22.新庄匠vs真カオス
とりあえず、1部全部会話などの空行開けなどの修正作業完了しました。
0部も鋭意修正中です。多少は読みやすくなったと思います。
◇22
周囲には焼け焦げた死体の臭いが立ち込める。鼻が曲がりそうだ。あちらこちらに丸焼けの死体が転がっている。原形を留めていない車両からのガソリンの臭いも漂っている。〝組織〟の四人組を挟んで、僕たち公安部特務一課チームと〝カオス〟は対峙する。
「また君たちか」
カオスは一言小声で呟く。
黒い外套をまとったカオスの顔はまだあどけなさが残る少年のものであったが、眼光だけは鋭く、こちらを見据えている。
「公務執行妨害並びに、殺人の現行犯で逮捕する……!」
君島は具現化された銀の拳銃の銃口をカオスに向け、そう呟く。
「久しぶりだな…… カオス、いや、東条浩平と呼んだ方がいいか!」
僕は叫ぶように言う。
「東条……この〝器〟は君の友達のものだったね。残念ながら器の人格や記憶は、僕の一部に過ぎないよ。そして僕は、闇の世界の調停者なんだよ」
カオスは囁くように答える。
「どうやら東条は完全に呑み込まれているようだな!」
僕は大剣を身構えながら、カオスの方目指して走り出す。茫然と立ち尽くす〝組織〟の四人組が邪魔だ。完全にカオスに〝飲まれて〟いる。
「〝干渉波〟!」
カオスは一瞬静かに目を閉じ、そして見開くと同時に右手を前に突き出した。
「そこの四人! 下がれ! 死ぬぞ! 行け! ヘヴィバスター!」
僕は四人の傍まで来ると、重力波をカオス目がけて疾走させた。
君島も走りこんで、シルバーバレットの射程圏内にカオスを入れる。
「奴の心臓を貫く!」
君島はそう叫ぶとありったけのシルバーバレットをカオス目がけて撃ち込む体制をとった。
そして、カオスの右の掌から、強烈な衝撃波が僕と四人組目がけて疾走してくる。範囲も広い。
僕の重力波とカオスの衝撃波がぶつかり合う。
衝撃波は、僕の重力波と君島のシルバーバレットを呑み込んでいった。そしてそのまま、僕と、ただ茫然と立ち尽くしている四人組に襲いかかろうとした。
僕は剣先を地面に叩きつけて、瞬時に重力場を形成し、カオスの放った衝撃波を緩和した。
僕及び四人組への直撃は免れた。
そして、余波が君島を襲うが、君島のシルバーバレットが散弾と化しさく裂したことによってそれは消滅した。
正直、この四人組が邪魔で仕方がない。こちらに敵意はないことは解る。しかし、こっちは美晴をやられている。そう簡単に許すわけにはいかない。だが、今はカオスとの戦いに専念しなくてはいかない時だ。それにしても、本当に邪魔だ。
「死にたいのか! どけ! 邪魔だ!」
僕は美晴への感情を抑制し、傍にいる四人に怒鳴る。
「解った……」
双剣使いがそう言って、戦闘圏外に立ち退こうとすると同時に、残りの三名も僕の傍から逃げ去る様に去って行った。
一瞬背中を向けた双剣使いをそのまま殺してやろうと思ったがそれは僕の理性が許さなかった。
(俺はカオスとは違う。無差別殺人はしない!)
僕はそのままカオス目がけて走りだす。両手に大剣を携えながら。そして、カオスに接近する。
「貴様は何故、その力を表の世界で使わないんだ! 貴様がその気だったら、世界の王にだってなれたハズだ!」
ヘヴィバスターをカオス目がけて打ち込むため、間合いをとろうと走り出す僕。
僕がカオスを許せない理由、それは、こいつだけは生かしておいてはいけない、そう本能が伝えるからだ! こいつは人を不幸にする。絶対に打倒しなくてはいけないんだ。
「富や名声なんて、所詮は人の作りしまやかしのものだよ。僕が望むのはただ一つ、〝異能者〟たちの闇の世界でその調停者であることだけだよ」
再び、衝撃波を掌から練り出すカオス。
僕は瞬時に大剣を振りかざして重力波を放ち、それを相殺する。
「世俗を捨てたようなフリして、結局貴様は自分の都合のいい世界の中で、自分を特別な存在としてゆきたいだけだろう!」
僕は再度、カオス本体へ、ヘヴィバスターの照準を絞り、走り出してゆく。
「都合のいいのは、無知蒙昧な愚民たちのほうだよ。人の世は不条理なもの。だから僕が正すんだよ。異能は、人の世の裏にのみあればいいのさ」
カオスはそう言うと、掌から今度は火の玉を発射してくる。
火の玉を直接大剣でなぎ払ってゆく僕。
「人はただ必死に生きているだけだ! それに干渉する権利なんて貴様にはないんだよ!」
僕はカオスの間合いを取り、そして突撃してゆく。
「異能を求める愚民に対して裁くだけだよ。それは調停者としての僕の使命。君がしゃしゃり出る幕ではないさ。異能者が人の世に取り込まれることで、どれほどの災いを生むか、君も分らないとは言わせないよ」
剣先がカオスに迫る。
そして、
「〝亜空の障壁〟」
カオスは叫んだ。カオスを取り巻く周囲が赤黒い障壁で覆われる。究極防御ポテンシャルが発動する。僕の蒼白いヘヴィバスターは跳ね返されてしまった。
「分るでしょう。僕の使命は、人の世と異能との天秤の釣り合いを守る、調停者であること。誰かがその使命を果たさなければ、人の世は混乱を招くよ」
カオスは赤黒い亜空の障壁を纏いながら叫んだ。
「貴様は、自分の勝手だけで、俺たちの世界に介入し、多くの人々を殺し、そして人々を不幸にする!」
僕は再度大剣を構え直してカオスとの間合いを取る。
「君島! シルバーバレットだ!」
そう君島に叫ぶ僕。
まずは君島のシルバーバレットで楔を入れ、そして歌姫を発動させ、カオスのポテンシャルを弱体化させる。そして止めでヘヴィバスターを打ち込む、というのが作戦だ。歌姫は僕の精神高揚を目的にすることも想定している。
「お願い! 効いて!」
君島はカオス目がけてシルバーバレットを連発して撃ち放ってゆく。何発も何発も。〝銃声〟が響き渡る。
「カオス! 貴様の歪んだ使命感とやらは、この俺が砕く! 絶対にだ!」
再度間合いを取る僕。と同時に周囲を一度見渡してみる。
君島は〝亜空の障壁〟目がけてシルバーバレットを何度もリロードを繰り返しながら撃ち込んでいる。ファビウスはその後方で、真剣な表情をしたまま立っている。その脇には二階堂警視がこちらを凝視している。さらに後方には、アンプやらスピーカーやらが設置されている。葵はそこでいつでも〝歌姫〟を発動できるよう、準備している。葵の専属ボディガードのように仁王立ちしている田中さん。いつ、別のフォルダーが葵の元へ介入してくるかどうか、羅針盤やらを見ながらダウジングを行う大林さん。
そして少し研究所から離れた位置に例の四人組が控えている。
「これが不条理というものさ」
カオスが叫ぶ。カオスは腕を組み、仁王立ちしている。
君島の放つシルバーバレットは、亜空の障壁に罅はいれるものの、それはすぐ収束してゆき、大きく広がることがない。完全にシルバーバレットを封じ込めていた。
「わ、私のシルバーバレットが、効かない……」
撃ち込むのをやめ、君島が途方に暮れたような表情でカオスを見つめる。
「……やはり、パワーアップしていますね。完全体のカオスは」
ファビウスが静かに呟いた。
「お兄ちゃん! 〝歌姫〟はいつでも可能!」
スピーカー越しの葵の声が響く。
葵の注文通りのスタジオ・ミュージシャンを手配し、ちょっとしたミニライブ場のようにしたのも、〝歌姫〟の発動をより効果的にするためでもある。演奏するスタジオ・ミュージシャンたちは六本木のスタジオにいる。
大きく左右に首を振って、〝歌姫〟の発動を拒否する僕。
「完全体か。大したもんだな。だが! 人間の二年間というものが、どれだけ貴重で尊いものかを、人間を捨てた貴様に示す!」
僕は大剣を天にかざしした。大剣に願いのすべてを送り込むように意識を集中させる。
そして、僕を中心として、これまでになく巨大な陥没が地面に広がってゆく。
「貴様だって、所詮は人間だったってことを思い出させてやるよ!」
僕が叫ぶ。身体に強力な重力が掛かってくるのが解る。大剣に強力な重力場が形成される。
そしてそのままカオス目がけて走り出す僕。
カオスはニヤリと不敵に笑いながら、その様子を眺めているだけだ。
僕はカオスへの間合いを取った。
「行くぞ! 全力全開のヘヴィバスター、解放!」
ヘヴィバスターが亜空の障壁に食い込む。亜空の障壁は揺らぐことないかに見えた。
しかし、少し、亜空の障壁に僅かな〝歪み〟ができた。
「ま、まさか……いけるの!?」
君島が叫んで僕に問う。
「ぶった切れないのならば、押し潰すだけだ!」
僕は叫ぶ。
そしてその刹那、
「〝ラッシュアワー〟だ! 最強さんよ!」
後ろの方から叫び声が聞こえた。例の四人組のうちの学ランの奴の声だ。
「凄い! 全身に力が漲ってくる……!」
僕のヘヴィバスターの重力場はさらにカオスの亜空の障壁に食い込んでゆく。
「ラッシュアワーの効力は五分間だ!」
とまた学ランの奴の声が響く。
「よし! 〝歌姫〟発動三分前だ!」
二階堂警視がメガホンで後方の葵たちに叫んだ。
「新庄君! 僕の力に敵うと思わないでよ!」
カオスも気合を入れ直して叫ぶ。亜空の障壁はさらに赤黒い閃光を発し、より強固なものへと変貌していった。
「貴様だけは絶対に許すわけにはいかないんだ!」
さらに力を振り絞る僕。
ヘヴィバスターの蒼白い光と亜空の障壁の赤黒い鈍い光とが入り乱れて、火花を散らす。僕の大剣にまとう重力場は、ヘヴィバスターの象徴である、それは具現化された蒼白く輝く大剣の色そのものに変色している。
そして赤黒い光は蒼白い光によって大きく歪められてゆく。
(勝てる……!)
僕は思わず勝利を確信して、口元が緩んでしまい、笑みがこぼれた。
しかし、カオスはまったく余裕の表情でこちらを見つめている。カオスから発するプレッシャーが僕の魂を砕くかのようだ。




