころ)びが生じ始めていた。


 喧嘩や盗難も、頻繁に起こるようになった。


 〈W-E〉のマップにマーキングされている箇所には、ドローンが定期的に循環し、武器や食料、スマホのバッテリーといったサバイバルに必要なものを補充しているのが確認できている。

 俺たちはその場所を「補給所」と呼んでいる。

 しかし300人規模で行動していると、「補給所」1箇所だけでは物資が十分に補給できない。

 だから計画的に、定期的に「補給所」に立ち寄らなければならない。

「補給所」に立ち寄ったとしても、先に荒らされている場合もあり、空回りで終わることも少なくない。

 そういう状況だから、俺たちの軍隊に物資が、特に水と食料が潤沢にあるわけじゃない。

 むしろ足りないくらいだ。

 それが秩序の(ほころ)びを大きくさせている要因になっている。

 イザコザは毎日起きる。

 その度に俺は「止めろ!」と怒鳴って仲裁に入るのだが、全員が言うことを聞くわけじゃない。

 俺に反発する者だっている。

 そんな奴には、俺はこう言うしかない。


「だったら、今すぐ出てけ!」


 そして実際に軍隊から出ていってしまった者もいる。

 そいつが今、生きているのか、死んでいるのか、俺にはわからない。


 真の英雄が過酷な状況で、どんな行動をとって、どんな言葉を人々に投げかけていたかなんてわからない。

 歴史の資料をひっくり返せばわかるかも知れないが、今はそんなものなんてないし、スマホで検索することもできないんだ。

 だから俺は、偶然手に入れたこの“力”を振りかざし、英雄を気取るしかない。

 でもそんな脆い英雄の日々は、これ以上続かなかった。

 いずれ自然消滅してしまうんじゃないか、という予感は、確かにあった。

 でもまさか、こんな形で終わるとは、思ってもいなかった。


 ――きっかけは、〈妹ラジオ〉だった。


 久しぶりにスマホのビデオ通話アプリが起動し、そこに妹が現れる。

 そして妹は、こんなことを言った。


『皆さん。調子はどうですか? 立派に戦ってますか? それとも死んじゃってますか? とにかく、皆さんが頑張ってくれているおかげで普段辛口な“ユーザーさんたち”も、概ね満足いただいてます。ありがとうございます。

 その調子で、皆さんどんどん戦ってください!

 あ、そうそう。そう言えばここでひとつ、ご報告があります。

 この中で一人、私がチートを使って最強になっている人がいます。

 それはズバリ、この人です!』


 妹の台詞に、俺の胸がゾワリとする。

 それからスマホの画面が切り替わる。


 ――やっぱりだ。


 俺の膝は今にも砂となって崩れてしまいそうだ。

 だってほら、スマホ画面に映し出されたのは、これまでの人生で見飽きた顔の一つだぜ。

 つまり――


『この人はなんと。私のお兄ちゃんです! どうですか? イケメンですよね?

 な~んて! ははは! 顔は中の下ってところですかね?

 あ、冗談だよ! お兄ちゃん! お兄ちゃんはカッコイイよ! 私の中ではね!

 そんな私の中ではカッコイイお兄ちゃんなので、私はチートでお兄ちゃんに贔屓(ひいき)してました。

 つまり私がシステムの裏で、お兄ちゃんを顔認証した兵器は全て攻撃できなくなる、または無効になるよう操作していたんです。

 だから今のお兄ちゃんは、最強です!

 きっと俺TUEEE!って自分に酔いしれてたんじゃない? 違う? お兄ちゃん?

 まあ、それはそうと、皆さん、こんなお兄ちゃんのこと、羨ましいですよねー? そうですよね~?

 調査したわけじゃないですが、きっとここで戦ってもらってる皆さんは、この“(チート)”が適用されたいと思っているんじゃないですか?

 そしてこの“力”を使って生き残り、さらには自分が望む秩序(せかい)を作りたいと思ってるんじゃないですか?

 お兄ちゃんが、軍隊を作って戦っていたように。


 そんな皆さんに、朗報です!


 今からお兄ちゃんを殺した方に漏れなく、この“力”を差し上げます!

 私がチートであなたを無敵にしてあげます!

 だからお兄ちゃんを見かけたら、その勇気があれば、お兄ちゃんを殺しても構いません!

 そういうことです!

 では皆さん、検討を祈ります! 生きていれば、またいつか!』


 〈妹ラジオ〉は終わった。

 と同時に、今まで仲間だった隊員たちの視線が、一気に俺に注がれる。


 まあ、そうだな。

 そう、なるよな……


 そして隊員たちは、一斉に武器を持ち、俺に向かって構えた。

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