第四十八話:冬治と波恵、奏
第四十八話
本日クリスマスパーティーが行われるとのことで、いつもより早い放課後……というより明日から冬休みなので奏様から休日にしていいと言われている。
ちょうど波恵さんに告白しようと、自分の気持ちをちゃんと伝えようと考えているので彼女の下駄箱に手段が古いと思いつつラブレターを仕込んでおいた。
奏様の執事とはいえ、羽津学園の生徒である為に下駄箱はちゃんと存在している。入っているのは革靴だ。
「ん?」
そして、俺の下駄箱の中にも何やら仕込まれていた。
一見するとラブレター。手にとって裏返してもハートのマークで封がされているだけのラブレターだった。
「これも執事効果か」
やたら女子にもてるようになった気がする。
「冬治君、お茶買ってきてよ」
「執事なんだから宿題やってよ」
「あ、今度荷物持ちやって」
「午後からは私のね」
「じゃあ、来週の日曜は予約っ」
これはもてているとは言わないな。体のいいぱしりってやつだ。これらが実現することはなく、奏様の『冬治はあたしの執事よっ』という一喝で収束へと向かった。
まぁ、それはおいておくとしてこのラブレターをくれたのは一体どこの誰だろう。開けてみればわかるのだろうか。
「……放課後、校舎裏に来てください、か。名前は書いてないし、文体もパソコン入力だからなぁ」
誰かのドッキリの恐れがある。その場所へ行ったらクラスのみんなから……いや、学園中の生徒が俺の事を笑うに違いないっ。
「って、ないか」
クリスマスにそこまで酷い事をしてくる連中がこの学園に居るとは思えない。よって、このラブレターは本物である。
「証明終わり。よし、行くか」
何にせよ、早く終わらせなければならない。何故なら、校門前に波恵さんを呼び出しているからだ。
校庭の隅を通り、校舎裏へと向かう。クリスマス独特の雰囲気が今では学園内にも満ち溢れていて校長先生や学園長がトナカイとサンタクロースの姿で会議を開いていたりする。
さすがに学園内でいちゃいちゃしている生徒はおらず、みんながクリスマスパーティーの始まりを待っているようだ。
一つだけある電灯の下、俺を待ってくれている人の姿が浮かび上がった。
「奏様」
「やっときたわね、冬治」
何処か緊張した面持ちで腕組みしているのは俺がお世話している人物だ。
「あの、もしかしてトイレに行こうとして迷子に……」
「ボケたら、今晩屋上に縛り付けるからね」
「すみません」
そう宣言した後、奏様は一度咳払いをした。そして改めて静かな気配が辺りを包みこむ。何を言われるのかわからないのに、俺の口の中は乾いていた。
「はっきり言うわ。あたしは冬治の事が好き。付き合って」
「奏様……使用人にそのような事は」
「黙りなさい。あんたは所詮バイト執事でしょ。そんな事を言う必要は、ないのよ。お目付け役の言葉じゃなくて、あんたの言葉で返しなさい」
「そうですか、ああ、違う。そうか、じゃあ答えるよ」
綺麗な言葉を頭の中で考えたって結果は変わらない。
「ごめん、俺は駄目だよ」
「どうして」
「俺には好きな人がいるんだ。今も待たせてる……じゃあな」
まっすぐ視界の先に居るのは今は奏だけ。
怒らせた事は何度かあるし、笑わせた事も何度かある。ただ、泣かせた事は一度もなかった。
泣いている奏を笑顔にしたいと思うが、俺にはやることがある。
踵を返して俺は校門へと走って向かう。何度か生徒とすれ違うが、誰もが笑顔で話しあっていたり、浮かれていた。
「やっぱり、冬治さんでしたか。誰かと思いましたよ」
校門前にちゃんと波恵さんが待ってくれていた。珍しい事にメイド服ではなくサンタの格好をしている。
「あれ? 手紙に書いていませんでしたっけ」
「え? あ、本当だ」
ボケか天然かは置いておくとしよう。
緊迫した状態から走って戻ってきて、今度は俺が告白する番だ。
「あの、波恵さん」
「その前に冬治さん、主泣かせの執事は失格ですよ」
見てたのだろうか。でも、謝る必要はない。
「俺は俺です。執事の言葉は欲しくないと奏様も言いましたから」
「それで、冬治さんはどうしてここに波恵を呼び出したのでしょう」
おそらく知っていて聞いてくるのだろう。彼女なりに早く終わらせたいのか、それとも別の意図があるのかはわからない。
「俺は、波恵さんの事が好きです。最初は強引に流されていましたけど……一緒に生活していて大切だって思いました」
「……これからも奏様と一緒ですが、それでもいいのですか?」
いつだったか寂しいと感じた事があった。それはもう、過去の話だ。
「構いません。波恵さんと一緒に奏様を幸せにしてみせます」
俺が言ったと同時に暗がりの空から雪が舞ってきた。
「わかりました」
「あの、いいんですか?」
「元から波恵は冬治さんの事が好きでしたから。一目ぼれ、とはちょっと違いますけどね」
いまいち実感がわかないものの、俺の告白は成功したようだ。
「ああ、言い忘れていましたが冬治さん」
「はい?」
屋敷に辿り着いて俺の彼女となった波恵さんは笑っていた。初めて見るような笑顔だ……そうだな、たとえるなら浮気を発見しておかしくなった人みたいな?
「奏様に手を出したら彼女として、メイドとしてただではおきませんので覚悟していてくださいね」
「何だ、そんな事ですか。するわけないじゃないですか」
「冬治―っ」
「え?」
誰かが走ってきて俺に抱きついてきた。
「お帰り、冬治」
「か、奏様?」
俺の胸に顔を埋めているのは奏様だ。一体、どうしたのだろうか。
「一体これは?」
「え? あんたはあたしの執事でしょ?」
「そうですけど……」
「だったら別にいいんじゃないの? 変な事をしているわけじゃないし。こけそうだったからこうしただけよ」
「そうですか……って、うわっ」
波恵さんが笑っていた。これでもないってほどの昏い笑顔だった。
「冬治さん、アウトです」
「え……」
「今後もこうやってこけたりするかもしれないからその時はよろしくね、冬治」
波乱の幕開け……脳裏にそんな文字がはっきりとした字で浮かび上がるのだった。
じゃあ早速波恵編総括を。最初から最後まで不安でした。いっそのこと千鶴を使えばよかったと後悔。まぁ、こんな感じですね。うん、終了。えー、どうでもいいことですが今作は前作、気になるあの子と惚れ薬だったかな。それの続きだったりします。そして次回は転校生と一切交流が無かった場合の冬治君が主人公です。次作、気になるあの子と吸血鬼です。ああ、最後にいつも読んでくれてありがとうございます。なんだかんだいって人が読んでくれているのはうれしいものです。文やって結構年月経ってますけど上達していないのは打ち込み度合いが足りないからでしょうねぇ……次こそはっ。




