表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱テイマーとして見捨てられた俺、前世(戦国武将)に目覚めて未知のバグ職【妖将】となる  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/34

第25話 スポンサーの獲得。最新型ドローンの導入で、殺戮の解像度が上がる


 関東探索者ギルド本部、地下の特別研究室。

 無数のモニターが並ぶ薄暗い部屋の中で、白衣姿の雨宮結衣は、手元のタブレットに表示された電子契約書に踊る『莫大なゼロの羅列』を見つめ、妖艶な唇を三日月のように吊り上げていた。


「あははははっ! 素晴らしいわ、本当に最高! まさか国内最大手の魔導重工企業が、こんないとも簡単に首を縦に振るなんてね!」


 彼女の目の前には、ギルドの幹部ですらおいそれとは手を出せない、最新鋭の軍用・探索ドローンの試作機がケースに収められて鎮座していた。

 企業側が提示した条件はただ一つ。『現在、世界中で最もバズっている謎のテイマー配信に、自社の最新ドローンを試験導入させ、その圧倒的な性能を全世界にアピールすること』。


「既存のエリート探索者たちの魔法特化の配信じゃ、視聴者はもう満足できないのよ。彼らが求めているのは、もっと泥臭くて、理解不能で、それでいて圧倒的な『死の芸術』」


 雨宮はキーボードを叩き、大宮ダンジョンの深層ゲート付近にある無人の中継ポイントへと、その最新型ドローンを転送するコマンドを入力した。


「さあ、見せてもらうわよ、佑くん。あなたのミリ単位の芸術的な殺戮を、8K解像度と超高速度カメラで、全世界の網膜に焼き付けてあげるわ」


 狂気的な研究者の瞳には、己の共犯者がこれから見せるであろう、さらなる極上の『ショー』への渇望がギラギラと燃え盛っていた。


     *


 大宮ダンジョン、第八階層の最奥エリア。

 地底湖と水脈のエリアを抜け、第九階層へと続く巨大な鍾乳洞の入り口付近にある安全地帯セーフエリアで、太田佑はギルドの転送ポータルから排出された銀色のカプセルを見下ろしていた。


「(……牝狐め。また何か厄介なものを送ってきたな)」


 狐面の下で小さく溜め息をつきながら、佑がカプセルを開けると、中から現れたのは、これまで使っていた無骨な標準型ドローンとは全く異なる、流線型の漆黒の機体だった。

 カプセルに同封された雨宮からの暗号化メモには、こう記されている。


『大口のスポンサーを獲得したわ。最新型の生体追尾機能付き、超高画質・高速度撮影ドローンよ。あなたの動きをコンマ一秒の狂いもなく追従するから、思う存分暴れてちょうだい♡』


「(……なるほど。映像の質を上げて、さらに外野の熱狂を煽る腹積もりか。悪くない。姉ちゃんの治療費を稼ぐためにも、使える盤面はすべて利用するまでだ)」


 佑がドローンの起動ボタンを押すと、漆黒の機体は一切のプロペラ音を立てることなく、無重力のようにふわりと空中に浮かび上がった。

 レンズの奥で、高性能な魔力センサーが赤い光を明滅させ、佑の瞳の動きすらも完璧にトラッキングし始める。


「あ、あの……。新しいカメラが届いたみたいです。ちょっと、写りが良くなったかな……?」


 佑はわざとらしくドローンに向かって手を振り、気弱な声を張り上げた。

 その瞬間、配信プラットフォームの画面が切り替わり、世界中の視聴者のデバイスに、かつてないほど鮮明で圧倒的な画質の映像が叩きつけられた。


『ファッ!? なんだこの画質!!』

『急に8Kになって草www 映画かよ!』

『鍾乳洞の滴る水滴の一つ一つまでハッキリ見える……!』

『スポンサーついたのか! そりゃ同接40万超えのバケモノコンテンツだもんな』

『おい、太田ニキの狐面の傷までクッキリ見えるぞ。これ、本当に戦闘中の動き追えるのか?』


 視聴者たちが画質の劇的な向上に驚愕している、まさにその時だった。


 グルルルルルル……ッ!


 鍾乳洞の奥底から、腹の底に響くような低い唸り声がこだました。

 現れたのは、全身の筋肉が鋼鉄のように引き締まり、四肢に紫色の魔力炎を纏った巨大な魔獣、『ブラッド・レオパルド』の群れだった。

 第八階層から第九階層にかけて生息する、Aランクに片足を突っ込んだ超高速の暗殺獣。

 そのスピードは、エリート探索者の動体視力ですら捉えきれず、瞬きする間に喉笛を食いちぎられると言われている。


「ひぃぃっ! ヒョウ!? なんかすごく速そうなのがいっぱい来たぁぁっ!」


 佑は悲鳴を上げながら、腰の解体ナイフを抜いて後ずさる。

 だが、その声とは裏腹に、佑の足元の影では『管狐』と『土蜘蛛』が、すでに主の殺意に呼応して静かに陣形を展開し始めていた。


『ブラッド・レオパルドだ! ヤバい、こいつら速すぎる!』

『普通のドローンじゃ絶対に残像しか映らないぞ!』

『太田ニキ、早く逃げろ!』


 視聴者の警告を置き去りにするように、先頭のブラッド・レオパルドが弾丸のような速度で佑へと飛びかかった。

 その爪が空気を引き裂き、致命的な一撃が佑の首筋へと迫る。


 ――だが、ここで最新型ドローンの『超高速度撮影機能』が真価を発揮した。


 ドローンのAIが戦闘の激化を検知し、自動的にシネマティックなスローモーション(ハイフレームレート)モードへと映像を切り替えたのだ。

 世界中の視聴者の画面の中で、時間の流れが極限まで引き伸ばされた。


「あ、あわわわっ!」


 スローモーションの映像の中で、怯えて転びそうになっているように見えた佑の動き。

 だが、高解像度のレンズは、彼が『ただ転んでいるわけではない』という残酷な真実を、克明に世界へと暴き出した。


 佑の足元。水滴が滴る岩肌を蹴るその一歩は、重心の上下動が完全にゼロだった。

 古流武術の極意である『無足』の歩法。

 怯えて無様に振り回されているように見えた両腕は、ブラッド・レオパルドの鋭い爪の軌道を、ミリ単位の『最小の動き』で完璧に躱している。


『えっ……?』


 視聴者の一人が、思わず漏らしたような短いコメントが流れる。

 さらに、8Kの圧倒的な解像度は、これまで誰も視認できなかった佑の『最大の魔法トリック』を捉えていた。


 鍾乳洞の僅かな燐光を反射して、空中に『キラリ』と光る極細の線。

 ――土蜘蛛の粘糸だ。


 スローモーションの中、空中で姿勢を変えようとしたブラッド・レオパルドの足首に、その極細の糸がピタリと絡みつくのが見えた。

 空中で強引に制動をかけられ、致命的な体勢の崩れを起こす魔獣。


「(……獣の動体視力など、所詮はその程度。速ければ速いほど、己の『死の軌道』に気づけない)」


 佑は狐面の下で冷徹に計算し、逆手に持った解体ナイフを、まるでそこにある空き箱にスッと手を入れるかのような、自然で無駄のない動作で突き出した。

 その刃先が向かうのは、空中で完全に無防備となったレオパルドの、首の骨の継ぎ目である頸椎の僅かな隙間。


 プツンッ。


 筋肉を断ち切り、神経を寸断する音が、高性能マイクを通じてクリアに配信に乗り上がった。

 血の一滴すら無駄に飛び散らない。外科医のメスよりも精密で、戦国の剣術よりも洗練された、純粋な『死の点穴』。

 着地する間もなく、空中で即死した魔獣は、光の粒子となってボロボロと崩れ落ちた。


 そこまでの一連の動作が、最新型ドローンのカメラによって、あまりにも美しく、残酷な芸術として全世界にノーカットで映し出されたのである。


『………………は?』

『ウソだろ……おい、今見たか……?』

『スロー再生で完全に分かった。あいつ、転んでたんじゃない。攻撃をミリ単位で見切って躱してたんだ!』

『それにあの光る糸! 空間にワイヤーを張って、相手の動きを封じてた!』

『運がいいとか、見えない守護霊が勝手に倒してるとか、全部嘘だったじゃねえか!!』

『あのデタラメに見えたナイフの突き、相手の頸椎の隙間に狂いなく滑り込んでたぞ……』

『こんなの、ただのテイマーじゃない。戦神……いや、極め尽くされた「暗殺者アサシン」だろ!!』


 これまで「運が良い泣き虫テイマー」というフィルター越しに楽しんでいた視聴者たちの脳天に、圧倒的な現実の暴力が叩きつけられた。

 太田佑という存在は、運でも奇跡でもない。

 己の肉体と、計算し尽くされた罠という『兵法』を用いて、強大なモンスターを一方的にハメ殺す、絶対的なプレデターだったのだ。


 コメント欄が、ドン引きと恐怖、そしてそれを凌駕するほどの狂気的な熱狂で爆発する。

 同接数は一気に五十万人を突破。もはや彼から目を離せる人間は、この地球上に存在しなかった。


「あ、あいたた……。なんか、ヒョウさんが勝手に転んでナイフに当たっちゃいました……。怖かったぁ……」


 佑はナイフを隠し、相変わらずの震え声でドローンに向かって愛想笑いを浮かべた。

 だが、もはやその大根芝居を信じる者は誰もいない。

 むしろ、その白々しい嘘すらも、底知れぬサイコパス性を際立たせる最高のエンターテインメントとして消費されていた。


「(……ほう。このドローン、こちらの動きに合わせて完璧な位置取り(アングル)をキープしやがる。これならば、俺の兵法をさらに効率よく組み立てられそうだ)」


 佑は内心でドローンの性能に舌を巻きつつ、次々と襲い来るブラッド・レオパルドの群れへと向き直った。

 もはや隠す必要はない。いや、最初から隠す気などなかったのだ。

 ただ、外野が勝手に誤解していただけであり、映像の解像度が上がったことで、戦国武将としての『真の姿』が浮き彫りになったに過ぎない。


「(さあ、次だ。俺の進軍を阻む獣どもよ、存分に踊って見せろ。姉ちゃんを救うための特級魔石は、この奥の深層にあるのだから)」


 水彩画のような青い燐光に照らされた鍾乳洞の中で、狐面の青年は次々と現れるAランク級の魔獣たちを、糸とナイフ、そして見えない壁(塗り壁)を用いて、流れ作業のように解体していく。

 血肉が舞い、光の粒子が弾ける美しき地獄の舞踏会。


 そして、その惨劇の果てに。

 鍾乳洞の最奥、第九階層――中層の『真の関所』へと続く巨大な門が、重々しい音を立てて開かれようとしていた。

 その奥から漂ってくるのは、これまでの魔獣とは一線を画す、圧倒的で濃密な絶望の瘴気。


「(……来たか。深層へ至る前の、最後の番犬が)」


 戦国の亡霊は、狐面の下で獰猛な笑みを浮かべ、さらに深い闇へと足を踏み入れた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ