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妹が人類を滅ぼしかけていて、ヤバい。  作者: 束冴噺 -つかさしん-
第2章 ようこそ、妹が人類を滅ぼす世界へ
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今から人類は滅びることになりました

兄:ヨリ(主人公)

妹:ハヅキ

〈ガルディア〉:軍事用に開発された兵士ロボット

 銃声が、鳴り響いた。


 ――俺は死んだのか?

 しかし、それを確かめる術なんてあるのか?

 当たり前だが、俺は死んだ経験なんてない。

 ゲームであればチェックポイントからやり直せるが、現実はどうなんだ?

 全ての記憶が失われて、魂も消えて無くなるのか?

 それとも誰かの赤ちゃんに生まれ変わって、全く新しい人生が始まるのか?

 知らないが、俺は暗闇の中で、こんな声を聞いた。


「はーい! 一旦、ちゅーだーん!」


 しかも声の主は……え? 俺の妹?

 まさか妹が、キューピットになって俺をあの世に導いてくれるってことなのか?

 ……まあ、それはそれで、まんざらでもないシチュエーションだが、どうせならハヅキ、それはゆっくりと老後生活を堪能した後にしてくれないか?


 俺は目を開ける。


 すると俺の腕の中には、チエちゃんがいた。

 そして俺は、息ができた。

 ……ということは、つまり、俺はまだ、生きている……?


 俺は振り返り、銃口を向ける〈ガルディア〉を見上げる。

 しかし〈ガルディア〉は俺たちに銃口を向けたままで、完全に静止している。

 しかもそれはこの〈ガルディア〉だけでなく、他の〈ガルディア〉たちも一緒だ。

 陳腐な表現かもしれないが、まるでゲームのポーズボタンが押されてしまったかのように、〈ガルディア〉たちは固まって動かないのだ。

 だが不可解なことは、それだけじゃない。


 突然、妹が現れた。


 妹は〈ガルディア〉たちに怯えることなく、むしろ悠然と歩きながら、着陸しているティルトローターに向かっている。

 そんな妹の手には、なぜかM16自動小銃が握られ、その銃口は空に向けられている。

 さっきの銃声は、もしかしたら妹がアレを空にぶっ放したときのものなのだろうか?

 そしてもう片方の手には、先端にスマホが取り付けられた自撮り棒が握られていて――


 ――ポケットに入っていた俺のスマホが、突然鳴った。


 しかしこの現象は、俺だけじゃなかった。

 チエちゃんのスマホも、市民公園にいるみんなも、突然スマホが鳴ったのだ。

 俺は鳴り続けるスマホをポケットから取り出す。

 するとなぜか、俺のスマホは勝手にビデオ通話アプリを起動させていた。

 さらに起動したビデオ通話アプリに映し出されていたのは――


『あ! 人類の皆さん! こんにちはー!』


 どういうわけか、ビデオ通話アプリに映し出されていたのは、俺の妹だった。

 自撮り棒で撮影している俺の妹が、スマホの中で喋っている。

 当然、それは俺だけじゃなくて、みんなのスマホも同様だ。

 だから市民公園は、妹の声が何重にも重なって木霊する。

 妹は続ける。


『突然ですが、皆さん。今から人類は滅びることになりました。量子ネットワークによって接続された〈ガルディア〉たちを始め、全ての兵器と、全ての軍事システムは、人類への攻撃を一斉に開始します』


 な……何を言っているんだ? 俺の妹は?


『でも皆さん。人類は滅びますが、簡単に滅びないでください。簡単に滅びちゃうと面白くないので、必死に逃げてください。必死に逃げて、最後に殺されちゃってください』


 それから妹はティルトローターのタラップを踏み、そのまま機内に乗り込む。

 ティルトローターの4つのブレードが回転する。

 嵐のような突風が市民公園に吹き荒れ、やがてティルトローターは上昇し始める。

 そして妹はティルトローターのテイルハッチから俺たちを――人類を見下ろしながら、こう告げた。


『皆さん。悪く思わないでくださいね。だってこれは、“皆さんが望んだこと”。皆さんが望んだから、人類は滅亡することになったのです。それじゃ皆さん! 頑張ってね!』


 人類が滅ぶ?

 しかもそれは、俺たちが望んだこと?

 ぶざけんな!

 冗談も大概にしやがれ!


「ハヅキー!」


 俺は上昇する妹に向かって叫ぶ。

 しかし回転するティルトローターのブレードの音は凄まじく、俺の声なんて簡単に掻き消してしまう。

 だから俺は妹の名前を何度も叫びながら、チエちゃんを抱えてティルトローターに駆け寄る。

 すると妹は俺の存在に気付いたようだ。

 俺と目が合う。

 だが妹に、ティルトローターから降りてくる気配はない。

 それどころか、ティルトローターの上昇は続いている。

 そして最後に、妹は自動小銃を置いて、その手を俺に向かって振った。

 じゃあね、バイバイ、と言うように。

 妹のリアクションは、それだけだった。


 それからティルトローターは轟音をまき散らしながら上昇を続け、やがて空の彼方へと消えていった。


 直後、停止していた〈ガルディア〉たちが、再び動き始めた。

 つまりそれは、今から人類の滅亡が始まるということ――


 ちょっと待て!

 いきなり人類が滅亡することになったと言われても、何をどうすればいいんだ?

 意味がわからねーよ!

 それに、何で俺の妹が人類を滅ぼさなければならないんだ?

 俺の妹に、何が起きたって言うんだよ?

 ……ったく、それを考えるためには、もう少し時間を遡って話す必要があるかもしれない。


 じゃあ、話そうか。

 俺に“妹が当選した”、あの日のことから――

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