音楽
注:この話は、「おかしなおかしな教師近藤が何やらとても悩んでいるご様子です」の続きです。
とある中学校の、とあるクラスで、次の授業は音楽なので、生徒たちは音楽室に移動しました。
「あれ?」
一人の生徒がそう声を出し、他のコたちも疑問の表情を浮かべました。
「どうしたんですか? 近藤先生」
そう、彼らの担任教師は近藤なのです。しかし、なぜ音楽室に彼がいるのかはわからず、問いかけたのでした。
「今日の授業は私が行うのだよ」
「ええ?」
生徒たちは驚きました。
近藤の担当教科は謎ということになっています。この流れだと音楽ではなかったのが確定してしまいますが、彼は面倒なのでそこは気にしないことにしました。
そして、授業開始のチャイムが鳴りました。
すると近藤は、ふところからマイクを取りだし、叫びました。
「ミュージック、スタート!」
誰が操作しているのかわかりませんが、言葉通りに室内に音楽が流れだし、彼は歌唱を始めました。
その曲は、学校の音楽の授業という場には不釣り合いとの印象が強い、「ゴールドフィンガー99」で、しかもなぜかバラード調でした。
加えて近藤は、バラード調ゆえにしっとり歌いながら、振り付けはオリジナルのものをちゃんとやるのです。
生徒たちはそのサマをぽかーんとした顔で見ていました。まあ、そうするよりほかなかったのですが。
「よし!」
近藤は歌い終えるとそう口にして、会心の出来といった様子でガッツポーズをしました。
「先……」
生徒の一人が彼に目的を尋ねようとしたときです。
「ん?」
教室のドアが開き、見知らぬ中年女性が入ってきました。出で立ちもですし、飲み屋のママといった雰囲気をプンプンに醸しだした人です。
生徒たちが再び呆気に取られるなか、近藤の隣に立ったその中年女性も持参していたマイクを取りだしました。
そして、近藤が指でパチンと音を鳴らすと、またしても部屋に音楽が流れ始め、近藤とやってきた女性は軽く目配せをしてから、ムード歌謡のデュエットソングを歌い始めたのです。
その後しばらく昭和の空気全開の時間が経過し、曲が終わると、女性のほうは来たとき同様に無言で退出していったのでした。
再び一人になった近藤は、アニメのキテレツ大百科のエンディング曲の「はじめてのチュウ」を、オリジナルそっくりに歌いました。生徒たちはその姿に、ただただドン引きしました。
歌唱し終えると、近藤は教え子たちに向かって、自信に満ちあふれたロックシンガーといった態度で、声が届く距離なのでまったく必要ないのに、マイクを通して言いました。
「センキュー」
彼は何かでかいことをやり遂げたように、異様に胸を張って音楽室から出ていきました。
残された生徒たちは、近藤の奇行は慣れたことなので言葉にはしませんでしたが、このように心の中でつぶやいたのでした。
今日はまた一段と……。




