【十、小高い木】
毎年七月七日の七夕にSF短編を投稿するという『七夕一人企画』を実行しています。今年もなんとか「星に願いを・2016」をお届けできそうです。七夕の「織姫と彦星の物語」に因んだSF短編をご堪能くださいませ。【七夕一人企画・2016】
コンパートメントの小窓から差し込む、朝の青い日差しで目が覚めた私は、ワークスーツに着替えた。今晩、いよいよ染料を採集する。私はちょっと緊張していた。基本的には植物だと言っても、夜は動物並みに行動する生き物だという話だ。それはもう、私の想像をはるかに上回っている。今日の昼間に行われるブリーフィングでは、聞きもらしがないようにしっかりとメモを取らなくては。
そう思いながらラウンジに足を踏み入れる。天窓から差し込む青い光に照らされたラウンジは、昨夜のランチキ騒ぎのままだった。ウォッカとワインの空ビンが倒れてテーブルの上にシミを作り、おつまみは食べ散らかして床に散乱していた。
「そっか、昨夜は飲み会だったんだわ」
ビンやゴミ、食べ残しをダストボックスに片付けて、奥のキッチンからオレンジジュースを持って窓際のテーブル席に腰を下ろした。ジュースを口に含みながらラウンジの防護シャッターを開けた。
「わ、わ! あれは何なの?」
それを見て、私は大きな声を上げてしまった。おとといまでに作った、ルキァのいう『罠場』に緑色の大きな山と少し小さい山がそこにあったのだ。かなり広くノッポを開墾したはずの場所だったのに、その大きな木と小さな木で罠場は埋め尽くされていた。その二本の小高い木を囲む四方向の位置に、鈍色の徳利がにらみを利かすように配置されていた。
「おはようございます。オーリヒさんは朝が早いのですね」
私の後ろから若い男の声がした。誰なのかは分かっていたけれども、私は振り返ってしまった。
「あ、キーン君……おはようございます」
間抜けな感じがしたけれども、私はあいさつでごまかした。キーンは私を見ずに窓の外を注視していた。
「あれが『ネペンドン』ですよ」
「昨日は何もなかったのに、一夜で大きな木が生えたみたいになっているわ」
「あれがワサワサと動いてここまで来たんですよ。ブタドックリが予定通りにここへ連れてきたのです」
「こんもりとした、ただの木にしか見えないわ。あれが動くような雰囲気を全く感じないのだけど」
「夜になると、ネペンドンはその姿を変えます。今は下側が大きい円すい状ですが、夜の活動期になると、奥にしまいこんだ『節』を高々と持ち上げて、ツルが上方へと上がり、逆円すいのカタチに変化します。そして、ツルの間に隠れていた捕獣袋と触手葉を振り回して動物を追いかけます」
「ちょっと怖いわね」
「大丈夫ですよ。われわれがしっかりとお守りしますから」
「ありがとう。よろしくお願いしますね」
「任せてください」
キーンはそう言うと私の右手の甲にそっと手を重ねた。キーンの手はとても温かだった。私は右手を引っ込めることもなく、逆にキーンの手に左手を重ねた。
「あらあら、朝からラブラブなお二人さんなのねぇ」
ルキァが頭をボリボリとかきながら、スエットのラフな姿で現れた。私はキーンの手に重ねられ、重ねていた両方の手を慌てて引っ込めた。
「ラブラブって何よ、ルキァ! 私とキーン君はそんな関係なんかじゃないわ。ルキァはいつもそうやって私を冷やかすんだから!」
「あらら、そうかしら? オーリヒのほっぺ、少し赤いわよ?」
私は慌てて頬に手を当てた。
「え? ホント? やだやだ。本当に赤い?」
「もう、すぐに引っかかるんだから。昨夜は飲み過ぎたから、あたしは頭が痛いのよ。少し静かにしてくれるかな?」
ルキァは水を飲みながらこちらに歩いてきて、窓の外を見た。
「おぉ、居る、居る。それにしてもでっかいネペンドンだなぁ。それも二体だ! うれしいね。あたしはアクティのやつにチューしてやりたいよ。ところで、アクティはどうしたの? まだ寝ているのかしら?」
キーンは困った顔をしながら答えた。
「夜中に吐いていましたから、まだ寝ているでしょう」
キーンの返答に、私とルキァは顔を見合わせて吹いた。
「意外と酒に弱かったんだね、アクティのやつ」
ルキァがそう言うと、キーンがさっきよりももっと困った顔をして言った。
「いいえ、アクティさんは下戸ですよ」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
【七夕一人企画の宣伝】
毎年七月七日に個人で勝手に騒いでいる『七夕一人企画』です。
今年で十年の節目を迎えるこの企画、一人で勝手に七夕SF企画なのですが、自分の小説が毎年一つずつ積み重なっていく楽しい企画です。




