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最弱テイマーとして見捨てられた俺、前世(戦国武将)に目覚めて未知のバグ職【妖将】となる  作者: ぱすた屋さん


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第28話 バズの臨界点。世界ランキング入りと、突如として溢れ出す深層の悪夢


 大宮ダンジョン第九階層、地下帝国の廃墟。

 中層の生態系の頂点に君臨していた『城塞魔獣シージ・ベヒーモス』が、一人の底辺テイマーの泥臭くも完璧な一突きによって沈められた直後。


 インターネットという広大な情報の海において、かつてない規模の『爆発』が起きていた。


『信じられない……ただのテイマーが、中層のヌシを単独で……?』

『しかも無傷だぞ!? 魔法を一切使わずに、ただの物理トラップだけで城塞魔獣を解体しやがった!』

『あの最後のナイフの一突き、何回スロー再生しても美しすぎる……!』

『「運がいい泣き虫テイマー」とかいう大嘘。完全に極め尽くされた暗殺者アサシンじゃねえか!!』

『おい、お前ら! 同接数がヤバいことになってるぞ!!』

『70万……いや、80万人突破!? 海外の巨大フォーラムから一気に流入してきてる!!』

『世界トレンド1位! 配信プラットフォームのグローバルランキングでもトップに立ったぞ!!』


 日本のいちダンジョン探索者の配信が、世界ランキングの頂点に立つ。

 それは、過去に数人のSランク探索者しか成し遂げたことのない、偉業中の偉業であった。

 言葉の壁を越え、ただ純粋な『戦術の芸術』と『圧倒的な現実の暴力』が、世界中の人々の脳髄を焼き切り、狂気的な熱狂の渦へと叩き込んだのだ。


 だが、その世界を揺るがすほどの歓喜と興奮は、たった一つの甲高い警報音によって、冷水に顔を突っ込まれたように凍りつくこととなる。


 ピーーーーーーーーーーッ!!!!

 ピーーーーーーーーーーッ!!!!


 太田佑の脳裏に直接響く、探索者用非常端末からの緊急アラート。

 そして、彼の頭上で滞空する最新型8Kスポンサードローンが、赤いランプを激しく明滅させながら発した無機質なシステム音声。


【緊急警報。緊急警報。】

【大宮ダンジョン深層エリアにおいて、前代未聞の『魔力特異点』の爆発的膨張を観測。】

【空間の断層が崩壊し、深層のモンスターが浅層へ向けて一斉に溢れ出しています。】

【現在地の探索者は、直ちに地上へ撤退してください。繰り返します――】


 ドゴゴゴゴゴゴォォォォォォォッ……!!!


 廃墟の最奥、第十階層へと続く巨大な黒曜石の門。

 先ほど重々しい音を立てて開かれたその深淵の入り口から、鼓膜を物理的に叩き割るような凄まじい地鳴りが轟いた。


「(……来るか)」


 佑は狐面の下で鋭く目を細め、腰の解体ナイフを順手に持ち直した。


 開かれた門の奥から溢れ出してきたのは、ドロドロとした黒い霧の奔流。

 そして、その霧を切り裂くようにして、何千、何万という『絶望』が雪崩れ込んできたのだ。


『ギルォォォォォォォォォォッ!!』

『シャァァァァァァァァァッ!!』


 西洋の甲冑に身を包んだ首なしの騎士『デュラハン』の騎馬隊。

 空を埋め尽くすほどの巨大な蝙蝠の怪物『ヴァンパイア・バット』の群れ。

 さらには、肉体を持たず純粋な呪いだけで構成された『レイス』の大群。

 大宮ダンジョンの深層である第十階層以降にのみ生息するはずの、一つ一つが中層ボスに匹敵する恐るべき西洋の悪夢たちが、狂乱状態となって地上を目指し、一斉に進軍を開始したのである。


『……え?』

『嘘だろ……スタンピード……!?』

『ダンジョンブレイクだ!! 深層のモンスターが溢れ出してきてる!!』

『数が異常すぎる! 画面が真っ黒に埋め尽くされてるぞ!!』

『あんなの、Sランクギルドの総力戦でも止められない数だろ!!』

『太田ニキ!! 早く逃げろ!! いくらなんでもあの数は無理だ!!』


 世界ランキング1位に達した同接80万人の視聴者たちが、今度は一転して、本物のパニックと絶望に叩き落とされた。

 画面越しに見ている彼らでさえ、その圧倒的な死の気配に当てられ、呼吸が浅くなるのを感じていた。


     *


 同時刻、関東探索者ギルド本部の指令室は、文字通りの地獄絵図と化していた。


「大宮ダンジョン、第十階層のゲートが完全に崩壊! 深層のモンスター群が、猛烈な速度で浅層へと上昇しています!!」

「第五階層、第六階層で活動中の探索者パーティから、次々と救難信号! ……ダメです、信号が次々と途絶していきます!」

「ギルドマスター! この規模のブレイクが地上へ到達すれば、大宮の街は三時間で壊滅します!!」


 オペレーターたちの悲痛な叫び声が飛び交う中、白髪のギルドマスターは血の気を失った顔で、巨大なメインモニターを見上げていた。


「バカな……。大宮ダンジョンはまだ『安定期』のはずだ! なぜこれほどの規模のブレイクが突然起きる……!?」


 その指令室の片隅で、特別研究室の雨宮結衣は、自身のタブレットに映る太田佑の配信画面を食い入るように見つめていた。

 彼女の目の下には深いクマが刻まれ、その妖艶な唇はカタカタと震えている。


「(……イレギュラーの連鎖。佑くんがAランクの魔石を異常なペースで吸収し、空間の鍵をこじ開けたことで、深層の主を激怒させてしまったのね……!)」


 雨宮は自分の『共犯者』が引き起こした事態の大きさに、狂気的な歓喜と、それを上回る深い恐怖を同時に感じていた。


「ギ、ギルドマスター! 防衛線を敷くにも、上位の探索者たちの招集が間に合いません! このままでは、大宮の街だけでなく、ダンジョンの直上にある『探索者専用病院』が最初の犠牲になります!!」


 その報告を聞いた瞬間、雨宮の心臓が冷たく跳ね上がった。


「(……探索者専用病院。そこは、佑くんのお姉さんが入院している場所。……もし、あの魔物の群れが地上に到達すれば……!)」


 雨宮はタブレットを握りしめ、画面の向こう側の狐面の青年に向かって、祈るように呟いた。


「佑くん……逃げて。今は、逃げて……!」


     *


 大宮ダンジョン第九階層。

 怒涛のように押し寄せる深層モンスターの大群を前に、これまで佑の後方でコソコソと漁夫の利を狙っていたエリート探索者たちが、完全にパニックを起こしていた。


「ひ、ひぃぃぃっ!! 来るな! こっちに来るなぁぁっ!!」

「魔法が効かない! レイスに物理攻撃が通らないぞ!!」

「助けてくれ! 死にたくない、死にたくないっ!!」


 彼らは武器を放り出し、魔法の詠唱すら忘れて、我先にと来た道を逃げ帰ろうとする。

 だが、恐怖に駆られた無秩序な逃走は、かえって魔物たちの狩猟本能を刺激するだけだった。

 上空から急降下してきたヴァンパイア・バットが、逃げ遅れた魔術師の肩に食らいつき、その血を啜る。

 デュラハンの騎馬隊が、無慈悲な突撃で重戦士の大盾ごと身体を粉砕していく。


 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 エリート探索者たちが次々と悲鳴を上げて蹂躙されていく中、太田佑だけは、その場から一歩も動いていなかった。


「(……ダンジョンブレイク。深層の魔物が一斉に地上を目指している)」


 佑は狐面の下で、極限まで冷徹に状況を演算していた。

 このまま逃げ帰ることは可能だ。彼の『歩法』と、土蜘蛛や管狐による妨害工作を駆使すれば、この大群をすり抜けて地上へ帰還することは決して不可能ではない。


 だが、その計算の果てに導き出された『最悪の予測』が、佑の足を太い鎖のように縛り付けていた。


「(この大群が地上に溢れ出た場合、最初に蹂躙されるのはダンジョンの直上にある施設。……姉ちゃんが入院している、あの病院だ)」


 佑の脳裏に、夕陽に照らされた病室で、青白い顔をして微笑んでいた姉の姿がフラッシュバックする。

 『佑はあんな危ないこと、絶対にしないものね。……私は、佑が無事でいてくれるなら、それだけでいいの』


「(……冗談じゃない)」


 佑の足元の影が、水彩画の黒インクをぶちまけたように、ドロドロと激しく波打ち始めた。


「(前世の俺は、守るべきものを守れず、冷たい泥の中で死んだ。あの無念を、あの絶望を、この現代で繰り返すためによみがえったわけではない)」


 逃げ惑う探索者たちが佑の横を通り過ぎながら、「お前も早く逃げろ! 死ぬぞ!」と叫んでいく。

 視聴者たちも、コメント欄で必死に撤退を懇願している。


『太田ニキ!! 頼むから逃げてくれ!!』

『一人でどうにかなる数じゃない!!』

『早くギルドに助けを呼べ!!』


 だが。


「あ、あわわわっ! こ、こわいよぉ……っ!」


 佑は、わざとらしく悲鳴を上げながら、ドローンのカメラに向かって怯えたフリをした。

 しかし、その足は一歩も後ろへは下がらない。

 それどころか、彼は震える手でリュックサックを開け、先ほど手に入れたばかりの『特大魔級の魔石』――中層ヌシから抉り出した莫大なエネルギーの結晶を取り出した。


「(……戦に絶対はない。だが、大軍を相手にする際、最も効果的な兵法が一つだけある。それは、圧倒的な『地の利』を占拠し、敵の進軍ルートを物理的に塞ぐことだ)」


 佑は、広大な廃墟の中央にある『最も狭い通路』――第九階層から第八階層へと続く、唯一の関所のようなポイントへと向かって歩き出した。

 何万という深層の魔物が殺到してくる、まさにその真正面へと。


「(俺の背後には、姉ちゃんがいる。ならば、この細道は、何人たりとも通すわけにはいかない)」


 佑は狐面の下で、タヌキ親父の仮面を完全に脱ぎ捨て、戦場で何千もの命を刈り取ってきた『妖将』の素顔を露わにした。

 その瞳に宿るのは、怯えなど微塵もない、純粋で絶対的な殺意と狂気。


「(いざ往け、我が兵たちよ。これより先は、一切の出し惜しみなしだ。限界まで喰らい、この絶望の大群を、一匹残らず泥濘に沈めてやれ)」


 佑は、手にした特大魔石を、自身の足元で渦巻く漆黒の影の中へと惜しげもなく放り込んだ。


 ドォォォォォォォォンッ!!!


 特級に近い莫大な魔力エネルギーを喰らった三匹の妖怪たち。

 管狐、塗り壁、土蜘蛛。

 彼らの霊格が、システムの限界値リミッターを完全に破壊し、かつてない『暴走状態』へと突入していく。


「ひぃぃぃっ! お、お化けがいっぱい来るぅぅっ!」


 大宮ダンジョンの深淵から溢れ出す黒い波。

 それに立ち向かうのは、怯えた声を上げる狐面の青年たった一人。

 8Kの超高画質ドローンが、そのあまりにも絶望的で、しかし絵画のように美しい『決戦の幕開け』を、世界80万人の網膜へと焼き付けていた。

 

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